第10話 ロスディア襲撃

大暦2026年3月9日 ローディア帝国帝都ロスディア


「ニホン軍がポルト・ワイトに現れただと!?」


 王宮内にある帝国軍統帥本部にて、ガーディンは唖然とした表情を浮かべる。東部に動員できる戦力の過半を急ぎ張り付けていたその時になって、まさか北部の要所に襲撃を仕掛けてくるなど予想もしなかった。


「すでにポルト・ワイトは占領され、北部の諸侯は混乱状態に陥っております!一部の私兵が奪還のために赴きましたが…」


「西より移動中の第14軍団より1個師団を抽出し、差し向けろ!マーレ方面の戦線からも増援を差し向けたいところだが、東からの攻勢が気になる。手持ち全ての兵力を上手く使って対応しろ!」


「ははっ…!」


 そうして部下が退室した直後、外より幾つもの轟音が響く。そうして外を見たその時、外縁部の城壁に幾つもの火柱が聳え立った。


「なっ…何が起きた…!」


「ほ、報告します!東の方より複数の巨大な飛行物体が出現し、外縁部全ての城壁に攻撃を仕掛けてきました!」


・・・


「降下、開始ーっ!」


 号令一過、〈グース〉の機体後部のランプハッチが開き、JBMD-91歩兵戦闘車と〈ゴルテーンジャ〉自走迫撃砲がパラシュート付きパレットを用いて降下を開始。ロスディアから東に20キロメートルの地点へ降り立っていく。乗員達は全て乗車した状態であり、着地が完了すると直ぐに降車。パレットと繋ぐ拘束具を外していき、前進を開始する。


 遅れてVa-54〈インジェイカ〉戦術輸送機が着陸し、数台の工事用車両を出してくる。双発式中型輸送機である〈インジェイカ〉は不整地における離着陸能力を有しており、複数台の装甲車両を輸送可能な高い輸送能力を持つ一方で、ある程度整地されていないと離着陸が難しい〈グーシ〉と異なり、開けた場所であればどこでも離着陸する事が出来る『タフ』な機体である。


 そうして工兵部隊に属する兵士達は大急ぎで平地の簡易的な整備に取り掛かり、全長2000メートル程度の飛行場の設営に取り掛かる。何せ数日で第1空挺旅団の総戦力をロスディアに降ろしたり、ロスディアに爆撃を仕掛ける空軍機の緊急着陸拠点を用意したりと多忙を極める事が予想されたからである。工事は1日以内に終わらせる事を目標にしていた。


 そして上空では、第2航空師団隷下、第2戦闘航空連隊に属するVa-9M3〈モルニヤ3〉戦闘機が展開していた。ソ連のミグMig-29〈フルクラム〉のライセンス生産機である本機は、アメリカとの強い経済的結びつきによって得た高い技術力により、原型の泣き所であった、整備回数の多いエンジンの寿命延長や、燃料タンクの改善に増槽の工夫などによる航続距離の延長といった改良が施されている。


オルガニゼイター主催者よりソーコル各機、城壁より内側の飛行場よりお客さんだ。直ちに歓迎パーティーを開け』


 〈ニェーボ・グラザ〉早期警戒管制機からの通信を受け、20機の〈モルニヤ〉は一斉に降下。その名の通り、稲妻モルニヤの如く、敵の飛竜騎部隊へ降りかかった。


「ソーコル1、フォックス2」


 引き金が引かれ、一斉にR-27空対空ミサイルを発射。40発のミサイルは僅か十数秒で40騎のワイバーンを空中で粉砕し、残る60騎に対しても機械仕掛けの槍を投擲していく。


「盛大にやっているな…ベリョーザ各機、飛び入り参加だ。邪魔なバリケードを蹴散らしながら、盛大にロックンロールと洒落込むぞ」


 矢野はそう命じ、第2爆撃航空連隊隷下の〈ドラコン〉10機も突撃を開始。まだ爆撃の手が届いていない西側へ誘導爆弾を投射していく。一度に数十発もの爆弾を浴びた城壁はいとも容易く破壊され、その場に詰めていた多くの将兵が瓦礫の一部となる。それを阻止するべきワイバーンは〈モルニヤ〉に追い掛け回され、そして空対空ミサイルと機関砲の餌食となっていく。これを目の当たりにした市民達に動揺が走るのも無理はなかった。


「な、何だあの化け物は…斯様な力を持っているなど、聞いておらぬぞ…!」


 王城のバルコニーにて、轟音を聞きつけてやってきた皇帝ロスディア5世は、そう呻く。これまで無敵にも等しい精強ぶりを誇っていた軍が、その施設もろとも破壊されていくのだ。その衝撃の度合いは推して知るべしだろう。


 斯くして、僅か1日でロスディアの外部城壁は破壊され、近衛兵も1万人が死傷。ローディア帝国の防衛力は目に見えるレベルで低下したのである。

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