第10話 私は飛ばす

「先生! じゃーん、これ見てくださいよー!」


 私はドヤ顔でめねじを五つ搭載した右脚を見せる。どう、頭の悪い私にしてはよくやった方じゃない?


「はえ~……『めねじ』か。発想はいいけど重てぇやろ、扱えるんか?」


 うぐっ。痛いところを突いてくるなぁ。今は扱えるかどうかの話じゃなく、単純に見てほしかっただけなのに~。


「そ、その辺は……ぼちぼち練習しますよ……」


「ぼちぼち、じゃ間に合わんやろ。京石きょうごくの言うたこと、な~んも理解しとらんやん」


 巣戦そうせんでの『一敗』は、後に巣戦拠そうせんきょで大きく響いてくる。そんなことは頭では分かっている。

 だけど、地雷を踏み抜いた高世はまだしも、今の時期に私なんかと巣戦をやるヤツもいないだろう。義足持ち初めてなんだし、巣戦拠の直前でも勝ち星を稼げる、いわゆる雑魚として見られているんじゃないのか?


「分かってますよ。ただ、まだ四月なのに私なんかと巣戦はしないでしょ。みんな、私相手なら楽勝だと思ってますって」


「果たしてそうかねぇ……まあええわ、そのめねじを使ってなんか新技作ろか! ほらアレよ、螺子巻きなんとかシリーズな」


「ああ言うな言うな! 今になって恥ずかしくなってきたー!」


 あの時は謎のテンションになっていたとはいえ『螺子巻き鉄鎚スクリューハンマー』のネーミングセンスは自分でもダサいと思う。中学生じゃないんだから。まあ代案は何一つ思いつかないんだけど。


「とりあえずその脚も技の一つにはなるか。やけど使い勝手が悪いな。翔子しょうこ、全部のめねじをギチギチに閉めるんやなくて、一番足側にあるヤツをストッパーにして、あとは緩くしてみ」


「はーい」


 まずは義足を螺子巻き鉄鎚の状態にしてから、鉄鎚部分より少し小さいサイズのめねじを作る。鉄鎚がストッパーになるので、各めねじの締まりは緩いものの、飛び散ることはない。


「お、ええ感じやな。これで遊びができて少しは軽くなったろ? ちょい足上げてみ」


 先生の言葉に操作され、私は蹴りのモーションをとる。


「おっ、確かにさっきより軽い! だけどこれじゃ威力は高くないですね……あ、当てる瞬間だけ五つ全てをぶつける感じでいきますか」


「やな。本命の鉄槌を避けても、めねじからの一撃が来る。より相手にダメージを与えることに特化した技……螺子巻き五輪鉄鎚スクリュークラッシャーとかどうやぁ?」


「結局名前は螺子巻きシリーズでいくんですね。決めた私が言うのもなんですけど、それやめません?」


 それ、時間が経てば経つほど恥ずかしいヤツだから。戦法が増えれば増えるほど痛いヤツだから! ニタニタしながら言うな!


「やめへ~ん。せっかくあんたがカッコ良くキメて格上に勝ったんやから、ちゃんと誇ってええで」


「はいはい、じゃあもうそれでいいです。五輪鉄鎚ね五輪鉄鎚」


 自分が蒔いた種だ、甘んじて受け入れよう。恥をかくのは私だけなんだから……どうせ


 五輪鉄鎚の素振りをして恥ずかしさを吹き飛ばす。当てる瞬間に固める……言いだしっぺだけどイメージの制御が難しいな。あと単純に重いし。


「めねじ、なんだかんだ邪魔だな……」


「それ言うたら本末転倒やがな。なんも意味ないやんけ今の時間」


「なんも意味ないぃ……そこまで言いますぅ……?」


 こんなのでも中身は乙女のままなんですけど? マインドはその辺の女子となんら変わんないんですけど……? 確かに私に非があるけども、言い方がキツすぎやしませんか……?


「言う。俺はあんたに賭けてるからな。あんたがクソみてぇな巣戦を全部終わらせて、ついでに香弥かやちゃんを救うのにな」


「それ、私としては逆なんですけどー。まあ琥珀こはくくん……高世の弟のためにも巣戦は終わらせますよ。あくまで私が戦うのは香弥を取り戻すためです」


「はいよ。とりあえず利害が一致しとるから応援しとるってことや。んじゃ俺は作業あるから職員室行ってくるわ」


「いってらっしゃーい」


 先生はそれだけを言い残し、青白い光へと消えていった。

 監視の目はなくなったが、かといって他にやることもないので蹴りの素振りを続ける。


「にしても、めねじが重いな……」


 最初からめねじを軽くするようにイメージをすればいいんだけど、それだと相手に当てる瞬間の『イメージの切り替え』にどうしても時間がかかってしまう。その間に生まれる隙を突かれてしまっては元も子もない。

 これが『言葉の重み』ってヤツか……ずっしりくるなぁ。


「いっそ全部ぶっ放そうかなぁ~!」


 相手に当てる瞬間にもう全部のめねじを『すぽぽぽ~ん!』って。いや、それこそなんの意味もねぇ~! どんどん迷走していってるぅ……。

 これ以上考えてもキリがない。ちょっと休憩しよ。鉄鎚を解除して、と。


 ストッパーを解除してしまったことで、


「ああ、こっちを解除し忘れたからか。というか、これ持って殴るだけでもまあまあ強そうだよなぁ……そうだ!」


 ――ヤバい、私天才かもしれない。再び脚にめねじを装填し、それをギチギチに締める。


「セットよーし。からのぉ~?」


 細心の注意を払いつつ、ゆっくりと蹴り上げると同時に、足側のめねじを調節する。


「ぶっ飛べ!」


 しがみつける存在を失っためねじは前方へぶっ飛ぶ……わけではなく、研究室内で放物線を描き、やがてベッドの上にぽと、と落ちる。もし全力で蹴り上げていたら、なかなかの威力なんじゃないのか!? 遠距離攻撃ってヤツじゃないのかぁ~!?


「よっしゃ! これ絶対強いでしょ! 名付けて……螺子巻き弾丸スクリューバレット!」


「うっさいなぁ。ソイツの練習は危ねぇから絶対すんなよ。巣戦で慣らしてけ」


「あ、お、おか、おかえりなさーい……」


「いきなり帰ってきたくらいでキョドんなや。あとノリノリで螺子巻きシリーズ増やしとるやないかい」


 先生は呆れ顔でこちらを見つつ、自分のスペースに戻っていった。なんだあの哀れみの目は。そんなにバカみたいだったかな?


 一夜明け、場所は二年二組の教室前。昨日に巣戦をやったばかりの高世に対して、はどんな顔をするのが正解なのだろうか。

 一呼吸置いて扉を開ける。変な力が入ってしまったか、やけに重く感じた。


「お、おはよ、高世……」


「おはよう翔平しょうへい。昨日は編入初日で大変だっただろ、大丈夫だったか?」


「まあな。その辺は慣れるしかないわ~」


 よかった。クラスメイトからの目もあって、上辺だけでも高世とは仲良く話せている。たわいもない会話を交わしながら、高世の右である自分の席に着……。


「翔平、?」


「……は?」


 なんで、俺の席が高世のなんだよ……!?

 その疑問が脳裏をよぎったとほぼ同時に、高世が耳元で囁く。


「お前がおれに勝ったから、ってことだ。、翔平」

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