第2話少女をかう2

 1人でいる事は慣れているので、屋上で時間を潰す事は容易だった。

 体内時計で大体1時間ほど経った頃、屋上を出ることにした。

 無論、スペアキーで閉めるのを忘れずに。


「そう言えば、場所を聞いてなかったわね。」


 瞳と合流しようにも、どこで待ち合わせればいいか分からない。

 かと言って、こんな所にいるなんて瞳は思わないでしょう。

 なら……


「私が動くしかない……か。」


 不本意ではあるけれど、自分から動く事にした。

 この広い校舎を片っ端から探した。

 この学園は無駄に校舎が広いのは、古くからある由緒正しいお嬢様学園のイメージを保つためだ。

 お嬢様学校だからこそ、古臭さや貧乏臭さを出さない様にしている。

 

 だけど、私が思うに本当の古くからある由緒正しいお嬢様学園と言うのであれば、むしろこんな綺麗に清掃された学園とはかけ離れていると思う。

 なんたって、この学園が建てれられた頃は樋口一葉が現れる前だ。

 その頃は女性に対する勉学は不要だと謳われていた。


 詰まる所、この学園の今の状況は、金を持っている人間を大いに呼び込むために口八丁でまかせを言っているだけだ。

 そうして呼び込んで、金を蓄え、新たなものを取り入れていく。

 ある意味、ビジネスとして悪い考えではないと思う。

 金持ちは娘のためにとお金を出し、学園はその要望に応えているわけでもある。

 金だけ取って何もしてなければ問題だが、やる事はやってるんだ。

 余ったお金を懐に入れるぐらいなら問題ないだろう。


 それに、私みたいにこの学園の真相を知っているものは多いだろう。

 いや、金持ちであるなら、それなりの眼を持っているだろうし、気づかないわけがない。

 そんな人達が黙っていると言う事は、それなりに納得しているんだろう。


 そうこう考えていると、一つ目の建物を見終わる。

 これを後数回もとなると、少しばかり滅入りそうだ。


「……紫、さん?」


 校舎を移動していると、瞳と出会した。

 大人数を連れて、楽しそうに歩いていた。

 お茶会に行っていたはずなので、周りの生徒はみんなそこで出会った人達だろう。


 入学初日にして、ここまで差ができてしまうとは。

 持つ者と持たざる者の差は、こう言う風に現れるんでしょうね。


「皆さん、すみません。私は彼女との約束があるので、ここでお暇させてもらいますね。」

「もう少し話したいですが、それならしょうがないですね。」

「では、また明日。」

「ご機嫌様。」


 瞳は話をやめてこちらに向かって来る。

 その裏で、さっきまでの人達は私に向かって恨めしそうな目を向ける。

 私が何かをしたわけでもないのに、そんな目を向けられるなんて意味分かんない。


「紫さん、遅くなってすみません。」

「気にしてないわ。それよりも、早くいきましょう。」

「はい。」


 あの時みたいに勝手な言いがかりで憎まれると心底堪える。

 胸の締め付けが苦しい。

 そして、そんな苦しみを他人にぶつける事で発散してしまう自分が心底嫌いだ。


「あれは、私への当てつけかしら?」

「なんのことでしょうか?」

「自分には主人よりもたくさんのお友達がいますアピール?……本当、笑わせてくれるわ。」

「そんなつもりは…、それに、お茶会に出る様に言ったのは紫さんじゃ……」

「別に私は大勢の人間を連れて来いとは言ってないわよ。」

「そんなの…」


 分かってるわよ。

 ただの八つ当たりで、自分勝手だって。

 でも、誰かに当たってないと、この苦しみが晴れない。

 こんなに辛いのに、辛い思いをさせられて、まだ苦しめって?

