第12話 聖なる師子森神社

 パフェを食べて、心もお腹も満たされた私は軽やかな足取りで家路についた。


 そして朔也さんからきたメールを、何度も見てはニヤけるという、なんとも不気味な行為を繰り返している最中である。


「たっだいま〜」


 玄関をあけると、すでにフランとルルがしっぽを立てて待っててくれた。


「なんだか今日のママンすごく嬉しそう」


 さすがルル!乙女心はお見通しである。


 次の日の放課後、今日は用事があるのでごめんね。と文ちゃんに伝え、ひとりで足早に神社にむかった。


 ここ師子森神社に足を踏み入れるのは今回が二回目。引越ししてすぐ、母さんからこの地域の氏神さまに挨拶にいこうと言われ、ふたりで訪れたことがあった。そんなに大きな神社ではなく、地元に愛されるこじんまりした神社である。


 入ってすぐ大きくそびえたつ御神木の杉の木を見つけた。樹齢何年くらいなのだろう。幻想的な雰囲気をかもしだしている。


 私は赤い鳥居の前に立ち、小さくお辞儀をした。参道は神様が通る道だから、端を通りなさいっておばあちゃんに教えてもらったのを思い出す。その後、手水舎で手と口を清め、狛犬を横目に拝殿に到着。神社ってなんだか気持ちが落ち着いて、背筋がのびるんだよね。賽銭箱にコインを入れて、鈴を鳴らして拝礼する。日々のモヤモヤが晴れていくみたい。


 静かに目をあけ後ろを振り返ると、見慣れない神職衣装を身にまとった朔也さんがたっていた。


「忙しいのに、呼び出しちゃってごめんね」


 神社で見る朔也さんは、いつもより凛としていて大人っぽくみえた。


「どうかした?」


「あ。いえ、神社って何回来ても気持ちがシャキッときますね」


「いつでも遊びに来てね。若い人は少ないからじいちゃんも喜ぶよ」


 そういって、拝殿の建物の奥の場所に案内された。そこには、入口にあった御神木よりもひとまわり大きな御神木がひっそりと佇んでいた。一部いびつな形をしてるようにも見える。


「そう。この御神木を見てほしかったんだ。ちょうど俺は神職の養成所にいってて、この神社を離れてた時だったからすぐに気がつかなかったんだけど。2年前の夏、この御神木に落雷があったんだ。当時はかなり枝葉が燃えて焦げた部分も多くて心配したよ。これでもだいぶ回復してきるんだけどね」


「あの。それってもしかしてルルが言ってた御神木の落雷が、この神社だった可能性があるってこと?」


「そうなんだ。そこの道路を挟んだ奥には川も流れてるしね。その落雷は神社の拝殿には全く影響なかったんだけど、御神木の落雷は珍しいのか当時は小さなニュースになるほどだったらしい」


「なんで気がつかなかったんだろう。確かにルルと出会ったのもこの神社のすぐ近くだったかも」


「かといって、ルルちゃんが言ってた精霊の扉ってやつは、全くわからないんだけどね。今テラもいろんな情報網を使って調べてるみたいだよ。この御神木の件も、今度の日曜日に話そうか迷ったんだけど早く知らせたくて」


「一度ルルも一緒に神社にきてみようかな。なにか思い出すことあるかもしれないし。ありがとう朔也さん」


 そのあと、朔也さんからこの師子森神社に残された言い伝えを教えてもらった。



 昔、それは大きく凶暴な黒獅子があらわれ、このあたりの村人を困らせていた。山や林は切り崩され、田畑は荒らされ、誰にもとめることができなかった。村人達は山に祠をたて、毎日毎晩雨の日も嵐の日もかかさず、黒獅子の打倒を神に祈りつづけた。するとある月夜の晩のこと、銀色に輝く白獅子に乗った天女があらわれ、暴れる黒獅子を退治し村には平穏な日々が戻ったという。そして、退治した黒獅子の尾からでてきた「ともしびの勾玉」が残された。村人達は、神への感謝と村の繁栄、無病息災を祈り、ここ師子森神社にその勾玉を納めたという。


「というのが、この師子森神社に残る言い伝えらしい」


「その勾玉は、この神社に本当に納められてるの?」


「俺も実際見たことはないんだけどね。じいちゃんに聞いた話だと、さっき咲ちゃんがお参りしてくれた拝殿の奥に保管されているらしいよ」


 すると、拝殿から白髪に白ひげ神職衣装という出で立ちのお爺さんがひょっこりと現れた。


「じいちゃん、びっくりさせないでよ。こちらの方は、またたび荘に住んでいただいてる山影さんだよ」


「はっ、はい。私、山影咲と申します。いつも管理人さんにはお世話になっております」


 慣れない面持ちで挨拶をすると、おじいさんは、ニコリと笑って


「ほぉ。またたび荘の方でしたか。本日はご参拝いただきありがとうございます。こりゃ可愛らしいお嬢さんじゃのぅ。少し神社の境内でも案内しようかのぉ~」


「ほら、じいちゃん。境内の案内はまた今度でいいよ。そんなに見てたら山影さん困っちゃうから」


 朔也さんに私の心が見透かされているようで、恥ずかしかった。

 

「今日はこれで失礼いたします。ありがとうございました」


 そう言って私はふたりに軽く会釈し、そそくさに神社をあとにした。その後すぐに、朔也さんからメールが届いた。


―さっきは突然ごめんね。じいちゃん話し込むと長くなるから失礼しました。帰り道、あと少しだろうけど気をつけてね。


 私はすぐに返信を送る。


―こちらこそ、ありがとうございました。また日曜日に待ってます。


 そんなやりとりが嬉しくてスマホをぎゅっと握りしめた。


 部屋に帰るとキッチンからすでに美味しそうな香りがしていた。


「ただいま〜母さん、今日帰り早かったの?遅くなってごめんね。すごくいい香り〜お腹すいちゃったぁ」


「今日は咲の大好きなキムチ鍋だよ〜。早く着替えておいで」


 母さんの元気な声が、部屋に響きわたる。お昼寝していたフランとルルも背伸びをしながら足元に擦り寄ってきた。


「ママン、今日もなんだか嬉しそう」


 ルルはそっと私を見上げてウインクした。



────────────────────


今回は第12話を読んでいただき、ありがとうございます。

昨日嬉しいことに、このまたたび荘も100PVを達成いたしました!


ひよっ子ながら、誰かにページをめくっていただけるのは、何より幸せです。

今後も精進してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。


 

 





 





 

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