第13話 遺産②
美土里は顔を覆っていた手を外すと、そのまま宇佐美に頭を下げた。「大変失礼致しました」
「——美土里さん、大丈夫だよ」と藍子が身体を起こそうとする。「何があっても、やり直せるよ」
宇佐美は藍子に手を貸す。「立てそうですか?」
「ここにいない方が、いいんだろ?」と藍子は宇佐美に向かって笑った。
「出来ましたら、お願いします」
現場保存のために、食堂に鍵をかけておきたかった。
「刑事だったんだ」と藍子は宇佐美を見て笑った。「私、容疑者だね」
「そうですよ」と宇佐美も笑う。「大人しく部屋にいて下さい」
藍子の付き添いは美土里に任せて、宇佐美は食堂の窓の鍵を全て締めた。
日は陰り、風が強まってきたのか外の木々が大きく揺れている。
宇佐美はもう一度部屋を見回した。
中央のテーブルには青貝で装飾された白いポットと使われていないカップが乗っていた。
その脇に青いクロスを掛けられた今井の遺体。
床には二つのカップが転がっている——梅子と今井がそれぞれ落としたものだ。
そして三台のテーブルに点在する飲みかけのカップは、七つ。
宇佐美は満足した。
部屋の光景は全て自分の記憶と一致する。
誰も何も動かしていない。
ランチの時から椅子に置きっぱなしにしていた自分のボストンバックを手にして、宇佐美は食堂を出た。
「宇佐美様、全てのお部屋の鍵です」と美土里が宇佐美に鍵を渡した。「やはり、電話は故障していました」
「よくあることですか?」
「いえ。初めてです」
美土里はすっかり困惑した様子だった。
「後で皆さんにお水と食料を差し入れしたいのですが、お付き合い頂けませんか?——私からですと安心して受け取って頂けないと思いますので……」
宇佐美は快く引き受けた。
電話の不通も犯人の計画なのか——。
だが、スマホが使える港まで車で十分。
連絡を受けて隣の島から警官が駆けつけるまで三十分くらいか。
あと一時間もすれば、応援がやってくる。
それに犯人の目星もついている。
「先に今井さんのお部屋を調べさせて下さい」
宇佐美のカンが正しければ、今井の部屋にアレがあるはずだった。
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