ネット依存を狩りに行く

釣ール

読み切り:ネット依存を狩りに行く

 あらすじ


 二十代の頃に好みの女性と悪絡みをしてしかられた癖に、フェミニスト思考へとなった人格破綻者が幸せをSNSや別媒体で振りまいて男性陣や好みではない女性陣を差別しながら金を貰う三十代がいると聞いた「紅いワンピースの幽霊」は「死んでも一日だけ悲しまれるだけの人間」を探していた。

 目的は我々生者には想像もつかない。

 幽霊は破綻者を獲物とみなし、成敗しようと目論む。



 相変わらずフィクションは幽霊を脚色してくれる。


「怨みによる憑依」だとか。

 何もできなかったから死んだわけなのに、その後勝ち逃げした肉の塊を襲う気力なんかあるわけがない。

 けれど、その元凶を作ってしまった先達が死後にいたらしい。


 私はその代行として「理由ある怨みを裁く」仕事を無料で引き受けている。

 まあ死んでるし、何故か生きていた頃みたいにこの世に残ってしまって地球が滅びてくれないと生殺しみたいに彷徨うしかなくなるので獲物があるのは実にいい。

 理不尽な恨みや怨恨は引き受けず、生きていた頃より入念に依頼された後に対象を観察し、時に鎌、時に鉄槌を携えて肉の塊でしかない人間を怪異として処理をする。


 別に善悪だとかビジネス、好きだからなどの私情でもなく、ましてやゲームのルールでもない。


 獲物なのだ。

 私は死して紅いワンピースを着た頃からこの手の依頼を実行し、経験している。

 処理といっても呪い殺すわけではない。

 ちょいと「生き甲斐」を狩らせてもらうだけ。



 それだけで人間はもう生きているのか死んでいるのか分からなくなる。

 残酷な行為ではない。

 誰しも訪れる経験を大幅に早めるだけだ。

 今回の対象はある自殺した男子高校生の母親からだった。


 フォロワーがインターネットの中だけでは沢山いて、誰もそいつを助けることはないけれど、そいつはかつて弱い立場にあって浅く狭い実体験と知識をコンテンツとして昇華させてなんちゃって宗教家を気取っていたらしい。


 そこで日本の男子高校生の自殺率が高いことを他人事のように記し、いいねを稼いでサイコパス空間を作っていた。

 それを何人かのアカウント所持者で男子高校生の息子が自殺した母親が私に依頼してきたのだ。



「こいつは元ニートで安易な生活保護を求めて狭く深くを自称しながら作者全体を愛していないくせにその一部の作品を信奉し、アニメの聖地を回った写真をアップしていました。


 どうやら他人やフォロワー、それ以外の人に対する配慮に欠けた発言なのに馬鹿な外野である連中は醜いアラサーの男を崇めています。

 過去にまともな女性に指摘されたはいいものの、女の前でいいカッコをしたいだけで成長が止まったクズアカウント。


 人間にこの悔しさを頼んでも『気にしすぎですよ。』『他人は冷たいだけです。』と綺麗事ばかり。


 明るいだけの肉の塊を、怪異の力で惨たらしく始末したください。」



 話を聞いて私もこんな生者が放置されてる人間界に中指を突き立て、依頼者である母親の手を握った。


「しかるべく処置を施します。

 尊厳死も自殺もさせず、そして仲間からの信頼も全てその肉の塊から没収致します。」





 ■





 下調べは既に終わっていた。

 年齢は別に明記する必要はなかったが三十代、男性。

 同居人が何名かいる。

 この時点で気持ちが悪い。

 例え、それが夫婦だったとしても…身内すら記事を投稿するために利用しているだけに過ぎない愛もないクズなら今すぐにでも手を掛けられる。

 勿論殺しはしない。

 生き甲斐を没収するだけだ。


 依頼人の情報と、対象者の住む現地に何度も行き来した。

 第六感がそいつにあれば私を何度も目撃し、動画でも撮っていただろう。


 三十代には思えない。

 典型的な浅くて、狭くて、文才だから何歳だか知らないけれどつまらないやり方で面白く生きている。


 犯罪をしていないやつほど腹が立つってね。

 ある意味可哀想だ。

 味方がいてもまだ足りない。

 こんなに恨まれているのに結婚と子供を求めるなんてね。

 男の子が生まれたら差別するのだろう。


 この前、生き甲斐を始末した女性で「女の子なら全部楽」と都合の良い奴がいた。

 政府任せ、男児に多動があったら精神科。

 この女は霊感があったので肉の塊として思いっきり怖がらせ、親権と子供からの眼差しとカフェ仲間からの脅威を鎌で刈り取った。

 その女は自覚もなく、人間性が悪いまま孤独に生きているらしい。

 肉の塊。

 男女問わず人間はそう。

 早くこの人格破綻者と差別主義者を孤独が生温い世界へと葬りたい。

 私の獲物なのだ。

 理由も全部ちゃんと依頼人から聞いて処罰している。

 警察官より激務もこなしているから。

 生前、警察官と夜を共にしてビンタした過去があった。

 飽きてしまったから。



 それは兎も角、こんな人間に何処の魅力があるのか分からないくらいに人間というより、破綻した肉の塊だった。

 でも幸せではなさそうだ。

 最も、幸せなんて言語としてしか存在しない。

 綺麗事ではなく理想論。

 なら、何を刈り取ればいいか明確だった。

 私はすぐに執行した。





 ■





 アカウント主の更新は途絶えたらしい。

 仲間内では隠居に成功したと喜ばれていた。


 実際は聖地を徘徊している。

 その人間が真面目なタイプではなかったから社会的な反動に影響はなかった。

 数だけ稼げただけのただの人間にすぎなかったわけだ。


 やつから奪った生き甲斐は「保証」

 どうやらそれが一番の欲しかったものらしい。

 よく「普通の人間になりたい」と願う欲の深い肉の塊に多い言葉だったから、存在しない希望を突きつけららる経験を早めに与えただけ。

 この程度じゃ何にも起きないって?

 見てればわかる。



 獲物は意識があるようで虚ろだった。

 何でここにいるのかも分かっていない。

 疲れて手を壁につけると未確認の外来種である毒蜘蛛に噛まれて倒れた。

 泣きっ面に蜂。生き甲斐無しに毒蜘蛛。

 死にはしないが更に記憶喪失になるかもしれない。



「ざまあみろ。」



 こうして久しぶりに怒りが湧いた獲物を狩った。

 死よりも辛い経験を願われたから、社会的立場のない人間から生き甲斐を奪うのには苦労したが成功だ。

 ああ気持ちいい。


 依頼人の母親には感謝されたが人間の浅ましく進歩しない「塊の知恵」による生きづらさは続くのかもしれない。

 その時に紅いワンピースの私が恨みを晴らし、対象者である肉の塊を蹂躙する。

 許せない出来事を相手に与えていない人間はいない。

 私に生き甲斐を奪われたくなかったら、俯瞰力を養うように。


 殺したりなんてしないけれどやっていることは外道なのかもしれない。

 私もすっかり落ちぶれてしまった。

 だからこそ存在している。

 幸も不幸も関係ないから。


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