第4話少女をかう4
女の後をついていく。
不本意ながらも、彼女の持っている
終始機嫌の良い女は、周りの生徒の目を気にせずのらりくらりとしている。
私にとってその行動は気持ちが悪くて正直引いていた。
そんな私を気にせず進むものだから、腹立たしくもあった。
「着いたよ。さぁ、入って!」
生徒会室と堂々と書かれたプレートが書かれた部屋をその女は気に求めず開く。
そして、自分だけ先に入ると、部屋の奥に堂々と置かれた生徒会長というネームプレートの机に向かい、その席へ鎮座した。
「ごっこ遊びですか?」
「さあ、どうだろうね?」
似つかわしくない席に座る女を凝視する。
嘘をつかれたと言う感情と嵌められたという屈辱が鬩ぎ合う。
「最初から狙っていたんですか?」
「違うよ。あれは偶然。その後は必然だよ。」
私は最悪な運命に弄ばれる人生なのかもしれない。
この女の言葉が嘘であったならばどれだけ良かったかことか。
偶然ではなく意図的であれば完全に恨みきれたというのに。
「本題に入ろっか。」
「嫌です。」
「君に拒否権はないよ。だって私には……」
「脅しですか?」
「そうだよ。」
悪意無く言ってしまう。
この時彼女を怖いと思ってしまった。
取り繕って笑顔でいる所もあるけど、瞳の奥に灯るドス黒い暗黒を垣間見たからだ。
「生徒会に入ってくれるよね?」
「……嫌です。」
「どうしてかな?」
「……瞳を傷つけたからです。」
「……そっか。」
彼女が面白なさそうに吐露する。
強引に迫ってくるのかと思ったけど、そうしなかった。
いや、もしかしたら、今はそういうふうに振る舞っているだけで、後から追い込んでくるかもしれない。
「瞳ちゃんがそんなに大事なの?」
「……大事です。」
「一度壊しちゃったのに、何でこだわるのかな?」
「……!?」
この女は何を知っている?どこでその情報を得た?
余裕を見せる眼の前の女は、完全に獲物を目のうちに捉えている。
この女からは逃げられないと、悲しくも思ってしまった。
「もう一度言うよ?生徒会に入ってくれないかな?……いや、生徒会に入れ。」
「……」
頼み事ではなく、命令として私に言う。
相手の情報がない時点でほぼ負けの状態。
抗うことはできない。
「……質問いいですか?」
「何でも聞いてね。」
「私の情報をはどこで聞いたんですか?」
「私の親から、情報を盗んだの。」
「盗んだ?」
「そうだよ。」
この女が何を言っているのか分からない。
この女の親になにか秘密があるの?
「私の親はね、警察官なの。もちろん、君のお父さんのことも知ってる。そして、君がやったことも。そして私はその情報を盗んだ。自分の子供相手となると気が緩むんだよね。まさか、自分の娘にハッキングされるなんてことは思わないだろうから。」
どんな
それとも、それが当たり前の世界なのか?
「後、祖父はこの学園の理事長。今の事を学園に訴えても簡単にもみ消せるよ。」
「理事長直々に証拠を持って訴えてもですか?」
「この学園の闇を私も知ってるもん。お祖父ちゃんが私の悪行をバラすなら、私もばら撒く。だから、お祖父ちゃんは私を売れない。」
この話を回避する方法はない。
不本意でありながら、この女の言うことを聞かなければいけないようだ。
「私からも一つ聞きたいんだけど、どうして瞳ちゃんにこだわるのかな?」
「答える必要がありますか?」
「無いよ。」
「そうですか。では、黙秘させていただきます。」
「そっか。ならしょうがないね。」
先程のように命令すればいいのに、生徒会長はそれをしなかった。
どうでもいい事柄だったのか、それとも、あえて行使しなかったのか。
生徒会長なりの飴と鞭なのかもしれないけれど、使い方が下手くそだ。
「私の役職を教えてくれませんか?」
「一先ず書紀を頼もうかな。」
「後から変わるんですか?」
「気分次第でね。この学園は私の好きなようにできるから。」
「……」
ため息しか出ない。
生徒会長がどれだけ悪知恵が働くのかはしれないけれど、大の大人たちがしてやられるなんて、どんな教育体制をしているのやら。
「活動については後日話すから、今日はいつものように屋上に戻ってていいよ。」
「分かりました。」
「それとも、今後は授業に顔を出さなくてもいいようにしてあげる。屋上で存分に過ごすと良いよ。私がいる間は守ってあげる。」
最後に置き見上げを残してきた。
爆弾にもなりうるそれを、私はありがたく頂戴した。
