第30話 換装《フォームチェンジ》
『初めまして。愛敬堂ミライチャンネルのお二人。私はギルマスのマゴット。配信を見ていました。面白かったですよ』
死に装束の灰色ローブに、
「こちらこそ初めまして! 愛敬堂ミライチャンネルの未来です! 聞いた九頭井君? この人リスナーさんだって! 悪い人じゃなさそうだよ!」
未来はホッとした様子だが。
「騙されんなよ。こいつらは他のプレイヤーが長時間待ってた腐り家を横から掻っ攫って、その様子を面白おかしく動画にして数字稼いでるハイエナ系チャンネルだ。俺らは標的にされてるんだよ」
「そ、そうなの!?」
『その情報は正しくありませんね。腐り家は持ち主に見放された家。誰の物でもありません。誰の物でもないのなら、横取りもなにもないでしょう。それに、私たちの標的はあくまでも腐り家。たまたまそこにあなた達がいただけです。まぁ、ろくに下調べもせずバカみたいに五時間も貼り付いていた様子は笑えましたが』
HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!
マゴットが赤色の大文字フォントで嗤う。
「う……。なにこの人……。ねちっこくてやな感じ……」
「動画はもっとムカつくぞ。これ見よがしに戦利品映した後、相手のキャラ映して残念でしたねぇ、って煽りまくりだ。他人が何時間も待った腐り家を五分で奪うのは格別ですってな」
「なにそれ超ムカつく!? 性格悪すぎだよ!」
『HAHAHAHAHAHAHA! あまり褒められると照れます』
「褒めてないよ!」
『でも事実です。よく言うでしょう? 苦労が大きい程、報われた時の悦びも大きいと。私は苦労が嫌いですので、代わりに皆様に苦労して頂きます。皆様が無駄な苦労を費やす程、腐り家は旨味を増す。まさに熟成です。感じませんか? この芳醇な香り。お二人のお陰でこの家はよく熟れました。ありがとう、感謝します。そしてさようなら。あなた達はもう用済みです』
マゴットがゲートの呪文を詠唱する。
「仲間を呼ぶ気だよ!? 止めないと!?」
「邪魔されないように青ネームで来てるんだよ。攻撃もされてないのにこっちから手を出したら犯罪フラグが立つ。その後自殺でもされたら殺人報告プラス1だ」
《いいだろ1くらい》
《5貯まるまではセーフ》
《さっさとやっちまえって》
《いや、殺したって蘇生して戻って来るから意味ないだろ》
「そういう事だ」
「じゃあどうするの!?」
「目には目をだ! お前ら、配信見てるよなぁ!」
『此処に見えざる扉在り、我、万能の鍵と成り、異界の扉は開かれた。ゲートトラベル』
†unknown†が呪文を詠唱し、互いに赤ゲートを生成する。
相手側からは腐肉漁りのギルドタグを付けた赤ネームがぞろぞろ現れ。
こちら側からは――
「もちろんだとも!」
「バッチリスタンバってたっすよ!」
幸子と大吾、無銘の刃のメンバーが三名現れる。
「って、これだけか!?」
愕然としたのは幸子である。
相手の数はマゴットを抜いても九人だ。
「すいません会長……」
「途中までは配信見てたんですけど……」
「ほとんど寝落ちしちゃったみたいで……」
無銘の刃のメンバーが弁解する。
「えぇい不甲斐ない! そんな事で
「いや、突発でこんだけ集まりゃ上々だろ」
「ですです! いつも応援ありがとうございます!」
「あぁ! ありがたき幸せ! ハルカ! 一旦下がれ! 緊急招集だ! 片っ端から鬼電して寝ているメンバーを叩き起こせ! 数さえ揃えばこんな相手敵ではない!」
「は、はい!」
『HAHAHAHAHA! そんな時間がありますかね?』
余裕たっぷりにマゴットが笑う。
『腐肉漁りの名は伊達じゃありません。私達は30分ごとに腐り家を巡回してメッセージの変化を確認しています。これがどういう意味か分かりますか?』
「お前らが俺達以上の手間をかけてこの家を見張ってたって事だろ? そいつを横取りするのはさぞ気分が良いだろうなぁ?」
下衆顔で時継が笑う。
マゴットは一瞬口籠り。
『……減らず口を。お前達、やってしまいなさい!』
『『『Yeah!』』』
「†unknown†様! ご指示を!」
「好きにやれ。こっちも適当に合わせる!」
「はっ! 行くぞお前達! トライアングルフォーメーションだ!」
無銘の刃のメンバーが幸子を先頭に三角形を組むようにして走り出す。
「兄貴! 俺は!?」
「九頭井君!? あたしは!?」
「死なないように逃げ回ってろ!」
言ってるそばから腐り家の横で棒立ちになっていたミライがSKを受けて灰になる。
「イヤアアアア!?」
