第13話 我が怒り、我が憤怒、我が憎悪の激しさを知れ
「サプラ~イズ!」
景気の良いクソガキボイスが響き渡る。
さっきまで居たはずのミライの姿はどこにもなく、代わりに火竜を従えた†unknown†の姿がそこにはあった。
「なっ!?」
予想外の出来事に裁人が絶句する。
〈wwwwwwwww〉
〈は?〉
〈どうなってんのwww〉
〈
〈じゃあミライちゃんはどこ行ったんだよ〉
「最初から来てねぇよ。ありゃ†unknown†の変装だ。委員長はずっと俺のゲーム画面見ながら配信してるふりしてたってわけ」
「そういうこと~! バーカバーカ! 騙されたのは天誅さんの方でした~! ベロベロバ~! 人を騙して悪い事してるからこういう目に遭うんだよ! 反省してください!」
「ぐ、が、ぎぎ、ぎぎ、うるせぇええええええええええ!?」
ガチギレした裁人が叫ぶ。
「すごい! 叫んでるのに丁度いい音量! これがコンプレッサーの力!?」
〈www〉
〈そこw?〉
〈笑わせんなwww〉
「黙れバカ女! 確かに僕は騙されたかもしれない! けど、お陰で重大な事実に気づくことが出来た! なにが絶対に死んではいけないソロ攻略だ! 中身が別人ならそんなのはただのヤラセ、インチキじゃないか!」
〈確かに……〉
〈どうなんだよ九頭井!〉
〈未来ちゃん……嘘だよね……〉
「あぁそれな。そもそもこの企画自体がこのクソバカ野郎を誘い出す為の罠だったんだよ」
「なっ!?」
〈ナンダッテー!〉
〈本当かよwww〉
〈九頭井ならやりそうwww〉
〈†unknown†様流石ですwww〉
「下調べしたんなら俺が配信オタクだって事も知ってるよなぁ? 俺もてめぇには応援してた配信者潰された恨みがあるんだよ。チャンスさえあればてめぇをぶっ潰してやりたいと思ってたわけだ。で、なんの因果かこの通り、俺もバズって配信する側に立っちまった。クソバカのてめぇの事だから、こんだけバズってりゃ遅かれ早かれちょっかい出してくるのは確実だ。つーわけで、特大の餌をぶら下げて待ってたわけだ。クソ雑魚素人がたった一人で保険もかけずに高級装備でダンジョン攻略だ。案の定食いついて来やがって。裏で笑いが止まらなかったぜ。って事でリスナー共! 後で俺の音声が入ってる完全版あげてやっから、楽しみにしてろよ!」
〈いぇ~いwww〉
〈それは楽しみwww〉
〈ゲラゲラだったろうなwww〉
〈まだ勝ってないのになにこの安定感www〉
〈これが†unknown†クオリティーwww〉
「調子に乗るなよクソガキ! 僕を抜いてもこっちは三人だ! たった一人で勝てるわけないだろ!」
「クソバカ野郎は目もわりぃのか? 誰が一人だ。ここに頼もしい仲間がいるじゃねぇか」
†unknown†が火竜を撫でる。
「そんなのただのハッタリだ! お前のスキル構成は大体分かってるんだ! 釣りに音楽に魔法に調教なら、
「なら試してみろよ。さっきのアイテムにはまだ保険はかけちゃいねぇ。俺を倒せたら丸儲けだぜ?」
〈余裕が過ぎるwww〉
〈いいから保険かけろよ〉
〈流石に調子乗り過ぎだって〉
〈舐めプは負けフラグだぞ〉
〈俺は†unknown†様を信じる!〉
「痛いロールプレイのクソガキ風情が! AOを舐めるなよ! 対人戦は対モンスター戦とはまるで違うんだ! 数こそ正義! お前がそこのバカトカゲに命令する前に消し炭にしてやる! やれ、お前達!」
裁人の命令に三人の
対人戦ではおなじみの、単体火力最強呪文【
集団戦ではこの呪文をあらかじめ
AOでは
並のビルドなら三人にフレイムストライクでSKされたら即死だろう。
HPを盛りまくった耐久特化型でも五人SKに耐えられるかどうか。
それだって、回復が間に合わず次のSKで撃破される。
それなのに、†unknown†のHPは7割以上残っていた。
「そんなバカな!? いくらタラスクをつけてたってフレイムストライクを三発受けてたったそれだけのダメージなはずないだろ!? わかったぞ! お前の正体はチーターだ! チートでダメージを軽減したんだろ!?」
「なんてこったー! バレちまったー! おれはもうオシマイダー!」