それから一月、私は授業に出席しなくなった。
学校に行くたび屋上へ上がり、1日の大半をそこで過ごした。
瞳からは出席しない理由を問われたこともあるけれど、一度黙らせれば何も言わなくなった。
「一月丸々出席してないんだっけ?不良生徒が出来上がってお姉さんは悲しいな。」
「……」
「先生は何も言わないし、一体どうしたんだろうね。」
「……」
放課後は生徒会室で簡単な雑務を執り行う。
普段は会議の議事録をまとめて要点だけを絞った資料の作成や、次の行事の計画書の作成。新聞部の発行する学校新聞の推敲、そして、生徒会からの情報を追加をしなければいけない。
今の所入ったばかりで、正式に加入を公表されていないので生徒会長の相手をする事が仕事。
「ねえねえ、面白い話はないかな?」
「……」
酔っ払いにだる絡みをされるOL社員の気分。
私が無視をしているのに永遠と喋り続ける。
コミュニケーションが合ってないようなものなのによくもまあ口が廻るものだ。
「失礼します。」
ノックの音と共に声がした。
生徒会長は返事をしてその生徒を中に入れる。
声色からして直ぐにその人だと分かったので、机の中に入れておいた仮面を取り出した。
「生徒会長、今日こそはちゃんと説明してください!」
部屋に入るなりそそくさと生徒会長の前に向かう。
そして、怒鳴りつけるように叫んだ。
これまでのように同じ言葉を繰り返した。
それに対して、生徒会長もいつものようにお茶を濁す。
「元気だね、副生徒会長。その元気を活動に使って欲しいよ。」
「……」
「またそれですか?いい加減その言葉で片付けるのはやめてください。」
「えー。だって事実じゃん。活動時はそんなにはしゃがないじゃん。」
「当たり前です。私達は生徒の模範となる立場です。他生の前でこのような姿を見せるはずがありません。」
「そうなの?でも、彼女はこの場にいるよ。」
生徒会長は私の方を指さした。
指の視線を追って私に気がついたのか、大きなリアクションで驚いていた。
「今日もいたのですね。」
「……」
「また返事話ですか。」
「それは入るなり騒ぎ出す副生徒会長のせいでしょ?彼女は繊細だから急に騒がられると怯んで声が出ないんだよ。」
「最初もそう言ってましたね。すみません。」
律儀にも90度頭を下げる。
そんな事をするぐらいなら、本人の前であの話をしないで欲しい。
「そうだ、副生徒会長に頼み事があるんだけど今大丈夫?」
「ええ、何でしょうか?」
「夏休みの各部活動のスケジュールが上がってるから、チェックをお願い。」
「分かりました。」
生徒会長から資料を受け取り、自分の席につく。
一枚一枚時間をかけて目を通し、何やらパソコンを打ち始めた。
そして、急に机を叩きつけて立ち上がった。
「て、違いますよ!」
「?何が違うの?」
「私に仕事を振って話を逸らしましたね!!誤魔化せられませんよ?」
「別にそんなつもりはないって。副生徒会長が新書記を認めないから積もる仕事を終わらせるために頼んでるんだよ。」
「……ぐ。」
急所を突かれたかのように苦虫を噛み潰した。
私が現状書記として活動していない理由にはこの事が絡んでいる。
副生徒会長が認めないため、表向きにはまだ仮決定という扱いになっている。
だから、生徒会長も私に仕事を振らないようにしている。
とはいえ、後もう少しで強制的に私に決定してしまうけれど。
「それはそうと、彼女がここにいる理由もまともに聞いてませんし、早く理由を教えて下さい。私は納得したいだけなんです。」
「納得納得って、きちんと説明をしてもちゃんと説明しろって何度も言うじゃん。あっちゃんはさ、ただ認めたくないだけでしょ?」
「……!違いますよ!確かに、私の連れて来た子を却下された事は不服ですが、それとこれとでは話が違います。高橋紫が生徒会に相応しいと感じないから、納得できる説明が欲しいんです!それと、あっちゃん呼びはプライベートのみでお願いします。」
私の目の前でこの話をされるのは何度目だかわからないけれど、本当にやめて欲しいと毎度願ってる。
副生徒会長が思うような理由など絶対ないのに無駄な話を繰り返されるのは勘弁して欲しい。
私だって好きでここにいるわけでもないのに、怒鳴り声ばかり聞こえて楽しいものではない。
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