 私が、私が……


「すみませんでした。」

「急に謝って何?」

「口答えをしてすみませんでした。」

「ふん。分かったのなら良いわ。」


 瞳が謝罪すれば終わる。

 これがいつもの事。

 私のこの怒りが始まって、最終的な終わりは瞳の謝罪。

 これが私たちの関係だ。

 悪いとは思ってる。

 けど、瞳が楽しそうにしているのを許せない。

 私以外の人間と楽しそうにしていると、嫉妬の炎が燃え盛ってしまう。


「寮へ案内しなさい。」

「……はい。」


 返事をしたあと、瞳が私の前に出て案内する。

 足取りは先程と一緒で、震える握り拳だけが私を苛立たせた。

 何か言いたければ言えばいい。

 どうせ、あいつらと一緒の事を言うでしょうけど、黙っていられられるのは苦しい。

 全部全部私が悪いのに、そうやって我慢されるのは悲しい。

 けど、私も口に出せない。

 余計なことを言いそうで、また八つ当たりをしそうで怖い。

 自分を制御できない自分が最低だと自己嫌悪しそうだ。


「こちらが寮になります。」


 瞳に案内されて、建物にたどり着く。新しい建物とは言えないけれど、校舎よりかは綺麗にされている。きっと、住んでいる人間からの苦情によるものだと思うけれど、それなら後者の方も綺麗にすればいいのにと思ってしまう。建物の中に入るとこれまたきれいに塗装された壁やフローリングに目を奪われる。外側よりも内側のほうがここまできれいだと、相当苦情があったのだと思える。


「あなたたち、見ない顔ね?新入生かしら?」


 少し体格の大きい女性が声を掛けてきた。どう見ても本校の生徒には見えず、寮を管理する側の人間であると思われる。


「私たち、今日から入寮する新入生です。」

「やっぱりね。私はここの管理人よ。今から案内してあげるわ。」


 管理人と名乗る女と瞳が言葉を交わして案内を受ける。その間私は寮の中を見渡していた。これから平穏に過ごしていく寮だからこそ、入り口付近にいる寮生の態度を入念に観察する。面倒事を起こしやすそな人がいれば近寄らないようにしないといけないし、騒ぐ人には顔を合わせないようにしなければならない。


「紫さん、部屋まで案内してくださるそうですよ。」

「聞こえてたわ。」


 管理人の後ろをついていく。部屋に着くまでの間、生活で必要になるような場所の説明を受けた。ただ、寮の案内資料には部屋にすべて完備していると書かれていたため使う事は無いと思う。それよりも、案内を受ける間、周りからの視線をどうにかしたい。やっぱりどこに行っても知られているようね。せっかく親から離れたっていうのに。


「ここが二人の部屋になるよ。本来2人部屋は使用しないんだけど、あんたらは特別にってことで話を聞いてるよ。」

「そ、そうでしたか。すみません。」


 瞳は目の前の女に頭を下げた。なぜそんな事をするのか意味が分からないけれど、その行為に対して腹が立った。なぜ頭を下げないといけないのかと。

 

「……聞いてる、ね。生徒のプライバシーはないのかしら?」

「怖い、怖い。その目はやめた方がいわよ。あと、全部を知ってるわけじゃないわ。特に、あなたたちに対して普通に接しないと注意しなさいと言われているんだから。」

「だからそれが気に以来と言っているのよ。」

「紫さん!」

「あんたは黙ってなさい。買われている分際で!」

「……はい。」


 頭が痛い。いから何か吐きそうだ。気分は最低で、この大人も気持ち悪く見える。何もかもを消してしまいたいと思うほど、どす黒い何かにまとわりつかれているみたいだ。

 

「怖いねえ。一先ず、ここで声を荒げないほうがいいわよ。」

「それは……!」

「私はあなたたちに過干渉をする気はない。それ自体はあなたも望んでるはずよ?だから、お互いにただの生徒と管理人の関係を貫きましょう。」

「今の私はここで何をしてもおかしくないわよ。」

「それは困る。私は後1年だからそれまでは静かにしてほしいわ。」


 大人の余裕。顔の表情からよくわかる。目の前の女は私を敵視していなければ、そこらの一般人を見ているかのようだ。だから、私も刃を鞘に納めた。


「1年間は何も無いようにしてあげるわ。」

「それは助かるよ。」

「ただ、他の人は知らないわよ。私はいつも被害者なんだから。」

「そうかい。……部屋はオートロックで開錠は生徒手帳をかざせば出来るから。荷物は部屋の中に届いてるはずだから、要確認しておきなさいよ。」


 その言葉を残して先生は行ってしまった。何を考えているのか分かり辛く、苦手なタイプだ。けれど、向こうからの敵意は感じなかった。味方ではないけれど、敵でもない、中立とは少し違った立場を貫くつもりだろう。

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