第24話 祭壇の整理
ももなの祭壇の整理をする。
そう、夕夏に作業通話に誘われた。
辰巳は帰宅後、持ち帰ったまかないを食べながら、スマホのメッセージアプリから通話ボタンを押す。
数回コールした後、夕夏が出た。
「おつー」
「おつ。日曜夜にそんなこと始めていいのかよ、会社員」
「月曜を迎えたくない一心だよねえ」
ごそごそと通話先から物音が聞こえてくる。ももなのグッズを整理しているのだろう。
作業通話とは、作業をしつつする通話のことだ。お互いの作業がメインであり、通話は二の次で、無言のままでいることも多い。
辰巳も手芸セットを取り出し、顔の刺繍を始めた。
新宿で布を買った後、布や糸、刺繍のデザインや最終的なイメージの画像を千佳子に送り、彼女とすり合わせを行った。
ろくちーのぬいぐるみを元にしているだけに、イメージをつかみやすかったらしく、話はすんなりまとまり、見積もりも了承してもらえた。
凪結の方は顔の刺繍デザインは気に入ったようだが、髪の仕様でまだ悩んでいるらしく、週明けに返事をくれることになっていた。
颯大のぬいぐるみの顔を、辰巳は一針一針、丁寧に刺繍していく。
戦争の時に、千人針というものがあったと聞くが、そこに込められた重さがわかるような気がする。
刺繍は手間のかかる作業だ。祈るように針の先に意識を集中させ、一番綺麗な姿を描いていく。
「息してる?」
通話先の夕夏に声をかけられ、辰巳は顔を上げた。大きく音を立てるように深呼吸する。
「してなかったかも」
「ちょっと水飲みなー」
そういうと夕夏はプルタブを開ける音を立てた。美味そうな音を立てて缶から飲む彼女に、辰巳は笑いを漏らす。脇に置いていたペットボトルを持ち上げ、水を飲んだ。
集中して作業してしまう辰巳にとって、夕夏からの声かけはありがたいものだった。
一人でやっていると、寝落ちするか、朝になるまで没頭してしまう。だが彼女がいれば、適度に休憩もとれ、健康的な時間に眠ることも出来る。
作業を再開しながら、夕夏は辰巳に問いかけた。
「今なに作ってんの?」
「千香子さんって人に依頼された颯大のぬいぐるみ。
あと、凪結さんって人にも依頼されてる」
「えっ、千佳子になゆてゃ? すごいのと繋がったね」
辰巳が不思議そうにすると、夕夏は二人とも颯大のファンの中では有名人だと言った。
「どっちもブログやってて、交友関係も広いんだよね。
千佳子は正統派の情報と感想のブログ。颯大のニュースフィードを流すSNSのアカウントも運営してた」
「あのアカウントそうなんだ」
確かに颯大の情報が早いアカウントを見たことがある。普通のニュースサイトよりも早いことがあり、不思議に思っていた。
「なゆてゃは地雷系のメンヘラオタクって感じかな。
颯大のファンだけじゃなくて、他の俳優のオタクと匿名メッセージ機能を使ってやりとりしてる」
「へえ」
「結構ヤベーオタクなんだけど、ファンが多い。コンカフェの生誕イベントは、俳優オタクの女が沢山来たらしい」
「よく知ってるなあ」と辰巳が感心すると、夕夏は呆れた。
「特に目立つ二人なんだけど、知らなかった?」
「多分見かけてはいたと思う」
「そういうやつだよお前は。
あれ、私も千佳子からフォローされてるな。アイコン、辰巳に作って貰ったももなぬいだからか」
夕夏もだが、千佳子も、凪結もよく相手のことを観察している。
辰巳はSNS上の大まかな流行廃れは認識しているが、一人一人のことはさっぱりだった。
「よし、私からもフォロー返しておこっと。辰巳じゃ女の子とそんな話せないだろうから、私からも颯大のこと聞き出しておくよ」
「助かる……ありがとうな」
明るい笑い声をたてて、夕夏は感謝を受け取る。
新しい缶をあけ、飲みながら問いかけた。
「そんで、縁治とはどーなの? 推しと仲良くできてる?」
今まさに痛いところをつかれ、辰巳は焦る。針が指に刺さり、細い痛みが走った。
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