1-8



*****



 一週間後、ついに三人が皇都へ行く日。使用人たちは朝から慌ただしく、なぜかダリアも叩き起こされ、三人の見送りにり出された。


(どこまでクソな奴らなんだよ……どうせウチの落ち込んでる姿が見たいんだろ)


 ここでうっかり嬉しげな顔など見せて、部屋にきんしんだとかのたまわれたら面倒だ。ダリアは過去の記憶を頼りに、かつてのダリアのように物悲しげにおうと決意する。


「あらお義姉様、わざわざお見送りに来てくださったのね」

「本当は連れていってあげたかったのだけどね? ほら、お前は人が多いところが苦手でしょう?」

(んなこと一言も言った覚えねえけどな)


 心の中では毒を吐きながらも、泣き出しそうに顔を歪ませて俯くダリアを見て、継母とノンアゼリアは満足そうに笑う。


「おづかいに感謝いたします。いってらっしゃいませ……」


 ここで涙のひとつもこぼせたら良かったが、さすがにそこまでは無理だったダリアは、鼻をすすって泣いている風に見せかけることにした。ダリアのはくしんの演技に大満足だったようで、継母とノンアゼリアはじょうげんに出かけていく。移動を含め、三週間は戻らないだろう。

 本来ならばその場で喜びを露わにしたいところであったが、気を抜くのはまだ早い。部屋に戻ってしっかり扉を閉めてから、ばんざいで喜びを表す。


「よっしゃ! これでしばらくは自由になった!」


 ダリアは、さっそくしきを抜け出す計画を立てる。この領地の町なら遅い時間まで店が開いていると聞いている。それなら夜に抜け出していっても買い物ができるだろう。

 となれば、まずは変装だ。ダリアのぎんぱつはこの国でも珍しい髪色で、どうしても目立ってしまう。それに女性が剣を買いに行っても売ってくれない可能性があるため、男装しようと考えた。


(男用の服をどうするか……はいしゃくするか)


 夕食後、動き出したダリアは、まずは部屋の周囲に人がいないことを確認してからゆっくりと外に出る。目指すは父親の部屋だ。侯爵家の当主なのだし服などいくらでも持っているに違いない。一着ぐらい借りてもバレないだろうと父親の部屋にそっと入った。


 案の定クローゼットには服がまんぱいで、一番目立たないものを選ぶ。ちょうど髪をかくすのに良さそうなぼうも見つけ、それをかぶった。無事にえを終え、父親の部屋から出た時だった。


「そこで何をしている!」


 ダリアのかたがビクッとねた。


(しまっ……)


 勢いよく声のした方をかえると、執事長が不審げにこちらを見ていた。どろぼうか何かかと思っているのか敵意をむき出しにしていたが、ダリアと目が合うなり驚いた表情へと変わる。


「もしやダリアお嬢様ですか……? だんさまのお部屋でいったい何を……そのお姿は」

「じ、事情は後で話すので、のがしてください!」


 この機を逃せばもうチャンスがないと思ったダリアは、その場からとんずらを決め込む。

 幸いにも追いかけてくる気配はなく、ダリアは胸をでおろした。


(つーか逃げるべきじゃなかったよな……? 話せばわかってくれたかもしれねえのに)


 しかしあの場面で冷静に考えるゆうはなく、前世でいう警察から逃げる感覚でとっに体が動いてしまったのだ。


(『何をしている』って、完全に警察サツこうそうちゅうに割り込んでくるセリフだろ……)


 ダリアはしょうを浮かべながら、以前から目を付けていた鬱蒼とした裏庭の立ち木にまぎれて外に出る。やはりここは死角になっているようだ。これからも抜け出すのに最適ルートだろう。

 門には人がいたため、ダリアは彼らに見つからないよう木に登る。鍛えていたおかげか簡単に上まで登れ、勢いのままへいに飛び移り、無事屋敷の外に出ることに成功した。


(せっかくだし町まで走るか)


 ようやく外に出られた貴重な機会だ。トレーニングもねて走ろうと考えたダリアは軽くストレッチを始める。ところが……走り始めてすぐに、体力がきてバテてしまった。


「はあっ、はっ……」

(この体、身軽なのはいいけどポンコツすぎんだろ……! いや、まあわかってたけど! 部屋の中だけじゃ持久力はつけられねえってことはわかってたけどな!?)


