第8話 始まりの街パラディソ

 そして翌日。


 初心者の集う初期地点の街、パラディソから徒歩10秒の野原にて。


「皆さんこんばんは! 愛敬堂の未来を担う、愛敬堂ミライチャンネルです! 今日も愛嬌いっぱいでがんばりま~す!」


〈ニッコニコでワロタwww〉

〈もう怒ってないの?〉

〈あのまま解散するかと思ったわwww〉

〈マジで心配した〉


 昨日はキレた未来が配信をぶち切ったので、リスナーの中には早くも二人が喧嘩別れになるのではと心配する声が少なくなかった。


「えへへへへ。リスナーさん、心配させちゃってごめんね。あの後落ち着いて考えたら、別に言うほどエッチな画像じゃなかったし、体操着姿くらいだったら別にいいかなって」

「というのは建前で、昨日の配信がバズって登録者数一万人超えたから許されただけだぞ。本当、現金な奴だよな」

「しぃ~! しぃ~! 九頭井君!? なんで言っちゃうの!? 一応あたし、清楚系のキャラでやってるんだよ!?」


〈キャラだったんかいwww〉

〈腹黒ワロタwww〉

〈やっぱ二人の方がおもろいわwww〉


「別にいいだろ。ウケてんだから」

「そうだけど!? うぅ……」


〈¥5000 一万人おめでとう!〉

〈¥3000 二人になっても応援してるぞ〉

〈¥921  未来ちゃんを泣かせたら承知しないからな〉


「あわわわわ、リスナーさん! スパチャありがとうございます! みんなの期待に応えられるよう一生懸命頑張ります!」

「九頭井だから921円かよ。どうせなら億康とかに生まれて来るんだったぜ」

「九頭井君! スパチャに文句言わないの!」

「わーってるって。ただの冗談だろ」


〈いや億は投げられんやろwww〉

〈相変わらずのクソガキwww〉

〈今日のオフショットまだ~?〉


「あぁ。本日のチョイエロ画像だけど、委員長が味占めたから、今後はツイッターの愛敬堂ミライチャンネル公式アカウントにアップしてくわ」

「九頭井君!? 味を占めたんじゃなくて許可しただけ! あと、エロ画像じゃなくて普通のオフショットだからね!? 誤解を招く言い方しないでね!?」

「別にいいだろ。その方が俺みたいなバカでエッチでスケベで変態なリスナー共が釣れるんだから。ほれ見ろ、早速登録者数増えまくってるぞ」


〈根に持ってるwww〉

〈エロ画像発言感謝〉

〈お弁当食べてる未来ちゃん可愛い過ぎる〉


 これについては昼休みに未来と作戦会議を開いていた。


 折角ツイッターに公式アカウントがあるのに、やっている事と言えば配信告知と愛敬堂の商品宣伝RTばかりである。


 これでは美少女配信者の意味がない。


「昨日のアレで分かっただろ? 数字が欲しけりゃ強みを生かせ」

「でも、エッチなのを売りにするのはちょっと抵抗が……」

「よく見ろ、ただの体操着姿だろ。配信中の部屋着と大差ねぇ。昨日の配信でラインは引いた。リスナーだって別に露骨なエロが見たいわけじぇねぇ。委員長の日常を感じられる普通のオフショットで十分なんだよ」

「……なるほどぉ」


 そんなやり取りがあっての夜の配信である。


『凄い凄い! 九頭井君の言う通り、ツイッターの登録者数もめっちゃ増えてる!』


 裏で未来がチャットを飛ばしてくる。


 時継的には大したことではない。


 こんな事は売れてる配信者ならみんなやっている。


 そういう意味でも、未来のチャンネルはまだまだ伸びしろがあると言える。


『いいから今は配信に集中してろ』

『は~い!』


「つーわけで今後は委員長の呟きも増えるから、ファンの奴らは登録しとけよ」

「愛敬堂の和菓子の宣伝もやってるから、RTお願いします!」


 ペコリと未来が頭を下げる。


「それじゃあ一万人も突破したし、頼れる†unknown†様もいる事だから、今日はサクッとオーガ窟攻略のリベンジ配信やっちゃおっか!」

「やりません」

「え~!? なんで~!?」


 即答で却下され未来が不満の声を上げる。


〈www〉

〈早速主導権握られてるwww〉

〈だと思ったwww〉

〈未来ちゃん負けるなwww〉


「委員長のキャラがクソ雑魚過ぎて使い物にならねぇからだよ」

「そこは九頭井君の†unknown†様がちゃちゃちゃっと」

「そんな配信面白いわけねぇだろうが!?」


 †unknown†の放った魔法でミライが爆死する。


「うぼぁああああ!?」


〈うぼぁああああってwww〉

〈リアクションが良すぎるwww〉

〈前からリアクションには定評があった〉

〈叩けば鳴るおもちゃだから〉


 流れるように蘇生しつつ。


「ただでさえ初心者ダンジョンの攻略配信なんか今更オブ今更なんだぞ! それを何の役にも立たない委員長連れて攻略とか退屈過ぎて欠伸もでねぇわ!」

「え~! じゃあどうすればいいの!?」

「スキル上げしろ! なにをするにも話はそれからだ」

「え~! またスキル上げ~!」

「文句あんのか?」

「……だって。このゲーム全然スキル上がんないんだもん」


 大福みたいなモチモチのほっぺを膨らませて未来がいじける。


「それは委員長のスキル上げが間違ってるからだ。そいつ純戦士だろ? 効率よくやれば最短三日で完成する」

「三日ぁ!?」


〈流石に三日は嘘だろ〉

〈ちゃんと準備して丸三日フルに使えばいけなくもない〉

〈100まではな〉


「まぁ、初心者が用意出来るアイテムで三日は無理だが。それでも工夫すりゃ二、三週間って所だろ」


〈マジ?〉

〈始めたばっかりだから知りたい!〉

〈俺も!〉


「じゃあ、リスナーさんも興味あるみたいだし、今日はスキル上げやろっか!」


〈現金www〉

〈掌ドリル来たwww〉

〈配信者らしくなってきたなwww〉


「現金じゃないよ! リスナーさんお客様に寄り添ってるだけ!」

「なんでもいいけど、取り合えず簡単に上げられる盾からやってくか」


 †unknown†が笛を吹く。


 楽し気な音色に釣られて、小鳥やリスが集まって来た。

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