時継がわざとらしく頭を抱える。
〈wwwwww〉
〈腹痛いwww〉
〈おい、向こうのリスナー誰か教えてやれよwww〉
〈こいつマジで気づいてないの?www〉
「気付いてない? なんのことだ?」
裁人がキョトンとする。
『……リーダー。あいつ、ペットと重なって動く事で火竜にタゲを吸わせてます』
「なんだって!?」
火竜は調教スキルでペットに出来る上位モンスターの一つだ。
その名の通り火を吹いたり炎属性に対して高い抵抗力を持つのが特徴である。
あとデカイ。
なんたってドラゴンだ。
そんな火竜とぴったり重なり、相手の詠唱タイミングに合わせて小刻みに動く事で誤タゲを誘発させたのである。
それでも一発は当ててきたのだから大したものだと言っておこう。
ちなみに、通常の設定ではペットの行動はオートになっていて、ざっくりとした指示を出す事しか出来ない。
だが、調教や動物学と言った調教系スキルの合計がモンスターによって定められた要求値を超えた場合、
火竜の場合は、調教と動物学がそれぞれ限界突破の110以上必要である。
両方操作すると単純に操作量が倍になるので、完全な命令を使う場合、自キャラは安全な場所で放置して、プレイヤーはペットの操作に専念するのが普通だ。
だが、PSが追いつくのなら、時継のようにペットと自キャラを同時に操作して疑似的な盾にする事も可能である。
〈シンプルすげぇwww〉
〈FPSのレレレ撃ちかよwww〉
〈やってる事は同じだけどこっちの方がムズそうwww〉
〈シェーディングじゃん。噂では聞いたことあるけど実戦で使ってる奴初めて見たぞwww〉
そうこうしている間に†unknown†が魔法で減ったHPを回復させる。
「二回もチャンスをやったんだ。そろそろ反撃してもいいよなぁ?」
†unknown†が
『我が怒り、我が憤怒、我が憎悪の激しさを知れ』
暫しの詠唱時間の後、火竜のアンガーに加えて、厩舎に預けていた雷竜のラースと氷竜のヘイトリッドが召喚され、三人の赤ネームに襲い掛かる。
『こんなの聞いてないぞ!?』
『ここじゃ逃げ場がない!』
『だめだ、やられる!』
AOの対人戦において、調教師は不人気ビルドと言われている。理由は簡単で、機動力に劣るのだ。鍛えたペットモンスターは高い戦闘力を持つが、移動速度は騎乗したプレイヤーキャラに叶わない。
戦いにおいて、速度は数と同じくらい重要である。
足が遅ければ勝てる相手も殺しきれないし、不利な状況になっても一旦引いて立て直すという事が出来ない。
だが、このように狭い場所での戦闘なら凶悪過ぎる強さを誇るビルドでもある。
時継は三匹のドラゴンをマニュアル操作し、あっと言う間に三人のPKを殺して見せた。
〈調教師つぇえwww〉
〈てかドラゴン三匹同時使役ってコントロールスロット足りるの?〉
〈調教、動物学、獣医120まで上げてユニーク揃えたらギリ〉
〈マジのガチ構成じゃんwww〉
〈それだけで360だろ? 釣りも100以上だし、音楽と魔法も100以上っぽくね?〉
〈リスナー参加型のスキル上げの時その場で罠箱作ってたから大工と細工もかなり振ってるはず〉
〈いや、それだと計算合わんのだがwww〉
確かに、一連の配信を見ていると†unknown†のスキル構成は明らかに700ポイントの制限をオーバーしていた。
配信を見ていた裁人がしめたとばかりに騒ぎ出す。
「やっぱりチートだ! チートでスキルポイントを増やしてるんだ! こんなの勝てなくたって当然じゃないか! みんなでこいつを通報しろ! GMも見てるんだろ! さっさとこいつをBANするんだ!」
ゲーム内で不適切な活動を行うプレイヤーに対する注意、警告、隔離部屋への連行、その他にもゲーム内イベントの進行役や結婚式の司会なんかも行っている。
〈なんにも起きないな〉
〈チートじゃないんでしょ〉
〈てかまともな頭持ってたら配信でチートとかしないだろwww〉
そんな事したら一発BANである。
だが裁人は納得しない。
「おいGM!? 聞いてるのか! 給料泥棒の役立たずめ! たまには真面目に仕事しろ!」