「愛敬さん!? 今蘇生するっすよ!? ウバー!」
魔法で蘇生しにいった大吾が後を追った。
《www》
《コントやめてwww》
《清々しいまでの役立たずっぷり》
《未来ちゃんはともかく大吾は何しに来たんだよwww》
「だっでえええええ!?」
「面目ないっす……」
「正直お前らは足手まといだ。全部終わるまでそこで実況でもしてろ!」
「しょぼん……」
「こうなったらせめて応援するっすよ! フレー! フレー! あ、に、き! 頑張れー! 頑張れー! あ、に、き!」
「うるせぇ気が散る黙ってろ!」
《www》
《流石に可哀想www》
《まぁ仕方ないwww》
《マゴット抜いても9対4だからな》
『精々足掻きなさい。無駄な努力を重ねる程、勝利の味は旨味を増す。私はここで貴方達が無様に敗北する様を眺めていますよ』
わざわざ用意していたのだろう。
その場に皮張りの椅子とテーブルを設置して、マゴットがワイングラスを傾ける。
「ぐぬぬぬぬ……っ! 汚らしいウジ虫風情が! ぐはぁっ!?」
幸子がSKを受けて死にかける。
『神は言っている、ここで死ぬさだめでは無いと。グレーターヒール』
†unknown†の回復魔法がギリギリ間に合い、幸子は追撃に耐えた。
「バカは気にするな! 家さえ手に入れればこっちの勝ちだ!」
「あぁ……。なんて神タイミングのヒール! 流石は†unknown†様! 好きすぎる……」
「言ってる場合ですか会長!?」
「数が多すぎます!? 耐えるだけで精一杯ですよ!?」
時継達は一方的に追いかけられ、腐り家に近づく事も出来ない。
「泣き言を言うな! 赤ネームの抹殺はPKKの本懐! 数の不利は実力で補え! 無銘の刃の誉れはここにあり! 数千人のリスナーが見ているぞ!」
《頑張れ全裸会長!》
《よく耐えるな》
《ただの変態だと思ってたけど意外にちゃんと強くて草生えるwww》
《早くどうにかしないと家腐っちゃうよ!?》
《モブ子ちゃんの声可愛い》
リスナーの言う通り、腐肉漁りが出張ってきた以上、いつ家が腐ってもおかしくない状況である。
「つってもなぁ。流石にこのままじゃ勝ち目がねぇ」
「九頭井君!?」
「諦めるんすか兄貴!?」
「まさかだろ。†unknown†はなんにでも成れるが、敗者にだけはならないぜ」
時継はニヤリと笑い。
「つーわけで奥の手を使う。30秒だけ耐えれるか?」
「†unknown†様のご命令なら!」
「頼りにしてるぜ生徒会長」
「おほぉおおおおおおお!?」
幸子の動きが目に見えてよくなる。
追ってくる九人との間合いと詠唱を管理して、互いにヒールを掛け合ってダメージを凌ぐ。
その間に時継は石壁を張って相手の視線を遮断し、再訪の呪文でその場を去った。
『おやおや? 勝てないと踏んで逃げましたか? 噂の†unknown†様も大した事ありませんね。HAHAHAHAHAHAHA!』
「そんな事ないもん! †unknown†様は無敵だもん! 九頭井君が帰ってきたらあなた達なんかけちょんけちょんのずっこんばっこんなんだからね!」
「愛敬さん……。ずっこんばっこんはよくないんじゃないかと……」
「え、なんで?」
「そ、それは……その……俺の口からはちょっと……」
《www》
《無知シチュ来たwww》
《¥3000 ずっこんばっこん助かる》
「よく言った愛敬! 我らが†unknown†様は絶対、無敵、最強だ! どんな強敵だってずっこんばっこんでやっつけてくれるんだ!」
「会長!?」
「またクールなイメージが壊れるような事を……うわぁ!?」
「柿崎ーッ!」
†unknown†の遊撃がなくなり、敵の攻撃が激しさを増していた。
フレイムストライクのSKが三角形右翼を焼き落とす。
「よくもカッキーを! きゃああ!?」
足が止まった左翼も餌食になり。
「モモちゃん!? くっ……。すまない†unknown†様……。不甲斐ない私を許してくれ……」
万事休すかと思われたその時だ。
幸子を追い回す九人の赤ネーム。
彼らを指揮する隊長と思しき先頭のプレイヤーが突然
『なんだと!?』
続けざまに放たれた三本の矢が小気味よい音を立てて隊長の鎧を貫通する。
その一撃は全ての防御抵抗を無視してダメージを与える。
「ジャスト三十秒だ」
今や八人になった赤ネームの背後に、どこからともなく現れた†unknown†が弓を構えて立っていた。
「†unknown†様……」
涙声の幸子に時継がニヤリと笑う。
「笑えよ生徒会長。反撃の始まりだ」
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