第5話

見て見ぬふりと気付いていないのとは違う。

言わないのと言えないのも違う。

見えないのは一緒でも、そこで止めておく。


被害にあってから、私にはいつまでも解決しない疑問がある。


どうして私達でなければならないのか。どうしていつまでも止めないのか。


だが最近、そんな疑問を持ち続ける必要がないと判断した。

お前の行動に全てがある。

その行動がお前の答えだと。


お前は、このままの状態でいこうと決め込んだ。ずっとこのままでいこうと。

私が何も動かないと踏んだ。

それが、いつまでも私と母から離れない理由だと理解した。


だから私は書き始めた。

今、お前が何人もの人間に囲まれて、軽い尋問のような事を受けていても、それは全てお前のせいである。


お前は嘘をつきすぎた。


嘘をついた内容もそう。

嘘をつき続けた時間もそう。


私は間違いなく、お前の事を恨んでいる。

それはお前もきっと分かっている。


お前の1番大きな嘘。それは、私が37才だという事だ。

小さい子供と言われ続けた私が、37才だという事。

そして、いつも私といるのは、とうの昔に60を過ぎた母だという事。


私と母は童顔である。

ただ童顔なだけ。

それに理由が必要か?


今思うと、私達の付きまといはたやすい事だったのかもしれない。

ショッピングモールとはありとあらゆる職業の人間が集っている。

存在している職業の大半を網羅できると言っても過言ではないのだろう。

その事をどうして気付かなかったのかと思う。お前らにとってそれほど労力のいる事ではなかったという事を。


それでも1番に思い出すのは祖母の事だ。

1年前に亡くなった祖母の事。

私は出来ればこの状態の中、行きたくなかった。だが、どうしても必要な時に祖母の老人ホームを訪ねた。

私はどうにかしてこの付きまといをまこうと、行き方を何度も何度も考えたのを覚えている。長時間かかろうとも被害を受けるのは最低限にしたかった。

それでもお前は電車に乗る私の居場所を流した。

15分ほどの面会時間、落ち着いて話せた事はない。

お前はどうしてた?何も気にすることはなく、自由に、気持ちよく、誰とでも話をしてたんじゃなかったか?


ショッピングモールで1つの事件が起こる。

その事件をきっかけに私と母の人生は、予想も出来ない方向に進む事になる。


だが、その前に書かなければいけない事がある。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る