 開始早々こし)を下ろし、|休《きゅうけいを取る。町は歩いていってもそう遠くはないため、時間を気にする必要はあまりないが、力がついたと思っていただけに少なからずショックを受けた。


(こんな体でよく悪役令嬢なんかやってたな)


 もはや尊敬の念すら覚える。


(いや……それだけ孤独感をめようと、強がってたんだな)


 ゲームのダリアを思い出しながら町まで疲れない程度の速度で歩いていると、段々と人が増え、出店が見えてきた。通りにはたくさんの人が行き交っていて、前世の都会の光景を思い出す。


(すげえ人……)


 ダリアは周囲を見回して目を輝かせる。屋敷にはない活気がダリアを興奮させていた。

 ゆっくり見て回りたい気持ちではあったが、まずは目的を果たそうと武器屋を探すことにする。ようやく見つけて入った武器屋は、うすぐらく、物々しい雰囲気だった。


「おや、見物客かな」


 おもむろに店主らしき男性に声をかけられ、ダリアは顔を上げる。幼い少年に見えたのだろう。こうにゅう目的ではなく、ただのひやかしだとかんちがいされてしまったようだ。


ぼう、ここはお前さんのような子どもが来るようなところではない。今すぐ両親のところに帰りな」

「あ、あの……私、あ、僕……騎士になりたいんです。そのためのもの……じゃなかった剣を買いに来ました!」


 ダリアは慌てて購入の目的を口にした。店主は少し驚いた様子だったが、すぐにうなずいてくれる。


「それは失礼。では、どのような剣をお望みかな?」

「わた……僕が持てるくらいに小ぶりで、でもしっかりと相手をぶちのめ……いや、相手を倒せるだけの鋭さを持った剣が欲しいんです」

「ふむ、なるほど。ではこれはどうかな」


 店主はダリアの要望に、一振りの剣を差し出した。さっそくその剣を手にしたダリアは、まじまじと見分する。見た目よりも軽く、ダリアの手にしっくりとむ感じがらしい。おのれの相棒となる一振りだ。ダリアは一目でその剣にれ込んだ。


「これ、いいですね!」

「そうか。切れ味はばつぐんなんだが、なんせ華奢な造りでな。持ち手を選ぶと思っていたんだが気に入ってくれたか、良かった。よし、特別にまけといてやろう」

「本当ですか? ありがとうございます!」


 お金は亡くなった母親がダリアのためにとのこしてくれたものをありがたく使わせてもらうことにした。この剣と共に必ず強くなってみせるという決意をもって、店主から剣を受け取る。


「少年よ、君はとても強くなるとワシは思ったよ。何よりその赤い目が真剣で気に入った。武器は人を選ぶという。その子と共に立派な騎士になってくれ」

「はい! 頑張ります!」


 店主から期待を寄せられ、ダリアはしゃぶるいする。改めて騎士団に入ってトップをとるという、野望ともいえる己の夢をさいにんしきした。

 店を出たダリアは、美味おいしそうなにおいにさそわれるままに食べ物の出店を見て回ることにした。その中で子どもや女性客が多く並んでいる店を見つけたダリアは、何の食べ物なのかと中を覗いてみる。

 すると皆ふわふわした白いものが巻かれている短い棒を手にしていた。


(あ、あれって……わたあめじゃ)

「これが今、皇都でも人気のふわふわあめ?」

「そうです! ついにこの町にも上陸したんですよ」


 その会話を聞いて、ダリアはそこはわたあめでもいいだろうと突っ込みたくなった。


(いや、世界が違うんだから呼び名なんてどうでもいいか……ふわふわあめ……略してふわあめ……ひびきは可愛い)

「……」


 ダリアは一瞬考えたのち、その場から立ち去った……はずだったのだが……。


「毎度あり!」

(か、買ってしまった……! 前世じゃこんな可愛い食べ物、人前では絶対に買えなかったから)


 レディースのトップ時代、憧れの的だった香織は、『強い』や『かっこいい』という言葉をきるほど浴びてきた。そのイメージを崩したくない一心で周囲の期待に応えていた

が、実は彼女にはある秘密があった。

 それは甘いものに目がないことと、少女漫画や乙女ゲームといった恋愛ものが好きだということ。中身が実はこんなにも女の子らしいという一面は誰にも知られたくなかったのだ。


