第31話 汚い忍者

「†unknown†様! これで勝つる!」


 ホッとした幸子が歓喜の声を上げた次の瞬間。


「ぎゃあああああ!?」


 フレイムストライクのSKを受けて†unknown†が死体になる。


「†unknown†様ぁぁあああ!?」


『なんのつもりか分かりませんが、無駄死にしに来ただけでしたねぇ。HAHAHAHAHAHA!』

『『『HAHAHAHAHAHAHAHA!』』』


 腐肉漁りの一団が†unknown†の死体の周りで膝から崩れ落ちるエモートを連打して挑発する。


「†unknown†様ぁ……」


 幸子が情けない声を出し。


《は?》

《嘘やろ……》

《なにしに来たんだよwww》

《だっさ》


 コメントもブーイングが飛び交う。


 腐肉漁りの一人が魔法を唱え、†unknown†に殺された仲間を蘇生するが。


「はい残念」


 死んだはずの†unknown†がどこからともなく現れて、蘇生したばかりの赤ネームをリスキルする。


「†unknown†様!?」


『なっ!?』

『どこから現れた!』

『死んだはずだろ!?』


 幸子は驚き、腐肉漁りの一団が戸惑う。


『落ち着きなさい。ただのステルス忍者です』


 余裕ぶったマゴットがワイングラスを一口飲み。


『忍者スキルの【変わり身スケープゴート】でダミーの死体を作成し、隠密スキルで隠れていただけ。ただの子供騙しです』


 変わり身はその場に動かない分身を残すスキルだ。


 変わり身には本体と同程度の耐久度があり、死ぬと一定時間通常の死体と同じように振る舞う。


 また、変わり身はモンスターに対してターゲットを集める効果もある。


 狩りではモンスターの誘導や疑似タンク、対人戦では攪乱などに使われるスキルである。


『ふざけやがって!』


 腐肉漁りの一団が魔法を詠唱するが、その頃には†unknown†は煙玉スモークボムを使って姿を消している。


 煙玉は忍者スキルを50以上取っていると使える消費アイテムで、隠密スキルの数値に応じて相手の距離や視線に関係なく隠密状態に移行できる。


『卑怯だぞ!』

『隠れてないで出て来やがれ!』

看破リヴェールを使いなさい!』


 看破は隠密状態にある対象の姿を暴く呪文である。


 その性質上、ユニットではなく場所を対象とした呪文であり、対象地点を中心とした周囲数マスを効果範囲とする。対象地点から離れる程効果は弱くなる。


 マゴットの指示を受け、赤ネーム達があてずっぽうで看破の呪文を放つ。


「やべっ」


 †unknown†が姿を現し、赤ネームが攻撃魔法を放つのだが。


「なんちゃって」


 攻撃魔法を喰らった†unknown†が消失し、別の場所に現れる。


『……今度は分身ですか』


 マゴットが呟く。


 こちらも忍者スキルで、変わり身同様に分身ミラーイメージをその場に残す。


 変わり身と違って耐久性はなく一発で消えるが、その代わりプレイヤーと同じように操作したり、行動を真似させたり、予め設定した動きを行わせる事が出来る。ただし、モーションを真似するだけで攻撃やスキルを使う事は出来ない。


