タイムスリップ
@antedeluvian
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後輩が先輩を先輩にするというのならば、乃木坂46というグループ自体も先輩だ。欅坂46という後輩グループが誕生したからだ。欅坂46は、やがて日向坂46と櫻坂46へと姿を変えていく。
2016年の2月に放送された「乃木坂工事中」のバレンタイン企画で、伊藤かりんさんのチョコを貰うために立候補した高山一実さんが「もし貰えなかったら、欅坂ちゃんを可愛がる」と言っていて、もうこの時には乃木坂46は先輩としての自覚を持っていたと言えるだろう。
ライバルの存在は何をもたらすのだろう?
乃木坂46はAKB48の公式ライバルとして産声を上げた。人類の歴史上でも、既存の文化に対する潮流がカウンターカルチャーとして生まれて、後に文化として定着していくものもある。人は何かとバランスというものがこの世界に存在していると考えがちだ。
私は、当時はバナナマンのラジオをずっと聴いていた。それまでのバナナマンは二人ともももいろクローバー(当時の名前)の話をよくしていた。今、乃木坂46を「乃木坂ちゃん」という流れは「ももくろちゃん」からきているのではないかと思う。
そんなある時に、バナナマンの二人は、新しく結成されたアイドルグループの冠番組のMCとして指名されることとなった。当時は、デビュー前から冠番組を持つというのはほとんどないことで、劇場を主戦場にしていたAKB48が当たり前の時代だった。AKB48にとっての劇場と、乃木坂46にとっての冠番組は、位置づけとしては同じようなものなのだろうと想像する。
デビュー前は楽曲も製作されておらず、「乃木坂って、どこ?」のエンディングでは「楽曲を鋭意製作中です」みたいなテロップが流れていた。なんとなく、その様子は急造の、場当たり的な感じがして、本当に大丈夫なのだろうかと思いながら私は番組を観ていた。
「会いたかったかもしれない」という楽曲を初めて聴いた時に、乃木坂46は色物グループなのではないかと思ったのを今でも覚えている。既存の、それもライバルと名指ししているグループの曲のマイナーチェンジバージョンの曲だ。本当に大丈夫なのだろうかと、また思った。
二作目の表題曲「おいでシャンプー」は、初期の振り付けではスカートをめくり上げるパートがあった。それが「はしたない」と、今でいう炎上が起こった。もしかすると、そういう戦略だったのかもしれないが、それはどうでもいいことだ。大丈夫だろうか、という思いはまだずっと続いていた。
「制服のマネキン」「君の名は希望」が世に出た時が、乃木坂46としての最初のターニングポイントだっただろう。今に続く道筋の一歩が刻まれた。結成から一年以上が経過していた。
だから、時代を突っ走って来た彼女たちが「インフルエンサー」で日本レコード大賞を取った時には、ついにここまでやって来たのかと、感慨に耽ったものだ。
乃木坂46との番組が始動してから、バナナマンの二人からは乃木坂46の話題ばかりが出るようになった。時折、ももいろクローバーの名前は出るが、その頻度はどんどん変わって行った。
バナナマンの二人は情に厚い人たちだ。この二人に出会えたことは、乃木坂46の財産であると言っていい。今や芸能界のトップに立っているといっても過言ではないバナナマンとの固い絆はそうそう途切れるものではない。
少し話は逸れるが、バナナマンの二人には、乃木坂46の冠番組からMC交代のお伺いがあった過去がある。それをバナナマンの二人は跳ねのけてくれた。この変化の多い世界の中で関係性を維持し続けてくれるのは、愛でしかない。乃木坂46は人に、愛に恵まれた。それを引き寄せたのは、彼女たち自身だ。
乃木坂46は日本のエンタメのメインストリームを駆け上がって来た。それもこれも、AKB48という名前に引っ張り上げてもらい、様々な矢を受けながらも彼女たちがお互いを支え合ってきたからだ。2011年、AKB48にとって乃木坂46がどのような存在として映っていたのかは知らない。だが、その追体験を私はしている。
僕が見たかった青空が今日2023年8月30日にデビューした。その活動を追ってはいないが、音楽番組で見せる初々しさに、当時のAKB48ファンも結成当時やメディアに露出し始めた頃のことを思い出したのだろうかと思いを巡らせた。
僕が見たかった青空を私は微笑ましく見ている。
乃木坂46を見ていて分かるのだが、あの世界に悪者などいない。だから、乃木坂46のライバルとして担ぎ上げられて、がむしゃらに突き進んでいる彼女たちが少しかわいそうに思うし、その道程を乃木坂46も辿って来たのだと思うと、ライバルという存在が乃木坂46をより際立たせるような、より強くさせるようなもののように見えてくる。鏡のようなものだ。それを見て、自分は自分を認識する。認識するから、より良くなろうと思えるのだ。
想像していたことがある。
もし乃木坂46の感情豊かなメンバーが秋元康さんに「どうしてライバルグループなんて作るんですか?」「私たちのことは忘れちゃうんですか?」と聞いたとしたら、何が返ってくるのだろうか、と。
たぶん「君たちのためだよ」と返されるんじゃないだろうかと思う。そして、その答えを我々はすでにあの熱い青空の下で見ている。それが梅澤美波さんの言葉だ。
「私たちが乃木坂46です」
そう言わせてくれたのは、ライバルの存在でもあったのかもしれない。
written by antedeluvian
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