第9話

それでも私は、毎日、母を車に乗せてショッピングモールに出かける。

どうしてそうしているのか?

何処に行っても居場所が流れるからである。

何をしても邪魔をされるからである。


ショッピングモールを歩いていると、こんな女が出てきた。


「お前はうぬぼれている。お前は40にしか見えない。」


60才をこえた母に私より少し上ぐらいの女が声を掛けた。


母は勿論言い返す。

「私は60を過ぎている。」

しかし、そう言っても引く事をしない。

ついには、

「60代っていうのはな。」と話し始める。

なぜそんな女の話に耳を貸してやったかは分からない。

だが、10分近く私と母はその女の話を聞いてやった。

結局その女は自分で自分のおかしい点に気付いてしまう。だが、自分からは終われない。


母が言った。

「警察呼ぶぞ。」

女は逃げた。


他にもある。


「お前の娘が、嘘ついたからー。」

大きくそう叫んだおばさんが警察に囲まれて連れて行かれる。

誰かと館内で揉めたらしい。

おばさんが叫んだその相手。

見た目、そのおばさんより若い夫婦だった。

その夫婦の旦那の方と、私は目が合ったのを覚えている。


お前の娘が嘘をついたのか?

私はその旦那をそんな風に見た。

そのおばさんが連れられていくのを、夫婦は面白そうに見ているわけではなかった。

どちらかと言えば暗かった。

その旦那の方はじっと私と目が合っていた。

私は、揉めた理由は私達の事だと一瞬で分かった。


私の母と比べるより、私との方が年齢が近いのではないか?そう思える夫婦だった。

そうなると、その夫婦の娘というのは、私より、はるかに小さい子という事になる。

年齢の間違い、これが核心である。


ただし、このデマに、輪を掛けるようにもっと悪質なデマが私と母に忍び寄ってきた。

ここぞとばかりに。

待ってましたとばかりに。


年配の女は、60を過ぎた母に、姑気取りで寄ってくる。さして年齢は変わらないはずなのに。


そして若い女は、ばっちり化粧をし、着飾って完璧にきめては寄ってくる。

母も鬱陶しくてたまらなかっただろう。

自分の娘、息子位の奴等にもて遊ばれる。


私は想像する。

人間関係。

子供のいる主婦は、ママ友関係も頭を悩ませる事の1つなのだろう。


私はウラタと結婚をしなかった。そしてそのまま、こういう時を過ごしている。

子供はいない。

だが、子育てをしている友人はいる。

なので想像はできる。


昔なら自分の人間関係の中で標的を見つける。

それが時代が進むにつれて何もかもが便利になった。すると、それだと面倒だと思うようになった。

そんな時、ちょうどよいのが現れた。


何にも属さず、反論しようが誰も耳を貸さない、反論したところで誰にも聞かせなくて済む、やりたい放題の、そんな奴がいるじゃないかと。

それが私と母だ。

自分達の中に誰一人として犠牲者は出ないで済むと。なんて、楽に遊べる事かと。

そんな奴等が沢山いた。

見に行け見に行け、見に行く見に行く。

そんなお囃子が聞こえる。


そして私は知っている。

それをもっと後押ししてくれる心強い味方を自分たちは持っているのだと信じてやまない事を。


同時にこの事も知っている。

その味方は元々使い物にならないという事を、お前が知らないという事を。

私は最初から知っていた。


私の母は未亡人だ。

だが、巷では言われている。

旦那は生きていると。



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