「そういう事だ。あと、今の†unknown†は隠密最大まで振ってるからな。探知スキル取ってなきゃそう簡単には看破出来ないぜ」


《そうなん?》

《リヴェールの成功率は詠唱側の探知スキルと相手の隠密スキルの差で決まる》

《探知取ってたらリベール唱える必要ないけどな》


 探知は周囲に隠された罠やステルス状態のユニットを暴くスキルである。


 対象指定で使う事でアイテムに仕掛けられた罠を感知し、場所指定で使えば一定範囲をより強力に探知できる。


 アンチステルスと言えるスキルだが、使い所が限定的過ぎる割りにスキル上げが面倒なので、上げているプレイヤーはほとんどいない超不人気スキルである。


『だからどうしたというんです? 貴方は台所を飛び回る蠅と同じだ。鬱陶しい事は認めますが、ただそれだけ。私達の有利は依然変わりません』


 突然変わり身の死体が爆発し、近くにいた腐肉漁りに大ダメージを与える。


 そこに姿を現した†unknown†が追撃を加えて二人目を射殺す。


「バーカ。変わり身に爆弾ポーション仕込んでたんだよ。塵遁じんとんの術だ。ワッショーイ!」


『ふざけやがって!』

『いい加減頭に来た!』

『ぶっ殺してやる!』

『落ち着きなさい! 隠密と言っても攻撃する時は姿を現す必要がある! その時を狙うのです!』


「理屈の上ではその通りだがな」


 †unknown†が姿を現す。


 腐肉漁りのSKが炸裂する。


 分身が消える。


「残像だ。はっはぁ! ボイチャってのは便利だよなぁ? 隠れたまんま煽れるんだからよぉ!」


 隠密状態は攻撃やスキルの使用、発言などで解除される。


 例外は分身や変わり身、影渡り等の一部のスキルだけである。


 が、ゲーム内ボイチャならこの制限に引っかからない。


《汚いなwww》

《流石忍者www》

《これは卑劣様www》


 リスナーも大盛り上がりだが。


『精々ほざきなさい。この家はもうすぐ腐る。それまで死守していればこちらの勝ちです。私達はただここで待っているだけでいい。貴方一人に何が出来る? 無駄な時間を浪費する事だけだ! HAHAHAHAHA!』


「はいバカ乙。お前は二つ間違えた。一つ、俺は一人じゃない。二つ、時間稼ぎはそろそろ終いだ」


「会長!」

「蘇生完了です!」

「取り合えず二人は起こせました!」

「ごめんなさい今起きました!」

「†unknown†様! 助太刀しますよ!」

「お前達!」


 幸子の元に無銘の刃のメンバーが集まる。


 先程殺された二人に加え、メンバーを起こしに行った一人と起きた二人を合わせて合計六人。


「これで形勢逆転だな?」

『HAHAHAHA! 算数も出来ないのですか? 貴方を入れても7対9ですよ?』

「だとよ。言ってやれよ生徒会長」


 時継が肩をすくめる。


 幸子は大きく息を吸い込み。


「†unknown†様が居れば百人力だ!」


 ズコっと時継がコケる。


「そこは私達とお前らの強さは同じじゃないって言う所だろ!」

「なるほど! お前達! 無銘の刃の名誉挽回だ! 腐り家に湧いたウジ虫共を叩き潰すぞ!」

「「「了解です!」」」


『仕方ない。全メンバーを招集しますか』


 赤ゲートからまたもぞろぞろ腐肉漁りのメンバーがやってくる。


 その数、10以上。


『これでも大手ギルドなのでね。この程度は当然でしょう? 他の腐り家もあるのですが、今回は特別に全力で相手をしてさし上げます』


 流石にこれは時継もちょっと焦った。


 相手はざっと数えても20以上。


 対するこちらは7人。


 戦力差は三倍である。


 が、そんな内心はおくびにも出さず。


「面白くなってきやがった。これで勝ったらまたバズるぜ!」


 ニヤリと笑う。


「それでこそ†unknown†様だ! お前達も、臆するなよ!」

「勿論です!」

「これで勝ったら†unknown†様と一緒に切り抜きに出れるぞ!」

「学校でみんなに自慢出来ます!」


《ビビってる奴いるぅ~?》

《いねぇよなぁwww》

《マジでいないから強い》


 コメントを相手にしている余裕は流石にない。


「生徒会長! チームを3、3で分けろ。逃げながら隙を見てSK。隙は俺が作る! やれるか!」

「勿論です!」


 言うが早いか無銘の刃のメンバーが3、3に別れて散開する。


 腐り家の横にマゴットを残し、腐肉漁りの赤ネーム達が散り散りになって後を追った。


 それを見て、時継が内心でニヤリとする。


(……数が多すぎて足並みが揃ってないな)


 これだけの大規模戦闘は向こうも初めてなのだろう。


 集団戦を行う場合、敵にタゲを集中させる都合上、コンパクトな陣形を組んでメンバーの視界を出来るだけ同じにする必要がある。


 SKと同じく、集団戦の基本にして奥義とも言える技術だが、人数が増えればそれだけ統制を取るのも難しくなる。


 極論を言えば、十人に攻撃されてもバラバラならば間に回復を挟んで耐える事は可能だ。


 一方で、三人でも完璧なSKを決めれば回復する間もなく相手を即死させる事が出来る。


 大勢のプレイヤーを相手に少数のPKが無双出来るのはこのような理由があるからだ。


 チームを二つに分けているので、それぞれのチームが同時に相手をするのは10程度。後続は遅れているので、実際に相手にするのは5、6人と言った所だろう。


 勿論、少しでも間合いの取り方を間違えれば数の暴力に飲み込まれるのだが。


 そこは名のあるPKKギルドだ。


 普段から学校で接している生徒会のメンバーと言う事もあり、それぞれのチームが一つの生き物であるかのように綺麗なフォーメーションを組んで行動している。


(あとは俺の働き一つって所だな)


 気を引き締めると、時継は行動を開始した。


 

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