煌めく緑は明瞭に
家を出た洋子は、歩道橋の前で圭子と会うことが出来たので、一緒に学校に向かっている。
「あのね、圭ちゃん。今日って、学校終わったあと暇かなあ?」
「え? あー……明日、体力測定があるでしょ? 今日の放課後はその準備があるのよ」
「あ、そっかあ……」
貰ったスケジュールのプリントにも、明日は体力測定と身体測定がある事が書かれていた。洋子はそれを思い出す。
圭子は体育委員に入ったので、今日と明日は忙しいのだ。圭子をご飯に誘おうと思っていた洋子は、しょんぼりと肩を落とした。
「ごめんなさいね。明後日なら一緒に帰れるから。寄り道しよ」
「うん! 約束だよ!」
できたら、圭子と同じ体育委員になった若菜とも仲良くしたいなあ。そんなことを考えながら、洋子は気を取り直して歩き出す。
歩道橋を降りて暫く歩くと、遠くに見える信号の傍でチカッと緑色の光が見えた気がした。洋子はすぐに、その光が彰だとわかる。
「……彰くんだ」
「え? どこ?」
かなり距離はあるが、探せば圭子も信号待ちをしている彰を見つけることが出来た。
「あんな遠目からよくわかるわね。」
彰は、今洋子達が歩いている場所からは2つ先の信号で待っている。その上、学校が近いので同じ制服を着た学生の数も多かった。
彰がいる。と意識して見たから圭子も気づくことが出来たわけで、きっと何も考えずに歩いていただけなら、彰が遠くで信号待ちをしていることになんて、全く気づくこともなかっただろう。と思う。
「彰くん、目立つもん」
「まあ、確かに目立つ顔立ちしてるけど……。後ろ姿よ?」
「キラキラ光ってるからすぐにわかるよ?」
その表現が圭子には分からないので、やはり洋子は不思議だ。と思われてしまうのだった。
「あれ? あの子、青なのに渡らないじゃない」
「本当だ。どうしたんだろ」
洋子達が不思議に思っていると、彰がふとこちらを振り返った。今もまだ遠いが、顔が見える距離までは移動している。洋子と彰は、バッチリ目が合っていた。
彰と洋子達の間にある信号をひとつ渡ると、洋子は彰の元へ駆け出す。
「おはよう。洋子ちゃん。圭子ちゃん」
「おはよう!」
「おはよ。どうしたの? さっき信号、青になってたのに……」
圭子は歩いて彰達に近寄って、そう聞いた。信号はまた赤になってしまったので、3人とも立ち止まっている。
「なんか視線を感じたから……。洋子ちゃん達だったんだね」
あの遠くからの視線に気づいたのか。と、圭子は彰を見て微妙な顔をした。洋子もだが、彰も不思議な子だと思ったのだ。そして、段々こちらの方がおかしいのでは無いか。と思わされてしまう。
「えへへ。彰くんの姿が見えたから、つい」
「逆に、あんな遠くからよく僕に気づけたね?」
「そうよね。不思議よね」
やっぱり洋子が不思議なのだ。と、圭子は安心した表情で頷く。洋子はかくんと首を傾げると、彰を見つめてこう言った。
「彰くんは緑色に光ってるんだもん」
「ああ。そっか」
彰はあっさりと受け入れる。圭子もよく目を凝らして彰を見つめるが、容姿が目立ってキラキラして見える。以外に、印象は思いつかない。
「緑色って……? 髪の色素がちょっと緑っぽい気はするけど、うーん……」
「圭子ちゃんはわからなくていいと思うよ」
彰はニッコリと綺麗に微笑むと、青になったばかりの信号を渡って行く。2人は急いでその後を追いかけ、彰に並んで歩いた。
「呪いを受けた子だもんなあ……」
誰にも聞こえない声で、彰は独り言のように呟いた。隣にいるにも関わらず、洋子と圭子にもきちんと聞こえない声だ。
ただ、何を言ったのかは聞こえなかったが、彰が何かを呟いた事は分かったようで、2人とも不思議そうな顔で首を傾げていた。