(まあ、今は変装してるけどダリアだし? 堂々と食べててもおかしくないよな)


 ダリアは嬉しそうにわたあめを頰張る。


「甘くて、めっちゃくちゃうめぇ~」


 前世ではなかなか食べることができなかった分、喜びも増す。


(あ、そういえばひとりだけ、ウチのこの秘密がバレたことがあったな)


 前世で関わりのあった、とある男のことである。名前はみやびといい、見た目は真面目な優等生だったが、中身は泣く子もだまる有名な暴走族の総長だった。

 その男と出会ってから、香織はやたらと彼にまとわれるようになった。結果、絶対知られたくなかった乙女な一面を知られてしまったわけだが、今となればそんなことすらなつかしいと目を細めて笑みをもらす。


(ウチが死んでびっくりしたかなあ。いや、雅は人の感情を持っていないれいこくな男で有名だったから、きっともう忘れてるな)


 ダリアは自身の考えに勝手になっとくする。というのも、自分の死が原因で誰かを悲しませていたら……と思うと、やりきれない気持ちになるからだ。

 家族は元気だろうか。一緒にトップを目指していた仲間たちは?

 気づけばダリアは、転生してから初めて頭の中が前世のことでいっぱいになった。

 考え事をしながら歩いていたからだろう、いつの間にかひと通りがない町の外れまで来てしまっていた。


「なんか、ここって……」


 ダリアの脳裏に浮かんだのは、みちばたに傷だらけで倒れていた――雅の姿。その記憶は今世のものではなく、前世のものだ。

 ある夜、警察から補導されそうになって逃げていた時に偶然見つけ、放っておくこともできずつい助けてしまった。意識が戻った雅は、生きることを諦めたような表情をしていたものだ。

 香織からすれば、けんめいに生きてる人間の前で何なんだ? 生きたくないならウチの見えないところで勝手に死んでくれ! と言いたくなる状況だったが、怪我が治るまでの間だけと何日か一緒に過ごすうち、なぜか雅に気に入られてしまい、完治した後も付き纏われるようになってしまった。

 そんな雅との出会いが、今いるような薄暗く、ひと通りがない道端だったのだ。

 そして今まさに、ダリアの視線の先には、前世の雅と同じように血だらけで倒れている男が見える。


「そうそう、こんなような状況だった……って、待てよ。これって現実だよな!? いや、ほんとに誰か倒れてんじゃん!」


 ここが現実であることをすっかり忘れていたダリアは、急いでその人物に駆け寄った。立派な身なりからして貴族男性のようだ。


「あんた、大丈夫か?」


 ダリアは慌てて声をかけるが、男からの返答はない。しかし息はあるようで、ピクッと眉が動いたのを確認したダリアは「こんなところで死ぬんじゃねぇぞ」と呟き、慌てて町に戻って医者を呼びに行った。

 幸いすぐに診療所に運んで医者に診みてもらえたおかげで、男性は一命を取り留めた。し

かしまだ油断できない状況らしく、意識が戻るまではなんとも言えないとのことだ。


「あと少し発見がおくれていたら助からなかっただろう」


 医者の言葉に、ダリアはあんの息をつく。


「間に合って本当に良かったです」

「この方とはどういった関係かね?」

「あ、いえ……知らない人です。道端で倒れていたのをたまたま見かけまして」

「ふむ。貴族らしい身なりだが、いったいどこの家門のお方なのか。面倒事に巻き込まれなければ良いが……」


 貴族が血だらけで道端に倒れているなど、どう考えてもよろしくない事情があるのは明白だ。医者はため息をきながら、別のかんじゃを診てくると部屋を後にした。


「……うっ」


 その直後、男が小さなうめごえをあげる。ひん状態からまさかこれほど早く意識が戻るとは思わなかった。


「大丈夫か!」


 ダリアは急いで声をかける。


「……ぜ」

「えっ?」

「なぜ、助けた……死なせてくれれば、いいものを」


 男はうっすらと目を開ける。心なしか、ダリアを睨んでいるようにも見えた。

 ダリアは驚きに一瞬思考が停止してしまう。そして……。


(はぁ!? 今こいつなんつった? 感謝こそすれ、助けた相手に対してこんなことを言うなんて意味わっかんねえ!)


