第7話 大事なお知らせ

「……今日はリスナーの皆さんに大事なお知らせがあります」


 葬式みたいな黒背景に、葬式みたいなテンションで未来が始める。


 あ、これ引退だ。


 そんなムードにリスナーが慌てる。


〈未来ちゃん辞めないで!〉

〈メンタル弱すぎwww〉

〈まだ初めて三か月じゃん! 全然伸びてる方だって!〉

〈†unknown†様助けてくれー!〉


 そこから未来は自分の力不足、今まで応援してくれたリスナーへの感謝、このままの配信スタイルでは愛敬堂を救う事は出来ない事等をつらつらと告げていく。


〈お?〉

〈これはもしやwww〉

〈流れ変わったな〉


 勘のいいリスナーがぽつぽつと気づきだす。


 ネタバレコメントをされる前に、未来はフリー音源で探してきたバカみたいに明るいBGMを流し、時継の画面共有をオンにした。


 パッと未来の隣に四角く切り抜かれたAOのゲーム画面が映し出される。


 中央で腕組みをするのはもちろん†unknown†だ。


「つーわけで、今日から愛敬堂ミライチャンネルのサポートメンバーに加わる事になった†unknown†こと九頭井時継だ!」


〈待ってました!〉

〈†unknown†様キター!〉

〈マジで加入しやがったwww〉

〈引退じゃないんかいwww〉


 緊迫していた配信の空気が一気に弛緩する。


「リスナーさん! 心配させてごめんね! リスナーさんの助言とか色々考えて、これからは二人体制でAO配信やっていく事にしました!」

「いぇ~い! 委員長のリスナー! 見てる~?」


 ダビルピースで時継がお道化る。


〈NTRビデオかよwww〉

〈クソワロwww〉

〈失せろクソガキ〉

〈呼んでねぇよ〉


 †unknown†が初めて登場した配信の天丼ネタである。


 大半のリスナーには大ウケだったが、ガチ恋勢はブチ切れだ。


 もちろんそれも想定の内。


「うははははは! 心配すんなって! 別に俺ら、そーいう関係じゃねぇから! てか、こんな美少女が俺みたいなクソオタになびくわけねぇだろ? マジで全然一ミリもラブコメ展開とかねぇから。むしろビジネス? てか完全ビジネス。この女、愛敬堂を救う為とか言って収益の半分と和菓子食べ放題で俺の事を雇いやがった。マジでふざけてるだろwww」


〈www〉

〈マジかwww〉

〈本気過ぎるwww〉

〈ガチじゃんwww〉


「もちろんガチだよ! 遊びなわけないでしょ! こっちは家族の生活がかかってるんだから! 悪魔に魂売ってでも登録者増やさないとダメなの!」


 ぐっと未来が拳を握る。


 ここももちろん時継の台本である。


 教室で未来に同じような事を言われた。


 正直、あれは痺れた。


 時継が痺れたんだから、リスナーにだって伝わるはずだ。


〈痺れた〉

〈かっけぇ〉

〈なにこの子。普通にかっこいいんだけど〉

〈これが俺達の推しなんだよなぁ〉


 配信の流れが一気に変わる。


 リスナーだってバカじゃない。


 未来の覚悟が伝われば、時継の加入だって許されるはずなのだ。


 時継の読みは的中した。


 だが、まだ足りない。


 折角ここまで盛り上がったのだから、狙うは勿論バズである。


「委員長はこう言ってるけどよ、お前ら的には不安だよな? こんなクソガキが加わって本当に大丈夫なのか? ちゃんと視聴者増えんのか? って」


〈それはそう〉

〈自分で言うかwww〉

〈クソガキが調子乗んな〉

〈俺らが見たいのは†unknown†様であって中の人じゃねぇから〉


「言いたい事は色々あるだろうが、論より証拠だ。この配信でお前らをキッチリ満足させて、その上でバズもゲットしてやる」

「九頭井君!? 台本と違うんだけど!?」


 慌てた未来がハッとして口を押さえる。


〈台本www〉

〈もしかして俺ら踊らされてた?〉

〈だとしたら策士すぎるだろwww〉


「配信で一番盛り上がるのは予想外のサプライズだからな。って事で今まで委員長を応援してくれた古参リスナー共に感謝の意味を込めて、この俺がこっそり隠し撮りした委員長のちょっとエッチなオフショットを大公開だ!」


 時継の画面が切り替わり、体操着姿でストレッチをする未来の画像が表示される。


「いやああああああああああ!?」


 マジのサプライズに、未来がガチの悲鳴を上げる。


 慌てて時継の画面共有をオフにするが、後の祭りだ。


〈保存したwww〉

〈可愛すぎだろ……〉

〈クソガキ最高www〉

〈†unknown†様に栄光あれ!〉

〈悔しいがこれは認めざるを得ないwww〉


「だっはっは! そうだろうそうだろう! 安心しろよリスナー共! 俺はそっち側の人間だ! 俺がこのチャンネルのサポートに入ったからには、これからも定期的に委員長のエッチなオフショットや裏話を供給してやるぜ!」

「しないで!? っていうかなにしてくれてるの!? 九頭井君のバカ! エッチ! スケベ! 変態!」

「どんな手を使ってでも登録者増やしたいんだろ? 見ろよこの同接と盛り上がり! 断言するぜ! この配信は必ずバズる!」

「そんなバズ望んでないよ!?」

「あぁ? バズはバズだろ? てか、委員長の画像一枚でこれだけ盛り上がるとかチョロすぎだろ。折角だし、もう何枚か上げとくか」

「ダメ!? 以上お知らせ終わり! 解散!」


 未来が配信をぶち切った。


 メチャクチャ怒られたが、翌日には許された。


 登録者数が一万人を超えたからだ。

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