第7話 おれのイシは硬ぇ

 『来るなら来い』とは言ったものの、さっきのように避けられる自信もなければ、螺子でのカウンターを決められる自信もない。

 さっきの高速移動がどんな力で行われたのかも、まだ全然分からないし……。


 考えろ……移動の仕組みが分かれば、こちらにも勝機はあるはずだ!

 金居かねい先生の『始め』の合図からものの数秒で、俺と高世こうせいの間合いはほぼゼロになったんだよな。いきなり巣戦そうせんが始まったことに驚いた分確実性はないけど、彼の足音らしき音は何一つ聞こえなかった……。


 つまり、


「逆だ! 俺が高世の方に引き寄せられている!」


「――そうだ。おれが行くんじゃねぇ、!」


 高世との距離がどんどん縮まっていく。いくら抵抗しても、引き寄せる力は強まっていく一方だ。

 くそっ、このままモロに攻撃をくらえば負けてしまう! だけどこの状況は、ピンチでありチャンスでもある!


「引き寄せてくるなら、このまま螺子で貫いてやるよ!」


 体を反転させ、飛び蹴りの構えをとる。これで『引き寄せ』を解除しない限り、お互いに攻撃を避けられなくなった。問題は、高世より先に螺子を命中させられるかどうか……。


「そうくると思ってたぜ! もらったぁ!」


 高世が全速力でこちらに向かってくる。引き寄せる力もその分強くなり、シンキングタイムが一気に失われる。体勢を整えるか? それとも、このまま突っ込むか?

 くそっ、もう間に合いそうにない……このまま行く!


「――! うおりゃあぁっ!」


「なに……!? ぐっ、あぶねぇ!」


 まただ、間合いがゼロになるタイミングで、引き寄せを解除してきた! でも、一体なぜそんなことを? まだ何か別の力を隠しているのか!?


「どうして俺を攻撃する直前に引き寄せをやめるんだ? そのまま殴ればいいのに!」


「それでいいならとっくにそうしてる。だけどお前に勝つには、そんなんじゃ!」


 足りない、か。ということは、高世は『引き寄せ』以外の力で俺を仕留めてくる。殴ってきた右腕に何か秘密があるんだろう。俺についている右脚のような義肢ではなく、天井の明かりを反射して輝いている、その右腕に。


「それで俺のことをぶん殴ろうとしてたんだな。力を二つも持っているなんて、なんかズルいな」


「ん? おれが持ってる力はだぜ? 仮に力を二つ使えるヤツがいたら、ソイツが勝つに決まってんだろ。まあどんな力かによるけど」


 『引き寄せ』と『光を反射する右腕』は同じ力によるものなのか。

 力を使うには『頭の中でイメージを膨らませること』が重要だから、この二つには何かしらの共通点があるということ。それを解明しなければ、この勝負には勝てない!


「ものを引き寄せるイメージと、その右腕のイメージ……その二つの切り替え……」


「おらぁっ! 巣戦中にボーっとしてんなよ!」


 いちいち相手のことについて考えている暇もないらしい。高世の振り下ろす右腕に、俺は螺子で応戦するのが精一杯だった。だけどそれでいい。螺子を

 高世の顔を殴った勢いで一回転。これで右腕に螺子が入った!


「捕まえたぜ。お前はもう右腕で殴れないし、力を解除したら螺子が腕に突き刺さる。お前の出血は避けられない!」


「……それは違うぜ、翔平しょうへい。力が作用するのは右腕だけじゃねぇ!」


「ヤバい……! 解除!」


 左腕からの強烈な一撃を、螺子の解除で体勢をブレさせ、床へ激突することで避ける。背中痛ぇ~……。

 だけど、そのおかげで全部が分かった。俺の視界を横切った左腕の正体は金剛石ダイヤモンドだった! となると『引き寄せ』はダイヤモンドとの共通点がある物質によるものになる。引き寄せる石……! 俺の義足が磁石で引き寄せられていたのか!


 ――高世の力の正体は『石』だ! 『京石きょうごく』の苗字にぴったりな力……その力を持つことが運命づけられているような名前。まあ、俺も同じようなもんか。


「その顔、おれの力が何か分かったみてぇだな。金剛石に……磁鉄鉱マグネタイト。お前を倒す力だ!」


「それは……俺の右脚が義足だからか?」


 思わず『特殊な金属でできている』と言いいかけたが、先生との繋がりを知られるわけにはいかない。磁鉄鉱で引き寄せられたので、コイツの大部分は鉄らしい。

 そもそも義足の存在を知られるのもまずいかもしれないが、さっき螺子を解除した際にバレただろう、今さら隠すのは無理だ。


「そうだ、翔平のところは『初めて』だからな。力を得るにはそれなりの代償がいる。おれのはただ、。――いい機会だから、昼に言ってた席の仕組みについて教えてやるよ。お前の隣がおれなのは、兄貴のせい……いや、兄貴の。兄貴が巣戦でいいところまで勝ってくれたから、あの席に座れてるんだ」


「要は、あの席順は巣戦の結果によるものなんだな。高世のお兄さん……家族によって決められた順位、ってわけか」


「ああ。だから巣戦に参加したことがない螺無田お前の家は一番後ろ、この進学コース護瑩隊の中じゃ!」


 なるほどな。あの席順にはそういう意味があったのか。そりゃ、部外者が触れていい問題なわけないな。


「そうだな。家族の中で巣戦に参加したのは、俺が初めてだ。俺は……確かにまだ何者でもない」


 ――だけど、もう俺は部外者じゃない。巣戦を勝ち抜いて香弥かやを救うために、男装までして殴り込んだんだ。そして……。


「一つだけ言えることは……俺は決して護瑩隊なんかじゃないし、なるつもりもないってことだ!」


 お前らのような腐った集団の螺子一部になんてならない。


「……んだよ、かよ。おれだって護瑩隊に魂を売ったつもりはねぇ。この巣戦をやめさせるために、琥珀こはくのために!」


「こ、琥珀?」


「弟だ! まだ六歳だけど、そのうち学園ここで巣戦をやらされる運命にある! おれが兄貴を受け継いだように、兄貴が親父を受け継いだように!」


 巣戦は、一度参加してしまうと家族までも巻き込むということなのか!

 女王の権力に釣られた者たちに『末代までしのぎを削り合う』という運命を、突きつけ続けるということなのか!

 そして琥珀くんにも、巣戦の魔の手が……!


 高世は、俺と同じで巣戦のやり方に疑問を抱いている! 俺と同じで、守るべき存在がいる!


「じゃあ、俺たちはなんで戦ってるんだよ! 話せばわかり合えるはずだろ!」


「違ぇんだ。戦って、勝って、勝ち続けて! おれが九家きゅうけのトップ、生徒会長になって……巣戦を終わらせなきゃいけねぇんだよ!」


「だったら! 俺が巣戦を終わらせるから……! こんな戦いからじゃ、何も生まれないだろ……」


「だったらで返すぜ! お前のその意志を、おれとの戦いで見せてみろよ! 生憎、おれのは世界一硬ぇぞ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る