 我に返ったダリアの怒りメーターは一気にMAXを超こえ、我慢のがの字すら思い浮かぶ

ことなく言い放つ。


「死ぬなんて簡単に言うな! 死ぬ運命を変えようと必死に生きている奴もいるんだから! そもそも助けた相手に失礼だろ!」


 つい口調が乱れてしまったが、それをりょうするくらい腹が立っていた。


(そういえば雅も最初こんな風に毒吐いてきたよな……ムカついてあん時もキレたっけ)


 前世と限りなく近い今の状況に思わず怒鳴りつけてしまったが、ダリアは冷静さを取り戻すと同時に、見知らぬ相手に何をしたのか理解して慌てて謝罪した。


「も、申し訳ありません! つい、余計なことを……ですが、貴方あなたも良くないと思います……というか、わた……僕が通る道で倒れていたのが悪いんです。僕に見つけられてしまったことを災難だと諦めて、次はどうか僕がいないところで……わっ!? 」


 男が突然起き上がり、目を見開きながらダリアを見つめてきた。


(なんだ……こいついきなり。てか間近で見るとすげえ整った顔してんな……あれ? この顔どっかで見た覚えが……)


 先ほどは暗くてよくわからなかった男の顔が、明かりの下ではっきりと見える。ちゃいろの髪に、金色の瞳をした男は、息をのむほどの美形だ。

 黙りこくっていた男は、ようやくダリアから視線を外すと口を開く。


「生きていてもつまらない毎日にいやがさして、あのまま死のうと思ったんだ」

「生きてて楽しいと思ったことがない人生? なんて可哀想……あっ、失言でした! それでも死ねなかったってことは、生きろってことですよ」

「それでもやはり死にたいと思ったら?」

「でしたら次はわた……僕の知らないところでお願いします」


 あんな状況を見て放っておいたら必ずこうかいする。そう思ったからこそ、ダリアは前世でも今世でも瀕死状態の男を助けたのだ。


(確か雅にも同じような言葉を返して、そうしたら……)


 男は微笑んだ。


(そう、おかしそうに笑ったんだ。まさに今みてえに。あっ、もしかして雅に似てると思ったのか?)


 しかしダリアは違うと脳内で言い切る。前世の雅とは似ても似つかぬ、西洋風の姿形。

 髪色はまだしも、瞳の色が違うのだから、この世界の人と似ているなんてありえなかった。


「そうか。俺は運が悪かったのか」

「はい。なのでもうしばらく生きていてください」


 ダリアの言葉に男は小さく微笑んだかと思うと、そのまま再び眠りについた。


(いったい何なんだ。はぁ……もうこのまま帰りたいところだが……容体が急変したら困るし、医者が戻ってくるまで待っとくか)


 ダリアはじっと男を見つめながら、どこかで見た覚えがあるその正体を思い出そうとした。


(焦げ茶色の髪に金色の瞳……タレ目がちな優しい目元……なんだっけな。あのわざとらしいかみがたもどこかで……確か変装うんぬん……あっ!! )


 ようやくダリアは思い出した。


「攻略対象キャラ……の変装姿じゃねえか!」


 男の正体は、ヘデラ・グラディー。ここ、バルーンていこくの第一皇子であり、アイハナの人気ナンバーワン攻略対象キャラである。

 本来のヘデラの容姿はくろかみきんがん。しかしゲームのシナリオでも変装して皇都におしのびで遊びに行く展開があり、まさにその変装姿が今目の前でているヘデラと完全にいっしているのである。

 だからこそ、ダリアがすぐに思い出せなかったのも無理はない。


(つーか皇子様がなんであんなところで瀕死状態になってたんだ……?)


