第11話 王宮強襲
西暦2026(令和8)年3月12日 ローディア帝国帝都ロスディア
戦闘が始まって3日が経ち、ロスディアの状況は悪化していた。先ず補給線自体は完全に封鎖されておらず、食料や武器・弾薬は理論上得られる状態にあった。しかし敵が目前にいる状況下の帝都に無防備で赴きたいと考える者は皆無であり、輸送部隊や民間の流通業者は近郊の地点で足踏みをしていた。それは当然ながら深刻な物資不足を招き、ロスディアは完全包囲されていないにも関わらず深刻な貧困に喘いでいた。
当然、士気も大きく下がっている。武器や食料が足りない以上に、目の前で仲間が一方的に殺され、設備も完膚なきまでに破壊されているのだ。これでどの様に戦意を維持しろというのか。
そうして帝国軍が絶望に打ちひしがれていた頃、第1空挺旅団は仮設飛行場を用いて大方の物資を運び込み、陣地を構築。この様子を確認した帝国軍は直ちに近衛軍団を差し向けたものの、地竜リントブルムはJBMD-91の30ミリ機関砲で殲滅され、歩兵や騎兵も機関銃の弾幕を浴びて倒れていく。そうして数百人程度が命からがら逃げ伸びたのであるが、日本側も悠長に相手の体力切れを待てる状況ではなかった。
「そろそろ、相手も限界が見えてきたな…こちらの弾薬と燃料は大丈夫か?」
第1空挺旅団の陣地にて指揮官の大村少将は尋ね、幕僚はレジュメを片手に答える。
「はい。燃料及び弾薬は、総攻撃を1回仕掛けられる分はあります。ですが本土も底が見え始めたとあって、マーレにおける石油増産とレムリアからの緊急輸入による状況の改善が提案され始めているそうです。ウクライナに対する支援で在庫の多くを消費しましたからね…上はさっさと終わらせたいでしょう」
技術的優位を理由に武力介入を決断したとはいえ、物資的余裕に関してはローディアに劣っていた。もし相手にこちらの限界が知られてしまえば、官民を巻き込んだ徹底的な抵抗で戦況を泥沼に変え、持久戦に持ち込まれかねない。それを回避しなければならなかった。
「団長、
すると部下の報告とともに、筋骨隆々を体現したかの様な男が入ってくる。日本防衛軍において唯一『スペツナズ』の称号を抱く特殊部隊である親衛猟兵旅団は、少数精鋭をモットーとする事で知られる。中には地上軍の精鋭から引き抜かれた者もおり、彼らがどれだけ強い存在であるかは大村自身の理解するところあった。
「特務小隊を率いる、
「大村だ。見ての通り我らは旅団の全戦力を展開し、いざとなれば敵首都へ強行突入する腹積もりでいた。陽動は盛大に行ってやるから、大尉達は思う存分に暴れ回ってこい」
「はっ…!」
健軍は敬礼を返し、退室するのを見計らってから食事に取り掛かる。何せ作戦は深夜に行うのだ、夕食は早めに取りたいところであった。
冷戦期より防衛軍は食料関連の補給体制に力を入れており、それは民生品に大きく反映されていた。電子レンジで軍支給タイプの冷凍食品を温め、その封を開けると、その場にボルシチの香りが漂う。このボルシチのレトルトパックはパッケージそのものが皿の替わりとなるタイプであり、食器を洗う手間を減らしていた。無論加温調理が出来ない状況でも食べられる様に事前調理は徹底されてあるが、やはり余裕がある時は温めて食べたいのが人間というものである。
傍にはペットボトルの紅茶と支給品のビスケットを置き、スプーンでパックの中身をすくって口に運ぶ。それと交互する様にビスケットをかじり、腹を満たしていく。幕僚も同様にビーフストロガノフのレトルトパックを温めて食事に取り掛かっており、その場の空気は料理の心地よい香りに包まれる。
対するローディア帝国はロスディアの王宮。普段なら賑やかな宴会が行われるであろうその広大な客間は、薄暗い明かりに合わせるかの様に静まり返っていた。
「…」
皇帝ロスディア4世とその家族達は、今宵のメニューであるラム肉のソテーとニンジンのマリネを無言で口に運ぶ。食器がぶつかり合う音だけが響く中、別室では帝国軍総司令官のガーディンが干し肉のジャーキーを噛み千切りながら地図を見やる。
「外縁部の城壁が全て破壊されたのは痛い…これだけで近衛軍団の2割が戦死し、飛竜騎士団も全滅した…これからどうすればよいのだ…」
現在武器庫は開放され、予備役の志願者を中心に即応戦力の再建を行ってはいるが、そもそも武器庫に死蔵されていたものは数百年前とかザラな刀剣ばかりであるため、此度の敵に対して有用性などあってない様なものであった。
そうして日は落ち、緊張が満ちる。とその時、監視塔の幾つかが爆発し、他の見張り兵から報告が届く。
「将軍、南方向より敵襲!敵軍、闇夜に紛れて襲撃を仕掛けてきた模様!」
「ついに攻め込んできたか…私も出る!今ここに決戦を始めるのだ!」
ガーディンはそう命じ、剣を手に取る。そして敵を撃退するべく、数百の騎兵を率いて城を後にしていった。
・・・
ロスディア王宮上空
「監視塔全ての破壊を確認。これより降下を開始する」
報告を受けて、Va-10JM4〈ゴールビD〉汎用ヘリコプターの機内にある健軍は、インカムで指示を出す。そして中央部の庭でホバリングを開始すると、ロープを垂らしてラペリング降下を始める。
「くそ、直接乗り込んできやがった!」
「返り討ちにしろ!」
無論、衛兵達はそれを見逃さず、応戦を始める。だが上空には、兵士は少数だけ乗せ、代わりに2丁の汎用機関銃を載せた機体の姿があった。はたせるかな、7.62ミリ銃弾の驟雨は数人の敵兵を一掃し、降下を終えた兵士も銃口を真正面に向け、突撃を開始する。
「総員、突撃!目標に向けて前進せよ!」
「
号令一過、JAK-89Cカービン銃を構える一行は廊下を駆け、目前に立ちはだかる敵をその火力で以て圧倒していく。やがて一行は謁見の間と呼称される空間に到達し、周囲を確認する。
「さて、順調に突入は出来ているものの、すでに逃亡していたら厄介だが…情報は正確なんだよな?」
「は…
そうして一行は城内を走り、そして部屋の一つに到達する。そして僅かにドアを開け、1発の閃光弾を用意する。
「
「
即座に投げ入れ、ドアを閉める。破裂音を確認した後、ドアを蹴破って突入する。
「伏せろ!直ぐにだ!」
すでに殆どは閃光弾で混乱状態にあり、直ぐに立てる者はいなかった。とはいえ魔法で窮鼠猫を噛む事もあり得るため、突入と同時に催涙弾を放り込む。彼らはバイザーやマスクで顔面を保護しているため、この障害を受ける事はないが、対する相手はどうだろうか?
「ぐぁぁ…目が、目が…!」
「いてぇ…いてぇよぉ…!」
「…無様だな。カンボジアの原始共産主義者でもここまで不用意ではなかったぞ」
健軍はそう言い捨て、床に転がる十数人の男女を見下ろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます