第24話 美人生徒会長の全裸配信に釣られる奴おる~?

 ひゅ~るるる。


 電子の世界に乾いた風が吹く。


 コメントまでもが一瞬止まった。


《え、誰?》

《なんだこいつ》

《九頭井のクラスでデカい顔してた不良モドキの陰キャ君(†unknown†様の隠れファンで後に改心した模様)》

《ゲリラスペースに出てきた奴か》

《そういや居たなこんな奴www》

《青髪でテンペストとかwww》

《一時期のキリト並みによく見る》


 困惑するリスナーを見て九頭井が一言。


「おい大吾、スベッてんぞ」

「俺のせいっすか!?」

「じゃあ誰のせいだよ」

「配信見てる途中にいきなり呼び出してきたの†unknown†様っすよね!? 俺、絶対スベるから嫌だって言いましたし!?」

「あ~ん? ペットの分際でご主人様に口答えか?」

「……さーせん。俺が悪かったっす……」


 がっくりとテンペストこと大吾がうな垂れる。


《パワハラ上司過ぎるwww》

《いじめだろこれwww》

《これは九頭井じゃなくてクズいwww》


「ダメだよ九頭井君! 確かに風間君は保身の為に九頭井君をみんなの前で笑い者してた卑怯者だけど! 一応改心したんだし、こういう仕返しはよくないと思うの!」

「委員長の説明も大概だと思うぞ」


 呆れた様子で時継は言う。


《ゴミ野郎じゃん》

《最低だな》

《これは因果応報》


「生きててすんません……。俺は自分の保身の為に推しを売った卑怯者の豚野郎です……。うわぁああああ! いっそ殺してくれ~!」


 半泣きで大吾が叫ぶ。


「えぇ!? なんで!? フォローしたのに!?」

「本気で言ってるなら完全にサイコパスだぞ」


 今のはフォローと言うより公開処刑である。


「そもそも配信に大吾呼んだのはこいつが今までの悪行の贖罪をしたいっす! とか言ってきたからだし」

「そうなの!?」

「いやまぁ、そうなんすけど……。もっとこう学校でのパシリとかそういうのをイメージしてたっていうか……」

「そういうのは求めてねぇから。俺の役に立ちたきゃ体張って配信盛り上げろ。そしたらお前の事シカトしてるクラスの連中もちったぁ許す気になるだろ」


 多数の停学者を出した生徒会の一斉検挙(時継のスペース配信が要因となった事から青の月曜日ブルーマンデー事件と呼ばれている)以来、栄央高校のスクールカーストを支配していた不良軍団の権力は地の底に落ちた。


