第6話 俺は戦う
「なんで……なんでここにお前が……!?」
「進学コースにいるってのは……そういうことなんだぜ?」
――友達になったばかりの人と、その日の放課後に戦うことになるなんて。
「
昼休み。二つの席をくっつけて、私たちは弁当をかき込む。白ごはんで半分、大量にストックされていた冷凍食品で半分。味や栄養価は二の次だ、女子力のじょの字もない。
対する
「ま、まあな。おかげで昨日はバタバタだったよ」
昨日はなぁ……朝から
「普通コースの先生は、自分のクラスの生徒ですら曖昧って噂だからな。進学実績を作んなくていいから、多分テキトーにやってんだよ」
うわ~……そりゃバカにもされるわ。いくら
「じゃあ、俺の手違いも割とよくあることなのかもしれないな」
「兄貴が
ヤバすぎるだろ。もう授業についていけるかなんてレベルじゃない。肩身も絶対狭いだろうし、いいこと一つもないだろ。
むしろ四月中で済んでいるのが、不幸中の幸いだったりするのか? まあ私の場合は手違いというより捏造なんだけどさ。
いきなり進学コースに編入だなんて無理のある話だと思っていたけど、それ以上に学園そのものが狂っていた。
それと、なんか違和感があるんだよな……。
編入した私の席が教卓から見て左奥、要は『一番後ろの席』っていうのは分かるんだけど、隣の席が高世なのが、しっくりこないというか……。
「そういや気になったんだけどさ、席って出席番号順じゃないのか? 京石の隣が
「あ~……、そこ気になっちまったか……。まあそうだよな、うん」
突如として、高世の声が重く澱んだものになる。さっきまでの元気が嘘のように、彼のなにもかもが、深く沈んでいくようで。
これもしかして、触れちゃダメなヤツだったか……!?
「……高世?」
「いや、なんでもねぇ。席のことはそういうもんだと思って、全部忘れてくれ」
当然忘れられるわけがないんだけど……高世にも、触れられたくない話題の一つや二つくらいあるだろう。こちらからつっつかなければいい話だ。
「ああ、ごめんな」
「おう。でもそんなに気にすんな! 友達相手に気ぃ遣わなくていいから!」
少しくらいすれ違いがあったって友達には変わりない。高世の言う通り、気を遣いすぎもよくない、よな……。
とにかく切り替えだ。私は五時間目の授業の準備に逃げた。
高世とはそれ以降会話することもなく、やがて放課後がやってきた。
「螺無田翔平さん、至急生徒会室へ来なさい」
研究室へと帰る途中、まさかの校内放送で呼び出しをくらう。編入のことについて何かしらの説明でもあるのだろうか、あるいは。
一心不乱に生徒会室へ向かう。義足からちゃき、という音が廊下中に響き渡る。
それは『私』から『俺』へと変わる音。
それは『群螺雨翔子』から『螺無田翔平』へと変わる音。
それは『
――友達を、蹴落としていく音。
「お前も巣戦の参加者だったんだな、高世」
「……恨みっこなしだぜ」
俺たちの間に、今までの人生で一度も感じたことのない、独特の緊張感が走る。おそらく高世もそうなんだろう。お互い様子見、時間だけが流れていく……。
「巣戦における、たった一つの規則! 一つ、相手の血を流した者の勝利とする~!」
「「うわ、びっくりした!」」
突如、一人の男が戦場の静寂をぶち壊す、銀縁のクソ眼鏡。えー、コイツが仕切るのかよ。
「ああ、びっくりさせたのはすまんな。巣戦ん前はルールの確認しとくのが決まりなんよねぇ……あら、じゃあ『たった一つの規則』やなくないか? ままええわ、はよ始め?」
「ん……? えっ、終わり? ――ってうわ!」
目にも留まらぬ速さで高世が俺の間合いに詰め寄る。ちょ、開始の合図が分かりづらすぎるだろ! すんでのところで避けられたけど、あと少し反応が遅かったら確実にくらっていた。
血が流れたら負け……高世がどんな力を持っているかは分からないけど、彼の攻撃は『体に当たった時点で終わり』と思っていいだろう。
「――螺子!」
だけどそれはお互い様だ! 俺の螺子だって、命中すれば出血は避けられないからな!
義足は渦を巻いて、一本の太い螺子へ変化する。お前が近づこうものなら、コイツでカウンターをぶちかましてやる!
「さぁ……来るなら来いよ、高世!」
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