第5話少女をかう5

「何度も言うけど、私はあの子にそこまでの価値を見出せないんだよ。」

「価値ならあるじゃないですか!彼女は成績優秀です。模範生として申し分ない立ち振る舞い、色々そつなくこなせる。……これのどこに価値がないと言うのですか!?」


 彼女は深く、冷たく、哀れみのため息をこぼした。

 何も理解していないと語るように目を細め副生徒会長を身すめる。


「彼女には、それ以外に何か出来る事はあるのかい?」

「それ以外にって、他に何がいると言うのですか!?」

「あのね、生徒会の仕事ってのは結局の所、慣れれば誰でもできるんだよ。最初は出来なくてもいつかは慣れる。模範生としての態度もそう。日々の努力でいつかは成れるんだよ。だからさ、そう言った部分を最初からできる人ってのは結局の所、長所にはならないんだよ。私が欲しいのは、それ以外に特筆した何かを持ってる人材が欲しいんだよ。」


 淡々と喋り始める。

 理解していない者に、理解できるよう読み聞かせる。

 大人が子供へ理解させる時の風貌思わせる。

 それは全て正しくて、当たり前を口にしているだけだった。


「では、彼女……高橋紫に何があるというのですか!?」

「彼女は大きなものを持っているじゃん。ね?」


 生徒会長は一瞬私のほうに視線を向けた。

 すぐに視線を戻したから何を意味していたのか分らないけど、良いものではないと思う。


「家……ですか?」

「正解だよ。彼女にはバックがついている。しかもかなり大きなね?」

「ですが……。」

「言い訳を言わせないよ。彼女のバックはあくまでも彼女が学校にいるだけで機能するんだよ。それを生徒会が手にしている事が出来る機会を逃す意味なんてないんだよ。それにね、彼女はそれ以外もある。」

「何があると……」

「ま、それは今はやめておこうかな。一先ず、これ以上手間をかけさせないでね。」


 椅子を回転させ、生徒会長は背を向けた。

 その姿勢はそれをこれ以上話すことはないと言っているようだった。


「分かりました。」

「理解を示してくれると助かるよ。」

「…ですが、彼女がふさわしくないと思ったらまた言いに来ますからね。」


 副生徒会長は言葉を残して出ていってしまった。

 なんとも言えない不快感が強い空気だけが残り、私は沈黙を続けてしまった。

 それは生徒会長も同じようで、自分から声を出すようなことをしなかった。

 ただ淡々とため息をついては外を眺めるだけだった。


 放課後には生徒会室にて会議が行われる。

 この会議では仕事の進捗を確認するだけでほとんどやる意味がないものとなっている。

 しかし、週に一度まともな会議をすることがある。

 それが今日この日。


 会議の内容は『灯籠祭』について。

 灯籠祭とはこの学園の古くからある伝統。

 この学園の奥にある中庭の灯籠を一斉に灯し、自分の持ってきた紙切れを燃やす行事。


「だから、紙切れを燃やす行事じゃないんだって!」

「そういわれましても、生徒にアンケートを取ったところ多くの生徒はこのように思っているそうです。」

「最近の若者はダメだね!あれは自分と思い人がちゃんと天国に行けるようにって、空へ献上する行事なんだから!」

「そうは言っても、多くの生徒はそんなの覚えて無いんちゃう?私の友達も分かってなかったはるよ?仮面ちゃんもそう思うはるよな?」

「………(コクっ)」


 黙っていると急に話題を振られたので条件反射で無言でうなずいた。

 この人は現生徒会メンバーで役職は会計の心無こころなし琴葉ことは先輩。

 唯一私に優しく接して、尊敬できる先輩。


「それはそれ、これはこれ!」

「そんなこと言っちゃあらへんよ?生徒はんの認識もちゃんとせんと。」

「だって、改めてこの行事のありがたみを語っても誰も聞いてくれないんだもん!仮面ちゃんもどうせどうでもいいとか思ってるでしょ?」

「………(コクっ)」

「ほら!」


 本心で頷いたところ、生徒会長は項垂れてしまった。

 この生徒会に所属して一か月は立つけれど、改めて生徒会長の態度がおかしいのがよく見える。

 会議メンバーが私を除けば同じ3年生のみで構成されていて、仲良しグループのようだ。

 もともと生徒会以外でもつるむからこそ、砕けた態度が自然と出るのかもしれない。


「そういえば、仮面ちゃんの役職は決まってんはん?ほら、ずっと一緒に仕事をやったやろ?そろそろいいんちゃう?それに、新たな書記はんも紹介してほしいわ。」

「ああそれね!実はずっとあっちゃんが邪魔してたんだよ。私は認めないんだった。」

「ちょっと、会長!?」

「そうなん?そんなに悪い子なん?」

「全然!私の言う事をちゃんと聞いてくれるいい子だよ!多分ことちゃんとも仲良くできると思うよ!」

「ほな、会いたいわ!」


 心無先輩が頷くと同時に、副生徒会長が顔を歪めた。

 この場で2人と意見が食い違うのが嫌みたい。

 こちらが何をしたでも無いのに、そこまで憎まれるのは癪に障る。


「ことちゃんも会いたいって言ってるし、そろそろ役職の確定も兼ねて、彼女に来てもらおうかな?」

「やっと会えるん!ワクワクしてきたわ!」

「本当に呼ぶんですか?」

「あっちゃん、まだそんなこと言ってるの?直接会ってもないのにそういうの良くないよ?」

「ですが、……」

「あっちゃん、会いもせんのに悪口はダメはるよ?」


 どれだけ私と会いたくないのだろうか?

 ここまでくると清々しいまである。


「あっちゃんが文句を言うのはほっといて、彼女を連れてこよっか。」

「放送でもするはる?」

「そんな感じかな。……と、その前に、彼女のお面も取ってもらおうか。」


 私の方を指さす。

 視線が私に集まり、二人は少しの疑問を抱く。


「え、彼女は仮面を取れるんですか?」

「別に体の一部なわけじゃないんだしね?」

「無理に外させるのは良くないんちゃうはる?精神的な理由で付けたり……」

「違うよ。あれはね、恥ずかしがって付けてるんだよ。彼女はシャイだからさ、ね?」

「でも、なんで急にそんな事を……」

「そ、れ、は、……彼女にも正式に生徒会のメンバーとして入れるからです!!」

「はぁ!?私そんな話聞いて無いですよ!?」

「そうだっけ?」

「でもいいはる?仮面ちゃんに無理やりじゃないはる?」

「ちがうよ、ね?正式に入ってくれるなら、仮面を取ってくれるよね。」

 

 早く仮面を取れという幻聴が聞こえてくる。

 これは私が仮面を外すまで話も進まないだろうし、誤解を生むかもしれない。

 仕方ないけど、ここで外すしかないわね。


「はぁ……」


 ため息を漏らしながら仮面を外す。

 仮面から現れた顔を見て、心無先輩は嬉しそうな顔を浮かべ、副生徒会長は口を開けたまま固まってしまった。


「きゃー!!仮面ちゃんは、こんなに可愛かったんはるな!仮面なてなんてもったい事を!?」

「少々事情がありまして……。それと、今まですみませんでした心無先輩。あまり声を出せない事情がありまして……。」

「いいはるよ!これからはちゃんと話そうはるね!」

 

 心無先輩には好印象だ。

 私の目に狂いは無かったようで安心だ。


「いいな、いいな。ことちゃんだけ先輩呼びいいな!」


 明らかに態度が悪そうに生徒会長が声を上げる。

 こうなった生徒会長は絶対に面倒くさい。

 経験上からでも推察できる。

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