きょうだい

暗闇の夢に舞う桜

【まただ……。また夢を見ている……】


 洋子は、また暗闇の中をひとりぼっちで立っている。


【光は…ない……】


 辺りを見渡してみても、緑色の光も、赤色の光も、両方ともどこにも見当たらなかった。


【誰か……彰くん……】


 洋子はキラキラと緑色に光る彰の顔を思い浮かべ、この前と同じように、祈るように跪いた。


【あれ……この声は?】


 赤子の鳴き声が遠くに聞こえ、洋子はパッと閉じていた瞳を開く。


【そこにいるのは誰?】


 真っ暗闇でよく見えないが、洋子の目の前には確かに人がいる。


 ヒラヒラとどこからか、桜の花びらが舞い落ちてきている。洋子がそれに目を奪われていると、赤子の泣き声がどんどん近づいてきた。


【あなたの子ども……?】


 洋子がそう問いかけると、見えない誰かが微笑んだ……。ような気がした。


【綺麗……】


 見えない誰かに釘付けになって、洋子は小さな声で呟いた。


【この子達をよろしくね……】


 見えない誰かがそう言うとわ吹く風もないのに桜の花びらが視界を覆うほど大量に舞った。


 いつの間にか、赤子の泣き声が二重に聞こえている。


 ふたつの泣き声に混じって、洋子の頭の中に機械的な音が鳴り響いた。

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