またねは会うための呪文

青いバック

その言葉は吐いても大丈夫

 夕焼けが街をオレンジに染めて、君の頬も赤く染まる。一日の半分が終わったとわかるこの時間は、心にぽかんと穴が空く。哀愁が体を包んで、まだ寒くなりきれない夏の気配が乗りまくった気温が肌を撫でる。


 君が踵を返して、私の方を見る。ニヤッ、と小悪魔のように笑うその顔は今何を考えているのだろう、それに背景の夕焼けがとてもよく似合っている。君を象徴させ、君をより際立たせている。顔の輪郭を影がなぞって、地面にも細長い影が一つ。


「もうこんな時間になっちゃったね」


 早いね、と君は口に出してないけどそう言っているように聞こえて、私といるのが楽しいということなのだろうかと変に考えてしまう。好きな人とか心地よい人といると時間が早く過ぎると言うけど、それが私に当てはまっていたらどんなに嬉しいことか。


 もし、そうならばこの夕焼けはもっと綺麗に見える。


「……早いね」


 私はひと呼吸ついてから言う。ふわりと君の腰まで伸びた髪の毛が優雅に踊って夕焼けに背を向ける。


「もうまたねしないといけないね」


「寂しいの?」


「寂しいよ。だって、君といるの楽しいもん」


「…………私も」


 待っていた言葉。聞きたかった言葉は不意に君の口からするりと出てきた。私の心臓はドキッと鳴って、思考は一瞬フリーズする。露骨に言葉は詰まる。


 夕焼けは頬のあかさを誤魔化してくれて、君は背を向けてくれている。私のこのニヤケづらは照れている顔は君にバレない。


「またねは君との別れを言う言葉だけど、次も会おうねって意味もあるから悲しくないよね」


「うん、いつでも会おう。その言葉を言う限り」


「じゃあ、またね」


「うん、またね」


 君はまたねを空気に躍らせて、夕焼けに染った街に姿を溶け込ませた。姿が完全に溶け込んで見えなくなった時、私は君のまたねを反芻してまた合う日を楽しみにする。

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