 最後には改心したとはいえ、そこに属していた大吾も無関係ではなく、事件以来クラスで完全にハブられている状況である。


 自業自得と言えばそれまでの話だが、一応身体を張って時継を助けようとしていたし、大吾の裏切りがなければ危ない目に遭っていた事も事実である。


 自分のせいで大吾がイジメられるというのも気分が良い物ではないので、クラスメイトが大勢見ている配信でバカをやらせて分かりやすい償いをさせてやろうと思ったのだった。


「†unknown†様……ッ! 俺なんかの為にそこまで考えてくれたんすか!? それなのに俺は、俺は……ッ! うぉおおおお! 兄貴、一生ついていくっす!」


 感激した大吾がむせび泣く。


《イイ奴じゃんwww》

《俺は最初から信じてたけどな》

《誰だよ九頭井じゃなくてクズいだなとか言った奴》

《おまえだよwww》


「ってのは建前で、本当は配信でおもちゃにしてスカッとしたいだけだけどな」


《www》

《だと思ったwww》

《やっぱりクズいwww》

《それでこそ九頭井www》


 リスナーの掌が高速回転するがいつもの事である。


「事情は分かったけど。サト氏さんはいいのかなぁ?」

「俺が委員長のペット扱いでセーフなら大吾だってセーフだろ。あと、サト氏さん呼びははNGな。なにがとは言わんが紛らわしい」


 こくこくとサトは頷き。


「面白いからオッケーだぜ!」


 グッと親指を立てる。


「向こうの了承も得た所で、レアモンバトルと行くか。行け! 大吾! 破壊光線だ!」

「え!? そんなん無理っすよ!?」


 大吾が慌てる中。


「ピカ虫! 10万ボルトだ!」

『ぴ、ピカ虫~ッ!』


 電気ネズミカラーの巨大コガネムシがブブブブっと翅を羽ばたかせる。


 全身がバチバチと帯電し、黄金色の雷撃がテンペストを貫いた。


「アババババババー!?」


 ガタガタと椅子を揺らす音と共に大吾が悲鳴を上げる。


「うむ。初めてにしては悪くないリアクションだぞ」

「あざっす! 愛敬さんの真似っす!」

「あたしはそんな汚い悲鳴出してないもん!?」


《いや出してるよwww》

《なんなら未来ちゃんの方が汚いまであるwww》

《舎弟君は凌辱感が足りないよな》


「試してみるか」

『遠雷が聴こえるか。雷帝の槍はその手を離れた。天の裁きを受けよ。コールライトニング』


「ア″ハ″ハ″ハ″ハ″ハ″ハ″ー!?」


 落雷によりミライは死んだ。


《www》

《やっぱこっちの方が汚いwww》

《むしろわざとだろこれwww》

《絶対張り合ってるwww》


「そ、そんな事ないですけど……」


 赤くなった未来が視線を逸らし、†unknown†がミライを蘇生する。


「っていうか、風間君も死んでるし!? テンペストとかいう名前の割に弱すぎだよ!?」

「さーせん……。こいつ生産キャラなんす……」

「やったぜ! まずは一勝だ!」


 サトがガッツポーズを取る。


『案ずるな珍獣使い。この者は我が眷属の中でも最弱。所詮はただの余興よ』


《四天王構文ワロタwww》

《眷属の面汚しwww》

《本当にただの余興だったなwww》

《ここからが本番だろ》


「……え? 俺の出番もう終わりっすか!?」

「おう。帰っていいぞ」

「俺まだなんもしてないんすけど!? せめてもうちょっと爪痕を――」


 大吾をミュートする。


『oOoo ooo ooOoO OOoOoo』


 ゲーム内チャットでなにやら喚いているが、今日の†unknown†は霊話を入れていないので理解不能である。


 ほどなくして大吾はゲートから出て行った。


「さて。冗談はこれくらいにしておいて、そろそろ本気出すとするか」


『我、†unknown†の名において命ずる。首狩る者、血に狂った復讐の女神よ! 異界の門を越え、我が呼び声に応じよ!』


《この詠唱はwww》

《また人間かよwww》

《今度は誰が来るんだ?w》


 青ゲートから四つん這いで出てきたのはビキニアーマーを着た美しい女キャラだ。


「ブヒ! ブヒブヒ、ブヒー!」


 ボイスチャットをオンにして、幸子がリアルな豚の鳴き真似をする。


《さっちゃんwww》

《無銘の刃のギルマスじゃんwww》

《なにやってんのこの人www》


「いや、マジでなにやってんだよお前は……」


 時継もドン引きである。


「え? 九頭井君の趣味じゃないの?」

「んなわけあるか!? 俺はただ大吾弄ってる間に生徒会長に配信出ないか誘っただけだ! こんな変態キャラの指定なんかしてねぇよ!」

「ブヒッ! ブヒブヒ、ブヒィ~ッ!」


『†unknown†様は悪くない。全ては私の独断だ!』


《どんな判断www》