どうやら本当に配信を見ていたらしい。
抗議の意思を示すように、裁人の頭上にピシャン! とダメージ判定のない雷が落ちる。
〈ワロタwww〉
〈天誅落ちてるじゃんwww〉
〈いぇ~いGMさん! 見てる~!〉
〈GMは正体秘密にしないとだから見ててもコメント出来ないだろ〉
「バカな!? じゃあ、どうやってこいつはこんなに沢山スキルを取ってるんだよ!?」
「バカはお前だって。そんなもん、ソウルストーンで入れ替えたに決まってるだろ」
「ソウルストーンフラグメントだと!?」
〈マジかよwww〉
〈まぁ、それ以外考えられないけど〉
〈もったいねぇwww〉
ソウルストーンフラグメントは高難易度ダンジョンで得られる希少な素材を使って作成可能な設置型の生産アイテムだ。
機能は覚えたスキルの保存と引き出しである。
二つ用意すればスキルの入れ替えも可能だ。
ただし、ソウルストーンフラグメントは一度使うと光を失いただの置物になってしまう。
スキル上げの面倒なAOにおいて、全てのプレイヤーに需要があるので、常に高値で取引される高額アイテムである。
時継がこの日の為に†unknown†のスキルを入れ替えたのなら、最低でも数百万ゴールド相当のソウルストーンフラグメントを使った計算になる。
そりゃ勿体ないと言われても仕方がない。
「はっ! それだけ君も必死だったってわけか! そりゃそうだ! 相手はなんといってもこの僕、登録者30万人超えの有名配信者、天誅裁人なんだからね! 今回は無能な部下のせいで遅れを取ったけど、数百万ゴールド分のソウルストーンフラグメントを浪費させたのなら引き分けみたいなもんだろう? むしろ、僕の勝ちまであるんじゃないか? はーっはっはっは!」
〈う~んこのwww〉
〈メンタル鋼タイプかよwww〉
〈いや完全に負けてるだろ〉
〈でも実際勿体なくね? こんな奴の為にフラグメント使うとか〉
「バカ笑いしてる所悪いんだが、俺が使ったのは使い切りのフラグメントじゃなくて、普通のソウルストーンの方だぞ」
「は? 普通のソウルストーン? そんなわけないだろ! あれは大昔の大型アプデ用ソフトの初回購入特典でたった一度出回っただけの超レア物だぞ!」
裁人が驚くのも無理はない。
大昔とは、二〇年も前の事である。
あまりにバランスブレイクなアイテム過ぎて、当時のAOは荒れに荒れた。
第ニ次AOブームの最中という事もあり、あちこちで買占めや転売行為が横行し、ソウルストーンの引き換えコードがリアルマネーで10万近くで取引された程だ。
詐欺事件も起きたりで、社会現象としてテレビでも話題になった。
当時ですらそんな価格だ。
今の値段はとんでもないことになっている。
正真正銘の超高額アイテムである。
まぁ、生まれる前の話なので時継も人から聞いた知識なのだが。
「んな事言われてもな。持ってるんだから仕方ないだろ。ってわけで俺はノーダメ、お前はバカ。バーカバーカ。そっちのリスナー。こんなつまんねー奴の配信なんか見てないで俺等の配信見に来いよ。こっちは面白い上に美少女JKまでついてくるぞ」
「ど~も! 美少女JKです!」
コメントでリスナーと戯れていた未来が思い出したようにピースする。
「おいバカ!? ふざけ――」
もう用はないので時継は裁人のゲーム内ボイチャをオフにした。
〈宣伝すなwww〉
〈未来ちゃんも開き直ってるwww〉
〈どーもwww天誅チャンネルから来ましたwww〉
〈裁人より全然おもしれーwww〉
〈チャンネル登録しましたwww〉
〈九頭井……。推しの仇討ってくれてありがとう……〉
〈†unknown†様最強! †unknown†様最強! †unknown†様最強!〉
「おう、ムカつく野郎は凹ましたし、配信も盛り上がってめでたしめでたしだ」
『ふざけるな! こんな結末僕は認めないぞ!』
裁人がゲーム内チャットで文句を言ってくるが。
「勝手に言ってろ。俺は帰るぞ」
『ルーン
移動呪文を唱え、†unknown†はその場を後にした。
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