第25話 のろけじゃん!

 辰巳はぽつぽつと、今までの縁治とのやりとりを語り始めた。


 颯大について調べていた話の間は、夕夏も集中して聞いていたようだ。だが最近の、辰巳と縁治のすれ違いに話がかかると、ごそごそと整理を再開した。


 話し終えた辰巳に、夕夏は疲れ切った様子で言った。


「のろけじゃん!」


「俺は真剣に悩んでるんだぞ?」

「端からしたら、『俺はいいって言ってるのに彼女が尽くしすぎて困るんだよなー』っていう、相談のフリしたのろけなんだよな」


 当事者以外からすると、そういう認識になるのか。辰巳は腹立たしくなる。真面目に取り合ってくれていないと感じていた。


「でも縁治が俺にこんなかまうのって異常だろ。服とか化粧品とか、男に貢いでどうするんだよ」


 壁際に積まれたままの紙袋と箱を見る。

 まだ棚は買っていない。荷物をほどく気持ちにもなれなかった。高級そうな袋は、辰巳の家の中で異物感を放ち続けている。


「しかも俺はただのファンなのに。まだそんなつもりなのか、って」

「縁治ってさー、人なつこそうに見えるけど、実際は初対面の時だけ上手いタイプのコミュ症なんじゃない? 知らんけど」


 夕夏はさほど興味なさそうに答えた。


「初手はぐいぐいいけるし、表面上仲良くなれるけど、その後、長いスパンで関係を作ってくのが苦手とか」

「まあ警備員のおじさんとはすぐに打ち解けてたな」


「辰巳も初手でやられてたもんね。

 でもさ、縁治と仲良い俳優って颯大とももな以外に知ってる?」

「……長いつきあいの人はあんまりいないかも」


 辰巳は自分の頭の中にある、縁治のデータベースを検索する。

 公演中は出演キャストとの交流が多いが、公演が終わると一気に交流がなくなる傾向にあった。五年間追ってきた中で、継続してSNSやインタビューで話題に出していたのは、響心戦隊ズッキュンジャーのメンバーくらいだろう。


「だからさ、短期的かつ適当に付き合うのは得意でも、長期的に仲良くするのは苦手なんじゃない? 自分の気持ちを伝えるのが苦手とか」

「縁治が? 俺にはこんなぐいぐい来るのに?」


「あんたと縁治のつきあい、颯大達と同じ長さだって気づいてる?」

「いや……撮影期間もあるから同じではないだろ」


「でもそれに近い位は、ずっと追いかけて、演技が好きだって言って尽くしてきたわけじゃん」


「尽くしたって言われるとなんかキモい」

「貢いだって言ってやろうか、貯金なし男」


 夕夏にそう詰められると、自分も好意を押しつけていたのだと気づかされる。


 縁治は推しで自分はファンだからと、関係性をもてない程度に距離のある安全圏から、好きなだけ好意を投げつけてきた。どうせ返されることはないのだからと、愛情を伝え続けていた。


 ぷしゅっと音を立て、夕夏は三缶目を開けた。


「だからさー、縁治もバグってんじゃない?

 元々コミュ症寄りなとこに、辰巳からの好意に答えようとしてブレーキ効かなくなってそうな感じ。普通そこまでやんないでしょ」


「じゃあやっぱ縁治が変なんじゃないか」

「辰巳が変じゃないとは言ってねーし」


 低くいらだちすら感じる声で、夕夏は絡んできた。

 辰巳は震え上がる。


「待って、夕夏なに飲んでるの」


「アルコール度数九パーセント、三本目。

 でね、辰巳、あんたもおかしいから。なーんでそんな自分に自信がないかね!

 自信がないって言ってりゃ楽できるからか!」


 くどくどと夕夏は辰巳に説教をした。


 居酒屋で飲んでいるとき、夕夏はこのような酔い方をしなかった。彼女は程々に酒に強く、出先では節度を持って飲んでいる。


 だが一人で宅飲みしているときは、ついつい深酒をしてしまう。しかも誰かしらに連絡し、絡むことも多いのだ。

 辰巳もごく稀に、泥酔した夕夏の通話するときはあったが、ほとんど支離滅裂なことを言って終わっていた。


 だが今回は、酔う前から続いている話があったため、説教になってしまったらしい。


「私が見ててあげるから、今、顔洗ってスキンケアしろ!」


 そう言うと夕夏は、通話からビデオ通話に切り替えた。

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