第29話 腐肉漁り
「次に紹介するのは近日発売予定の新商品、『フルーツ包んじゃいました~シャインマスカット』。今話題のシャインマスカットを生のまま丸まる一粒求肥で包んだ贅沢な一品です!」
洒落た小皿に盛られたのは、粉雪のような砂糖のかかった大粒のお団子みたいな和菓子である。真っ白い求肥越しに若草色のシャインマスカットが透けていて、見た目にも美しい。
それを未来は一粒つまみ。
「ん~美味しい! もっちもちの求肥を齧るとシャインマスカットの肉厚な皮がパリッと破れて青々としたマスカットの香りが口いっぱいに広がります。種なしの果肉はさっくりジューシーで、甘さを控えた求肥との組み合わせも抜群だよ!」
《相変わらず美味そうwww》
《発売が楽しみ》
《これは売り切れ待ったなし》
《パリッて皮の弾ける音がこっちまで聞こえてきたんだがwww》
未来の食レポを見て時継がゴクリと喉を鳴らす。
「俺の分がないんだが?」
「しょうがないでしょ、突発だったんだから。明日学校に持って行ってあげるから文句言わないの」
「へへ、こいつは月曜が楽しみだな」
《ズルっ!》
《ズリーぞ!》
《ズルいズルいズルいズルい!》
「羨ましいかリスナー共? これも公式サポーターの特権よ。お、いい事考えたぞ委員長。メンバーシップに高額プランつけて新商品の先行試食やるってのはどうだ?」
「なんてあくどい考え……。気に入った! 企画担当のお姉ちゃんと相談します!」
2 hour later…
「おとーさん、そこーに、見え~な~いの~。まお~が、い、るっ! こわ~いよ~!」
「坊や……それは、
《なんで魔王www》
《くっそ懐かしいwww》
《普通に下手なのがツボるwww》
「耐久配信の定番と言ったら歌枠だからな」
「だからって魔王じゃなくてもいいと思うんだけど……。もっとこう、みんな知ってる流行りの曲とかさぁ……」
恥ずかしそうに未来が呟く。
「ばっか。世の中には著作権って奴があるんだよ。無許可で歌ったら権利侵害で一発アウトだ。てか、流行りの曲とか知らねぇし。その点クラシックなら権利もないし音楽の授業で習うから歌いやすいだろ」
「じゃあせめてアカペラはやめようよ! 自分で言うのもなんだけどあたしって割と音痴よりだし、九頭井君も結構なアレだよ!? 正直かなり恥ずかしいよ!?」
「恥の数だけ登録者数が伸びると思え。いわゆる伸びしろ歌枠って奴だ。あと、楽曲の権利とは別に演奏者の権利ってのがある。フリーの音源探すの面倒だから全部アカペラだ」
《わりと真面目な理由でワロタwww》
《まぁ歌上手い奴はゴロゴロいるしなwww》
《ここまで下手なのは逆に新鮮www》
「ほらな。って事で次の曲だ。大地讃頌と翼をくださいどっちがいい?」
「どっちでもいいよ!」
「じゃあ翼をくださいで。折角だし、手話バージョンやるか」
「いまー! わたしのー!」
ヤケクソで未来が歌う。
両手でしっかり手話をして。
《マジで懐いwww》
《この手話今でも出来るわwww》
《意味は全然覚えてないけどなwww》
「お、なら全員で合唱っすか」
《ワロタwww》
《壁ドンされたんだがwww》
《こっちは隣の部屋から聞こえてきたwww》
《録音してツイッターに上げようぜwww》
「お願いだから早く腐って~!」
3 hour later…
「――次の豆知識です。どら焼きの由来はその名の通り、お坊さんがお経を読む時に使う
「へ~」
《へ~へ~へ~》
《安直すぎるwww》
《罰当たりwww》
「ちなみにぜんざいは、これを食べた一休さんが
「へ~」
《ほんとかよwww》
《坊主甘い物食べ過ぎ問題www》
《35へ~》
4 hour later…
「……えっと、その、ちょっとお花摘んで来たいな~……なんて……」
「腐り待ち舐めんな。今この瞬間に家が腐ったらどうすんだよ」
「そんな事言われても!? このままじゃ漏れちゃうよ!? っていうか九頭井君は平気なの!? さっきからめっちゃエナドリ飲んでるのに!?」
「あぁ。俺はこっそりペットボトルにしてる」
「え」