「あはは。なんでもないよ」
彰はそう言って笑う。やっぱり綺麗な笑顔だ。と、洋子も圭子も思わず惚けてしまうのだった。
。。。
今日はまだホームルームだけなので、すぐに放課後になる。
洋子は今朝、圭子に断られたので、1人で昇降口へ降りた。ご飯をどうしようか。と考えながら歩いていたので、急に後ろから肩をポンっと叩かれて、驚いてしまった。
「わあっ!?」
「わっ。ごめん。そんなに驚くなんて思わなくて」
洋子の肩を叩いたのは彰だった。まん丸い目を大きく見開いて、驚きで飛び跳ねてしまった洋子を見つめている。
「わ、私こそごめんね。今日のお昼ご飯、どうしようかなって悩みながら歩いてたの……」
洋子は恥ずかしそうにそう言ってから、気がついた。彰の傍には、男子生徒が何人か立っている。その中には、入学式の日に衝突しかけた亮太もいた。
「ねー、ご飯迷ってるなら、俺らと食べない?」
「おい、
目の前にいる男子生徒は、彰と亮太を除けば3人だ。ホームルームの時に自己紹介をしているので、名前は聞いた事があるはず。しかし、洋子は誰が誰であるのか、まだ覚えきれていないのだった。
「あ、あの。えっと、亮太くんと……えっと」
洋子が戸惑っていると、3人はピタッと言い合いをやめ、洋子を見る。
3人とも背丈が高い上に、ガタイも良い。更にピアスだったり、髪の毛を染めていたりするので、思わず肩が跳ねてしまった。
「俺は
陽太は茶髪に染めていて、天然パーマの髪をワックスで整えているようだ。細身ではあるが、かなりの高身長で、洋子は陽太を見上げる形になった。
「水森洋子です。お名前、覚えてなくてごめんね」
「気にしなくていいよ。どうせこいつも女以外の名前は覚えてないし」
と言って、これまた高身長で、陽太よりもガタイのいい男子生徒が陽太に肩を組んでいる。彼は金髪で、ピアスの量もかなり多い。洋子はドキドキしながら、彼を見つめた。その視線に気づいたのか、彼も自己紹介をしてくれる。
「俺は
地毛だとは思っていなかった。洋子はこくこくと頷くと、しょんぼりとした様子で偏見を持ったことを謝った。
「よく間違われるから気にすんなって」
「ちなみに、俺っち
「そ、そうなんだ……。あの、よろしくね」
宏昌が一番身長が高く、筋肉質だった。洋子は更にドキドキしながらも、愛想の良い明るい笑顔に安心して、挨拶を返した。
「僕も陽太くんに誘われて、暇だからご飯行こーかなーって。洋子ちゃんも行く?」
「え? さ、誘ってくれるのは嬉しいけど……本当にいいのかな?」
彰の問いに、洋子は迷う。1人で食べるのは寂しいし、クラスメイトになったのなら仲良くなりたいという気持ちもある。しかし、女である洋子が男子生徒の輪に急に入ったら、気を遣わせてしまうのではないか。と思った。
「俺、可愛い女の子大好きだから。大歓迎ー!」
「へっ!? か、かわっ……」
洋子は言われたことを素直に受けとってしまうので、恥ずかしそうに頬を染めながら、俯いてしまう。陽太はそんな洋子を見て、デレッと頬を緩めた。
「顔がだらしねえぞ。陽太」
「悪い奴ではないんだけどね。嫌なら断ってくれていいからさ」
「洋子ちゃんの好きにしなよ。俺らはどっちでも構わないから」
見た目はガタイの良さだったり、染髪やピアスだったりで怖いのだが、表情は優しい。洋子はドキドキしながらも、誘って貰えたことは嬉しいようで、こくんと頷いた。彰が一緒だということも、大きな決め手のひとつになったようだ。
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