 ヘデラが倒れていた場所はアグネス領で、視察でもない限り訪れる機会はない。

 もし視察だったとしたらダリアの父││ 当主がこのタイミングで皇都になど行かないだろう。それより何より、ヘデラルートでダリアは破滅エンドを迎えるという最悪な結末が待っている。だからこそこの人物と関わることは全力でかいしたい、ところなのだが……。

 皇子様を放っておくわけにもいくまい。前世からの世話焼き体質がこんなところでかんなく発揮されてしまったようだ。悪役令嬢も楽じゃない。

 結局その日は夜も遅いからと、医者のこうで部屋を貸してもらい、そこで休むことになった。

 翌日。パンとミルクを用意してくれた医者が、ダリアのいる部屋にやってきた。


「いやはや、すさまじい回復力だよ。こうぞくの人間の回復が早いという話なら聞いたことがあるが、貴族様自体、回復が早いもんなんだね」


 何かいいことでもあったのか、医者は上機嫌だった。


(いや、大正解だぜお医者さん。だってヘデラは皇族なんだから)


 皇族は自然能力がひときわすぐれているというゲーム上の設定になっている。

 ダリアはそれを知っていたため、医師の言葉を心の中でしょうさんしつつ、何食わぬ顔でそれは良かったと口にした。


「彼は今どんな状態ですか……?」

「そうだ、先ほど目が覚めて、君に会いたいと言っていたんだ」

「へぇ……そうですか」


 あれから対処法をあれこれ考えたが、思えば現在は男装をしているため、とうてい貴族の令嬢とは思われないだろう。じょうさえバレなければ、この場は乗り切れるとダリアは結論づけた。


「きっと命の恩人にお礼を言いたいのだろう。私まですごい感謝をされたよ」

(ウチは睨まれたけどな。どういう風のき回しだよ)


 ダリアは少々イラっとしつつも扉をノックする。


「失礼します」


 おそおそるドアを開けると、ベッドで上体を起こしているヘデラの姿があった。


(さすがは攻略対象キャラだな……顔がい!)


 第一皇子のキャラクタービジュアルは良く、気に入っていたのも事実。ゲームの中だけの人物と思っていた張本人を目の前にして、いささかきんちょうしてしまう。


「来てくれてありがとう」


 優しく、柔らかな声だった。その声を聞けば誰もが安心するような、緊張がやわらぐこわ


「お体はいかがでしょうか」


 平静をよそおうダリアだが、内心は気が気でない。なぜなら昨日、この国の第一皇子に向かって無礼な発言をかましたからである。


「だいぶ良くなったよ。俺を助けてくれてありがとう」

「お礼だなんて恐れ多い……! へ、平民相手に感謝など必要ありません」


 あえて平民を強調し、ダリアは自分が何も知らないつうの少年だとアピールする。


「命を助けられたんだ、感謝して当然だろう」


 ヘデラがそう言って無理やりベッドから下りようとしたため、ダリアは慌ててそれを止める。


「わっ……勝手にお体にさわってすみません」


 すぐさま飛びのこうとするが、ヘデラに腕をつかまれ、穏やかな表情で見つめられてしまった。


(なんでこんな状態で笑ってられんだ? 体が痛くないのか? 実はMとかっていう裏設定でもあるとか……?)


 なぜか背筋がゾクリとしたダリアだが、顔には出さないように意識する。


「あの時の君の言葉で、俺は生きる理由を思い出したんだ」


 どことなく嬉しそうな笑みに、ダリアは首をかしげる。怒鳴りつけた自覚はあれど、そんな大層な発言をした覚えはない。


「それなら良かったです。ええっと、ひとまず放してもらっていいですか?」

「ああ、すまない。だけど本当に良かったよ、死ぬ前に可能性をいだせて」


 ようやく腕を放してもらったものの、ダリアはヘデラとの会話に違和感を覚える。


(ヘデラってこんなキャラだっけ……? ゲームではいちにんしょうが〝私〞だった気がしたけど、今は〝俺〞だし。もしかしてこれも裏設定なのか……?)


 ゲームにはない一面に戸惑いつつ、変装をして正体を隠しているからかもしれない、と結論づける。


「ご無事で良かったです。では、わた……僕はこれで失礼いたします」

「待っ」


 ヘデラは慌てた様子でダリアを呼び止めたが、ダリアとしてはこれ以上ボロが出る前にとそそくさと部屋を後にした。ここまで話ができるなら、もう付き添う必要もないだろう。


(ウチの正体、バレてねえよな?)


 ダリアは今の状況を無事に切り抜けられたことに、心から安心しきっていたのだが。


「やっと見つけた」


 ダリアが部屋を去った後、第一皇子は嬉しそうにそう呟いたのだった。


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