《マジかよwww》
《廃人あるあるwww》
《きったねぇwww》
《俺も足元にめっちゃペットボトル転がってるわwww》
「なわけねぇだろ。俺もそろそろ限界だ。って事で交代で行くぞ」
言うが早いか時継が席を立つ。
「ちょ、九頭井君!? そこは普通レディファーストじゃない!? ねぇ!? ねぇええええええ!? ……う、嘘でしょ……。あたし、かなりピンチなんだけど……」
《www》
《クズ過ぎるwww》
《おしがま耐久ktkr!?》
《そこに空のペットボトルがあるじゃろ?》
《ユー、やっちゃいなよ》
《向こう側で待ってるぜ☆》
「絶対イヤ! 九頭井君! お願いだから早く帰ってきてええええ!」
モジモジしながら未来が叫ぶ。
と、そこにポコンとディスコードの通知音。
「『わりぃ。うんこ』……って、マ?」
《www》
《www》
《www》
「………………リスナーさん。もしあたしがお漏らししても、嫌いにならないでね……」
プルプルと震えながら、未来が悲壮な笑みを浮かべる。
《ならないよ》
《むしろ好きになる》
《だから安心して漏らしてくれ》
「よかった……。もうゴールしてもいいんだ……」
「いいわけねぇだろ。とっとと便所行け」
ハンカチて手を拭きながら時継が戻って来る。
「離席します!」
マッハで未来が席を立つ。
《おいいいいいい!》
《いいとこだったのに邪魔すんなよ!》
《うんこ早すぎwww》
《ちゃんと拭いたか?w》
「嘘に決まってんだろ」
ポコンとディスコの通知音。
未来も携帯で配信を見ていたらしい。
『バカバカバカバカバカバカバカバカ』
《なんだって?w》
「漏らしたって」
《www》
《www》
《www》
ドダダダダダ! と足音が近づき。
「漏らしてません! ちょっとチビっただけ!」
真っ赤になった未来がマイクに叫び、ハッとする。
「……な~んちゃって! イッツァ、ジョーク♪」
わざとらしい笑みで両手を広げる。
《ぁ、うん》
《わかってる……わかってるよ……》
《言わなきゃバレなかったのにww》
《¥5000 下着代》
「うわあああああん! 九頭井君のばかぁあああああ!?」
「いいから手洗って来いよ」
5 hour later…
「ぐー。がー。ぐー。がー」
「……おい委員長。おい、おいって」
《爆睡してるwww》
《女の子もいびきかくんだな……》
《ブサカワ助かるwww》
《変な性癖開きそう……》
「……っち。仕方ねぇな」
ププププププォーン!
時継が爆音でブブゼラ効果音を再生した。
「ふぎゃああ!?」
驚いた未来が椅子から転がり落ちる。
「やっと起きたか」
「ね、寝てません! ちょっとおめめ瞑ってただけ!」
座り直した未来が焦った様子で言い訳をする。
「お? なら後でアーカイブ確認すっか? 大口開いて爆睡してる姿がニ十分は映ってるぞ」
「だっでえええ! もう五時間も待ってるんだよ!? いい加減話す事ないし! 流石に眠くなるでしょ!?」
「話し相手がいるだけマシだろ。普通は一人で待つんだぞ」
「ふぇ……過酷しゅぎる……。二度とやりたくないよぉ……」
「まぁそう言うな。待てば待つ程腐った瞬間の喜ぶも増すってもんだ。脳汁ブッシャーでやみつきだぜ?」
「それもどうかと思うけど……」
「ならやめるか?」
「絶対イヤ! 五時間も待ったんだもん! 絶対に家手に入れてやるんだから!」
「どのみちあと三時間以内には確実に腐るんだ。こっからが正念場だぜ」
「お願いします神様! このまま誰にも見つかりませんように!」
《それフラグじゃね?w》
《フラグ》
《その願い、叶えよう(By配信の神)》
シュワンという効果音と共に、近くに青ネームのプレイヤーが現れる。
《あっw》
《マジでwww》
《余計な事言うからwww》
《流石一級フラグ建築士www》
「なんでええええええ!?」
「……チッ。面倒な事になったな」
時継が顔をしかめて舌打ちを鳴らす。
「なに? 知ってる人?」
「『
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