第6話少女をかう6
「ほら、私の名前も読んでよ。」
「いやです。」
「いいでしょ?ほら、ほら!」
「やです。」
「なんでよ!」
生徒会長はぐずり始めてしまった。
想定はしていたけれど、ここまで子供のような態度をするとは思っていなかったので少し気持ち悪さを感じてしまう。
他二人はそんな生徒会長をまたかとなにも違和感なく見ている。
この空間はすでにこの生徒会長に慣れてしまったものしかいないようだ。
「でも、せっかくやし、呼んであげちゃダメはるか?一度くらいいいんちゃう?」
「……だって、……ないし……」
「?なんて言ったはる??」
小声でつぶやいてしまったのを聞き取られてしまった。
その言葉を口にするには少し恥ずかしさもあってなかなか言い出し辛い。
心無先輩が相手でも躊躇してしまう。
「あ、もしかして、みーちゃんの事嫌いはる?」
「い、いえ……そこまでは……。」
「なら、一度だけお願いできないはる?私の頼みと思ってはる。」
「…………し、知らないんです。」
「何をはる?」
「生徒会長の名前……知らないです。名前を名乗られずに連れてこられて、無理やり働かせられていたので……」
「そうなのはる!?みーちゃん!?」
「ち、違うよ!?」
心無先輩は信じられないという目を生徒会長に向けていた。
生徒会長は必死に言い訳を口にしてどうにか収めようとしている。
けれど、心無先輩のほうが立場的に強いのか、正座状態でお説教を受けることになった。
その間私は心の中でしてやったと笑った。
「あんた、性格が悪いって言われない?」
「さあ?何分同じ学年の子との接点がありませんから。」
「そう。……とはいえ、琴葉を良いように利用するなんて、いいご身分ね。」
「はて、何のことでしょうか?私は事実しか口にしていませんので。」
「ふん。……なんでこんなのを……」
私から離れる際、絶妙に聞き取り辛い声を発していた。
嫌味か無意識か、どちらにしろ、そちらの方が無礼なのを理解できないのだろうか?
どちらにしろ、今回は私は何も悪いことはしてない。
事実しか言ってないのだから文句を言われる筋合いはない。
「みーちゃん許してよ……」
「謝まるのは渡しちゃうやろ?」
「ぐすっ……紫ちゃんごめんね?」
「分かりました。」
もう少し伸ばしても良かったけど、心無先輩に迷惑をかけないようにこのあたりでやめにしよう。
それに、あの報復がないとも言えないし、そのためにも保険は必要。
ご機嫌を損ねるにしてもコントロールを取れるようになれば、将来に役に立つ。
「許しはしましたので、名前を名乗ってください。その後私も名乗ります。心無先輩、迷惑をかけてしまい申し訳ございません。」
「良いはるよ。こっちこそ、みーちゃんがごめんはるね?」
「私が悪者みたいじゃん。うう……どうして。」
「みーちゃん?」
「な、何でもないです。」
この人は心無先輩に弱いのか、言われたことに反抗しようとしない。
いつものこの人に迷惑をかけられる身としては強い味方であり、どのような人物か探りを入れたくなる人物。
今のうちはこの人を良いように利用して、この会長を上手く交わせるようにしよう。
もし、敵になるようにだったらその時は……。
「私の自己紹介を、させていただきます。」
「うん。」
「生徒会会長の
「うん。」
頭を撫でられながら子供のように喜んでいる。
いや、一芸が出来たあとに喜ぶ犬かしら?
「それでは私も自己紹介を始めさせていただきます。……先程から話に上がっていました書紀を担当させていただく高橋紫です。以後お見知りおきを。」
「え、あんはんが書紀をちゃん?え、え?」
「私も驚いたけど、変装して紛れてたとは。」
「それは聞き捨てなりませんね。このも全て会長の指示ですよ。」
「……
「なんのことかな?私はサプライズを用意してただけだよ。それに嘘ついてないの?」
言い返すこともできず、副会長は不貞腐れた顔をしている。
会長は副会長が私の前で陰口を叩いたという不快感をあえて与えるためにわざと私に顔を隠して部屋にいさせるようにしたのだろう。
分かっていたとしても、こいつの策略に加担することになったのが正直腹立たしくもある。
ただここでは黙っておくのが懸命かしら?
