第19話 夜とSNS

 店の閉め作業を終えて、辰巳が帰宅する。


 玄関の時計はすでに十二時過ぎを指していた。きしむ鉄骨階段を、音を立てないようにそろそろのぼる。

 安価だが駅から遠いアパートは、入居者が多くなく、ちょっとした音も響くのだ。


 同じように、玄関扉も慎重に開き自分の部屋に滑り込む。内側から鍵をかけて、ほっと息をついた。


「ただいま」


 迎える人はいない。だが辰巳が作ったぬいぐるみがいた。縁治のカレンダーもある。1Kの部屋は決して広くはないが、辰巳の趣味で満たされていた。


 店長に持たされた食事を手にベッドに腰掛ける。ビニール袋を鳴らしながら、おにぎりを取り出した。


 もそもそと食べつつスマホをいじると、SNSに新しくフォローされたという通知が来ていた。


「千佳子さん……ろくちーさんが言ってた人かな」


 アカウントを確認すると、颯大のファンとつながりがあるようだった。

 プロフィールにも颯大を推して三年だと書かれている。辰巳がフォローを返すと、早速ダイレクトメールが届いた。


「詰介さま。フォローありがとうございます。颯大くんファンの千佳子です。ろくちーさんからご紹介いただきました。

 この度はぬいぐるみについてのお話を、ありがとうございます。是非とも制作をお願いしたく思います。

 お忙しいところ恐縮ですが、お見積もりをお願いします」


 真面目な仕事メールのような文面に、辰巳はくすっと笑う。自分の趣味がこうして丁寧に扱われると、嬉しいがくすぐったい。自分もしっかり返事をしようと思い、辰巳はノートパソコンを開いた。


 縁治関係以外は倹約を心がけている辰巳だが、中古のノートパソコンとペンタブレット、スキャナーもついている小型のプリンターだけは持っていた。ぬいぐるみ制作に使用するのだ。


 刺繍のデザインや型紙の制作は、ある程度までは紙や不織布で作業するが、左右対称にする作業や、型紙を保存するのはパソコンを使った方が楽だった。

 ミシンも刺繍が出来るタイプで、パソコンで作ったデータを元に刺すことも可能だ。


 量産したいわけではないため、顔の刺繍は基本的に手でやっているが、ぬいぐるみの衣装や小物に活用していた。


 パソコンでSNSを開き、千佳子に返信する。


「千佳子さま。ご連絡ありがとうございます。

 この度は当方の制作するぬいぐるみに興味を持っていただき、誠にありがとうございました。

 お見積もりについてですが、制作に使用した資材の実費を元に計算しております」


 長くなった為、文章を一度切る。


「ろくちーさんにお渡ししたぬいぐるみと同じデザインでしたら、そちらとほぼ同じ価格になります(資材価格の変更がある為、多少変動する可能性があります)。

 もし、服や顔のデザインなど、変更のご希望がありましたら、そちらを伺ってからお見積もりを計算させていただきます。

 お手数ですが、ご確認お願いいたします」


「かしこまりました。では後ほど、希望をまとめてお送りいたします。

 今しばらくお待ち下さいませ」


 とりあえず、今日すぐに見積もりを出す必要はなさそうだ。


 そう判断した辰巳は、冷蔵庫からビールを取り出す。コンビニの無料クーポンで貰ったものだ。それと普段着の縁治のぬいぐるみをテーブルの上に立たせ、スマホで写真を撮る。色味を少し編集してから、SNSにアップした。


 ビールのプルタブをあげると同時に、スマホが振動した。

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