第9話 未俺恥……

「わぁ~! なにこれ! 可愛い~!」

「リスナー。解説よろ」


〈低難易度の音楽スキル、森の練習曲エチュード

〈その土地に出現する非敵対生物を集める効果〉

〈って事になってるけど実際は湧かせて集めてる〉


「ご苦労」


〈www〉

〈リスナー使ってんじゃねぇよwww〉


「いいだろ。これも一つのリスナー参加型って奴だ」

「え~! そんなスキルもあるんだ! いいないいな~! あたしも音楽覚えちゃおっかな~」

「戦士だろ。やるなら別キャラにしとけ」

「え~! なんで!」

「なんでって……。まさか委員長、700ポイント制限知らないのか?」

「………………?」


 目をパチパチさせてミライが首を傾げる。


「おい古参リスナー! お前らこいつにどういう教育してんだよ!?」


〈最初に説明したんだよ!〉

未俺恥未来ちゃん、俺、恥ずかしいよ……〉

〈うちの子は感覚はだから……〉


「だってこの手のゲーム初めてなんだもん!?」


 未来が言い訳をする。

 とりあえず呆れられているという事は分かったらしい。


「三か月で初心者名乗ってんじゃねぇっての」


 ぼやきつつ、時継はAOの仕様を説明した。


 AOのスキルは熟練度制で、特殊なアイテムで限界突破しなければ、各スキルの熟練度は100まで上げられる。


 覚えられるスキルの数に上限はないが、熟練度の総量は700ポイントまでと決まっている。こちらも特殊なアイテムで限界突破出来るが、初心者には関係ない話である。


 全部100まで上げるなら7種類のスキルを覚えられるし、それ以下の数字に調整すればもっと多くを覚える事も可能だ。


 例えば、魔法スキルは呪文ごとにランクが設定してあり、熟練度によって成功率が決まる。


 魔法スキルが50あれば、ランク3までの呪文は100%成功するが、4以降は

失敗する確率が増えていき、ランク6以上の呪文絶対に成功しないという感じだ。


 ビルドや使いたい呪文に応じて熟練度をケチる選択肢もあるという事である。


「……なるほど!」


 無駄に凛々しい顔で未来が返事をする。


〈なるほど! ←なにもわかってない〉

〈返事だけは百点www〉

〈最低限のスキル設定はやらせたから大丈夫〉


 スキル設定とは、スキルごとの上昇、減少、固定に関する設定である。


 そのままでは全てのスキルが上昇判定の度に上がってあっと言う間に700に達してしまう。


 そうなるとこれ以上スキルが育たないので、上げたいスキルだけ上昇するよう設定したり、必要な分育ったスキルの熟練度を固定したり、不要になったスキルを下げる設定などが行える。


「とにかく、そいつは戦士だから音楽覚えても意味ねぇって事だ。やるなら二キャラ目にしとけ」

「は~い」


 未来は素直に納得するが。


〈†unknown†だって釣りに魔法に音楽とかメチャクチャなスキル振りしてるだろ〉

〈確かに〉

〈ビルドにすらなってない〉


「俺はいいんだよ」


 時継はバッサリ斬り捨てた。


「それで、鳥さんとかリスさん集めてどうするの?」

「こうするんだよ」


 †unknown†が太鼓を叩く。


 挑発的なリズムに煽られて、集まった小動物達が一斉にミライに襲い掛かる。


「いやあああああああ!? なにこれえええ!?」


〈扇動者の行進曲マーチ。中難易度の音楽スキル。効果範囲内の動物やモンスターを扇動して対象を襲わせる〉


「言われる前に解説するとは良い心がけだ。褒めてやるぞ」


〈ありがたき幸せ〉

〈www〉

〈なんで秩序世界オーダーワールドでプレイヤーに攻撃出来るの?〉

〈パーティー内のFFフレンドリーファイヤ設定許可にしてれば出来る〉


 リスナーが補足する。


 AOはルールの違う同じマップが鏡合わせのように二つ存在している。


 一方は安全な秩序世界オーダーワールド、もう一方は危険な混沌世界カオスワールドだ。


 秩序世界はプレイヤーに対する攻撃や窃盗等が仕様上出来ないようになっている。


 混沌世界はその逆で、犯罪者フラグは立つが、行為自体は可能である。


 混沌世界でPKを行った際、一定期間内に殺した対象からの殺人報告が五件以上入ると殺人者として名前が赤くなる。


 また、犯罪者フラグが立つと名前が灰色になり、他のプレイヤーに殺されても殺人報告を入れる事は出来ない。犯罪者は殺されても文句は言えないという事である。


 言うまでもなく秩序世界の方が安全な為、プレイヤーの多くを占める狩り専やライトユーザーには人気がある。


 一方で混沌世界は対人好きやヘビーユーザーに人気があり、敵のドロップや採取アイテムの増量、混沌世界限定のイベントや高難易度ダンジョンなども存在する。


「リスナーさんと喋ってないで助けてよ!? 死ぬ! 死んじゃう!?」


 †unknown†の周りをミライが逃げ回る。


 小動物とは言え数が数だ。


 装備がカスという事もあり、じわじわとHPが削られていく。


「治療スキル取ってるだろ。ちゃんと包帯巻いてりゃ死なねぇから逃げんな」


 †unknown†が石壁を出してミライの進路を塞ぐ。


「ホゲッ!?」


 石壁にぶつかって未来が悲鳴を上げた。


〈ホゲッwww〉

〈感覚リンクしてんのかよwww〉


「なんでこんな事するの!?」

「盾スキルは非難易度制だから回避判定の度に熟練度の上昇判定が発生する。効率よく上げるにはこうやって雑魚にボコられるのが一番なんだよ。ついでに包帯も巻けば治療スキルも上がって一石二鳥だ」

「本当だ! サクサク上がる! って、無理!? 回復間に合わないよ!?」

「なら逃げろ。引き際を見極める練習だ。プレイヤースキルも鍛えられて一石三鳥」

「が、頑張ります!?」


 焦りつつ、未来が耐えたり逃げたりを繰り返す。


「ちなみに、盾上げに関しては装備が揃ってる奴はHP自然回復盛りまくって自動修復ついてる防具揃えとけば放置出来る。自動回復は死霊術ネクロマンシーの【人狼化ライカンフォーム】の追加効果で補ってもいいぞ。【人狼化】は熟練度40から唱えられるから、アクセでスキル盛ってスクロールで無理やり変身するのもありだ」


〈なるほど~〉

〈その手があったか〉

〈やってみる!〉


「あと治療スキルだが、こいつはDEXが高い程巻き終わるまでの時間が早くなる。加えて、他人に巻く場合は巻き終わるまでの時間が半分以下になる仕様だ。お前らには言っても仕方ないと思うが、友達のいる奴は毒罠やダメージ罠を仕込んだ小箱を用意して包帯巻き合おうとメチャクチャ効率良いぞ」


〈www〉

〈急に刺してくるじゃん〉

〈泣いちゃった……〉

〈ソロ専で悪かったなwww〉


「折角だ。包帯上げたい奴はここにきて一緒に上げたらどうだ? 今回は特別サービスって事で、自傷用の罠箱は俺が用意してやる」


〈マジで!〉

〈行く行く!〉

〈うわ~! 同じ鯖だったら行けたのにな~!〉


 ぞろぞろと初心者が集まり、スキル上げ大会が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る