「それで、最後に副会長も自己紹介をしてください。私は一方的にけなされるだけで、名前も招待も知らないのですから。」
「やーい、言われてるよ副会長!」
「こっちに悪い子がいたんはるか?」
「ち、違うわよ!私は会長に何を基準で選んだか聞いてただけよ。」
「えー、私も悪口を言う感じで聞いたんだけどなぁ?」
「か、会長!?…ちっ。…………
心無先輩に言われる前に名前を名乗った。
ただし、全然目を合わせないし、口悪そうに言っていて良いものではなかった。
生徒の模範がどうのこうのと言っていたけれど、今の姿を見て呆れてしまう。
「そ、それで、みんなの自己紹介を終えたから、会議を進めたいけど大丈夫?特に、ことちゃん様。」
「いいはるよ?」
「そ、そう。……では、灯籠祭に付いてだけど、持ち場については前回指示したとおりで大丈夫?」
「私と紫ちゃんがみんなの誘導はるよね。」
「私は会長と一緒に先生たちと運営の手伝いですね。」
「認識はそれで大丈夫。理事長相手は私がするからあっちゃんは他の先生とのつなぎ役になってね。」
「そこで、なぜ会長自身がつなぎ役をしないか本当に疑問ですよ。例年ではつなぎ役は会長の役目ですよ。」
「それは分かってるんだけど、正直他の先生の私への印象が良くないんだよ。それに、私もお爺ちゃん以外苦手だし。だから今年はあっちゃんね。」
好き嫌いの激しい子どものような態度をする。
らしいと言えばらしいけれど、先生の前では猫を被るタイプかと思っていたから意外。
あくまでも駒になりえない者に対しては適当な態度を示すタイプのようね。
「それから、ことちゃんと紫ちゃんは例年とは違い委員会を集うのをやめて、警備員を雇う事にしたからね。」
「警備員をですか?それはどうしてですか?」
「もしかしてあれちゃう?」
「あれ、とは?」
「あなた、不審者の件を知らないの?」
不審者とは聞き捨てならないわね。
この学園をいわばお嬢様学園であるから、警備はそれなりのモノのはずよね?
それなのに不審者が現れるとは、どのような抜け道があるのやら。
「一応、何をするでもなくただ通りすがっているだけと報告が来ているわ。ただ、毎日同じ時間に眼鏡をかけた男となると、ここのみんないい顔をしないわね。」
「本当に迷惑だよ。私の学園なのに、可愛い子たちが怯えるような事にはしたくないよ。」
「みーちゃんの学園とはちゃうはるよ?」
「じょ、ジョーダンだって!ともかく、警備員は私のお父さんのツテでちゃんとした人を雇ってもらうから、信頼は置けるはずだからいいように使ってね。」
「大の大人はん相手にそんな事はねぇ?」
「生徒会長じゃあるまいし。」
心無先輩と私の意見は一致していた。
つい顔を見合わせて笑みを見せる程度には、生徒会長の扱いが分かってきた証拠かもしれない。
「2人共ひどいなぁ。まあいいけどね。とにかく、不審者騒動で学園側もちょっとピリついてるから、警戒は怠らないようにね。それと、細かな行動についてだけど…………」
おふざけの声とは変わり、少し真面目な声に変わる。
ここからは細かな行動指示であるから間違って伝えないためにも真剣みたい。
2人も長年付き合いがあるおかげか、声が変わった瞬間に姿勢を変えていた。
そこに、絆の様なものを感じて私は少し心が痛くなった。
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