第10話 羽菜とのお出かけ
日曜日。
羽菜には『改札前にいるよ』と居場所を知らせて、通行の邪魔にならない場所に移動する。
日曜日ということもあり、駅前は人で賑わっていた。家族連れやカップルが楽しそうに目の前を通り過ぎる。人混みが苦手な綾斗は、この時点でちょっと帰りたくなった。
13時ぴったりになると、改札の向こう側から羽菜が歩いてくるのが見えた。
淡いブルーの丸襟ブラウスに、ハイウエストのデニムをまとった羽菜。肩からは小さなショルダーバッグが下げられており、どことなく女の子っぽさを感じさせた。制服姿しか見たことのなかった綾斗にとっては、羽菜の私服は新鮮だった。
羽菜は綾斗を見つけると、小さく手を振る。そのまま小走りで向かってきた。
「すいません。お待たせしてしまって」
「ううん。たいして待ってないよ」
笑顔でそう伝えると、羽菜はまじまじと綾斗の顔を見た。
「それは作り笑いですね」
普通に見破られて焦った。ぎこちなく笑ったつもりはなかったのだけど。
気まずさを感じていると、羽菜は綾斗の姿を上から下までまじまじと見つめた。
「私服姿の綾斗くんは新鮮です。爽やかでカッコいいですね」
思いがけず羽菜から私服を褒められて驚いた。話題にすら挙げられないと思っていたのに。
綾斗の服装なんて、いたって普通だ。白地に紺のボーダーが入ったカットソーに、黒のチノパンを合わせただけだ。
どちらも日用品や衣料品が売っている生活用品店で揃えたもので、特段おしゃれなわけでもない。どこにでもいる量産型と言える。
きっと女子特有の社交辞令だろうと判断し、綾斗は笑って受け流した。
「俺なんて普通だよ。羽菜ちゃんの方がずっと可愛い」
話題の矛先を変えるためそう伝えると、羽菜は驚いたように目を丸くした。それからもじもじと視線を逸らす。
「お世辞でも、嬉しいです……」
「お世辞なんかじゃないよ。羽菜ちゃんらしくて、とっても似合っている」
羽菜はもう一度綾斗を見つめた後、真っ赤な顔でペコっと頭を下げた。
「……負けました」
「なにが?」
思わず聞き返した綾斗だったが、羽菜がそれ以上説明してくれることはなかった。
*・*・*
羽菜の先導のもと歩いていくと、『ジョイタウン』と呼ばれる屋内型遊園地に到着した。
「今日はここで遊びます」
羽菜はこれから遊園地に入るとは思えない真面目な表情で告げた。
(おーお……そう来たか……)
まさか遊園地に連れて来られるとは思わなかった。その心づもりでは来ていなかったから、かなり面食らった。
遊園地に行くというのは相談ではなく決定事項だったようで、綾斗が意見する隙もなく羽菜はスタスタとチケット売り場に向かった。
入園すると、薄暗い室内に様々なアトラクションがあった。ジェットコースター、お化け屋敷、シューティングアトラクションなど、屋内とは思えないラインナップだ。
園内マップを見ながら感心していると、羽菜にくいくいと服の袖を引っ張られた。
「綾斗くん、まずはあれに乗ります」
羽菜が指さすのは、園内でもひときわ目立っているジェットコースター。入園と同時に悲鳴が聞こえていたから、すぐに存在には気付いた。
「初っ端からジェットコースターなんだ」
「嫌ですか?」
「嫌ではないけど……」
「じゃあ行きましょう」
綾斗が嫌がっていないと分かると、羽菜は躊躇いなくジェットコースターの列に並んだ。
一時間ほど並んだ後、二人はジェットコースターに乗り込んだ。
そこからは地獄だった。
室内のジェットコースターだからそこまで恐怖は感じなかったけど、周りの悲鳴に圧倒されてしまった。思わず耳を塞ぎたくなったが、上下左右に揺れる中ではそれもままならない。怖いというよりも煩さにびっくりしてしまった。
ふと、羽菜の様子を伺うと、真顔で座っている。叫ぶこともなければ、恐怖で顔を引き攣らせることもない。ただ、真顔で座っていた。
ジェットコースターから降りる頃には、綾斗はげっそりしていた。力なく笑う綾斗を見て、羽菜はおもむろにスマホを取り出す。
「絶叫系はバツっと」
スマホに何かをメモする羽菜。その情報が何の役に立つのか分からなかったけど、羽菜にとっては大事なことのようだ。
メモが終わると、羽菜は再び綾斗の袖と掴んだ。
「次行きましょう」
そのまま次のアトラクションに連行された。
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