《てかそっちでは普通に喋るのかよwww》


「なるほど? 弁解があるなら聞いてやる」

「ブヒッ! ブヒッヒ! ブブヒヒヒーッ!」

「いや、ブタの真似はいいから。てか、いくらブタでもブブヒヒヒーッとは鳴かんだろ」

「そこツッコむ所!?」

「うむ! これには深い事情がある。話せば長くなるんだが――」

「じゃあいいわ」

「だって私の方が先にファンになったのに新参者を先に呼ぶし折角†unknown†様が配信に呼んでくれたから少しでも面白いことをして役に立ちたかったんだ!」


 超早口で幸子が言う。


「だからってそれはねぇだろ!?」


 ダン! っと時継が机を叩く。


 時継も変態だと思われるのは嫌である。


「確かに……。下僕の分際で服を着るなんて不遜だったな。すまない! すぐに脱ぐ!」

「脱がんでいい! むしろ着ろって言ってんだよ!?」


 言ってる間にもさっちゃんが躊躇なく下着姿になる。


 †unknown†は即座に石壁を唱えてさっちゃんを隠した。


《おい九頭井!!!》

《隠すなよ!》


「黙れエロリス! 収益止まったら困るだろうが!」

「いや、この程度なら大丈夫だろう。むしろちょっとくらいエッチな方がリスナーも喜ぶと思うのだが」

「そ、それはそうだけどよ……」


 幸子の言う通りである。


 だが、相手は胸の大きい年上の美女である。


 そんな相手にぐいぐい来られると流石の時継もちょっと弱い。


「一応お前、生徒会長で大手ギルドのギルマスだろ! 威厳とか色々ねぇのかよ!」

「それについては問題ない。前にも言ったが、生徒会のメンバーは全員ギルメンで†unknown†様を崇めるよう教育済みだ。そうでなくとも大恩ある†unknown†様の為に働けるんだ! 一肌どころか全裸にだって喜んでなろう!」

「ならんでいいわ!」

「そう言われてもな。実は既に全裸だったりする」

「はぁ?」


 意味が分からず聞き返すと。


「うむ。お風呂で配信を見ている最中にチャットが飛んできたから急いで上がって来たんだ」

「バカかお前は!?」

「へっくち! 風邪を引いたからバカではないぞ!」


〈バカwww〉

〈¥10000 くしゃみ助かる〉

〈この子面白過ぎだろwww〉


「制御不能で扱い辛ぇよ!」

「スパチャ感謝だ! 私はフツーの学生だから†unknown†様にスパチャを投げられないが……。こうして間接的にスパチャを稼ぐ事で†unknown†様に貢ぐ事が出来る……。あぁ、なんという幸せだろう……」


 うっとりと幸子は言う。


「なんなんだよこいつは……」


 時継は頭を抱えるが。


「本人は幸せそうだしいいんじゃない? 配信も盛り上がってるし!」

「他人事だと思いやがって……」


 実際盛り上がっているのは確かである。


 コメントで《俺の存在って……》と大吾が嘆くのも無理はない。


「まぁいい! こんなんでも一応PKKギルドのギルマスだ。それなりに腕は立つだろう! いけ、メス豚! ハサミギロチンだ!」

「ブッヒィイイイイ!」


 嬉しそうにブタ声を上げながらさっちゃんが突っ込んでいく。


 四つん這いで。


「面白くなってきた! ピカ虫! ボルテッカーだ!」

『ビ、ガ、虫ゥウウウウ!』


 ピカ虫が激しく羽ばたき、バチバチと帯電しながらさっちゃんに体当たりを決める。


「ブヒィイイイイイイ!」


 さっちゃんは死んだ。


「はぁああああああ!?」

「ぇええええええ!?」


《即死www》

《嘘やろwww》

《なにしに来たんやwww》


 すごすごとさっちゃんの幽霊が戻って来る。


「……すまない。メス豚感を出す事ばかり考えていて肝心の属性抵抗がゴミカスだった。このさっちゃん、一生の不覚だ! †unknown†様! どうかこの無能なメス豚を叱ってくれ! 出来るだけ高圧的で口汚く!」


 時継は無言で幸子をミュートした。


《めっちゃ嫌な顔してるwww》

《これ、絶対放置プレイで喜んでるだろwww》

《エモートでメッチャはしゃいでるしwww》


「えーと、俺の勝ちって事でいいかな?」


 サトが尋ねる。


 笑い声を堪えているのか、可愛らしい素の声が漏れていた。


 某少年と同じく、中の人は女性である。


 ガチでやれば勝てるのだろうが、配信の盛り上がり的にはここで終わっておく方がいいのだろう。


「これで勝ったと思うなよ!」

「おう! またバトルしような!」

「ありがとうございました~! またコラボしましょうね!」

「はい! こちらこそです!」


 なんだかんだで金角も譲ってもらい、本日の配信も大成功の二人だった。

 

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