第13話 引き継がれし力
「はい、ではいただきま〜す」
私は自分のお椀にキムチ鍋をよそい、ハフハフと食べ始めた。母さんが何かいいたそうな顔で私のことを見ているのが気になる。
「どうしたの母さん。娘の顔がそんなに珍しいの?いつも通りかわいいですよ〜」
すると母さんはケタケタと笑っている。
「いやね。実は最近咲の様子が気になってたのよ。部屋から夜に誰かと話してる声が聞こえてくるもんだから。あなたもしかして……」
私は部屋の隅で丸くなっているフランとルルを見て箸を止めた。
「彼氏でもできた?」
母さんは少しにやついた表情で私をのぞきながらビールをあけた。
「違いますー。たまに文ちゃんと電話してるだけだし。もう心配性なんだから」
私は大げさに手をパタパタさせながら、笑ってみせた。まさか母さんに勘づかれちゃうなんて。夜の会話は気をつけなきゃ。
「なんだぁ〜彼氏でもなきゃ、もしかしてフランやルルと話してたりするんじゃないかって、心配して損したじゃない。おばあちゃんじゃあるまいし、まさかね。あ、おばあちゃんって、母さんのお母さんのことね」
「な、何よそれ!まるでおばあちゃんは猫と話してたみたいな言い方じゃない?」
私は食べてた椎茸をごくりと飲みこんでしまった。
「なによ急に大きな声だして。あら、話したことなかったかしら。実家のおばあちゃん、昔は猫と話ができたみたいなの。私自身は話せたりできないから半信半疑だったけど、不思議なことがあったのよね〜」
いい感じにビールのアルコールがまわってきたのか、母さんは饒舌に話をはじめた。
「私の小さい頃、実家には野良猫がたくさん集まってきててね。おばあちゃんは猫に好かれるなぁ~と思ってたら、いつもいつもみんなと話しをしてるのよ。猫なりにいろいろと悩みがあるから聞いてあげてるのよって」
もう私はお椀を置いて、母さんの話をくいいるように聞いていた。
「それである台風の日、すごい雨風だったの。ほら、実家の家古いでしょ。だから、しっかり戸締まりもして台風が過ぎ去るのを待ってたら、外から時々弱々しい子猫の声が聞こえてきたの。探してあげたいけどこの雨風だし、兄も私もあきらめてたのよ。そしたら、しばらく耳をすませてたおばあちゃんが外に出ていってね。家の横に流れてる川の隅っこでうずくまってた子猫を助けてきたのよ。ずぶ濡れになりながら見通しも悪いのによ。ほんの5分もかからなかったと思うわ。その日の夜、助けた子猫とずっと話し込んでたわ。その次の日、台風一過で天気は晴天。おばあちゃんは子猫を連れて出かけていったの。子供ながらに気になった私は、おばあちゃんのあとをつけていったの。そしたら、そこにいたのは子猫のお母さんと子供達。もぅびっくりしたわよ。私には全く理解できないけど、そんな特別な力ってあるのね〜って思った」
「それで、それで。今はもうおばあちゃんは猫と話せないの?」
「なによぉ~そんなに気になるなら、たまには遊びに行って来たら、顔見せたら喜ぶよ〜おばあちゃん。連絡してみようか?」
母さんはノリノリでおばあちゃんに電話をしようとスマホをとりだそうとしていた。
「あ。また今度で大丈夫だよ、母さん。ちょっと日曜日は予定があるから」
「あら残念ねぇ。デートでもあるのかしら?」
私は、母の言葉がまるで聞こえていないふりをして、お椀に残った、冷めたキムチ鍋をかきこんだ。そんな猫と話せる力が遺伝することなんてあるのかな?これは大事件!その次の日曜日にでも、おばあちゃんところに行って話を聞くのもありかもしれない。
私は食事が終わり、ほろ酔いの母さんを座らせて後片付けをすませた。その後、部屋でこっそりと、今日の出来事をフランとルルに話す。朔也さんから聞いた神社のこと。おばあちゃんの猫と話せる力のこと。
ふたりはカリカリを食べる口をとめ、目を丸くしている。
「ママン、私その神社に行ってみたい」
ルルは私に近寄り体をすり寄せてきた。外に連れ出すのは不安だけど、このままにはできない問題だもんね。さすがにふたりは無理だから、今回はルルだけ連れいくことにしようかな。
フランは確か、おばあちゃん家の屋根裏で生まれてうちに引き取られたから、外の世界を全く知らない、生粋のおぼっちゃんだもんね。朔也さんにも相談して、時間をとって行くことにしようと私は心に決めた。
いや〜それにしても神職衣装の朔也さんかっこよかったなぁ。ちょっと大人っぽくて。でも猫達以外の話はしたことないし。私のことなんて、猫つながりの住人って感じだよね。思わずため息がもれる。
私は鏡を見つめながら自分に問いかけていた。コレって恋?両手で頬を包み込んで目を閉じる。すでに、朔也さんに会いたくてたまらない想いは走り始めていた。
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今回は第13話を読んでいただき、ありがとうございました。
またたび荘で迎えた17歳の誕生日に、愛猫が語りかけてくるんですが。 にこはる @nicoharu
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