第11話 思考過多
実は休日が不定期の地味にブラックな相談部。
今日も今日とて、俺たちは部室に入り浸る。
「予約、きてます」
「ほんとっ!?」
茜は大はしゃぎで、箱を持った俺の前に寄ってきた。
「何件来てるの!?」
「えっと……一件だな」
「……一件かぁ」
「露骨にがっかりするなよ。まだ箱置いて初日だぞ。いきなり予約したやつの行動力を讃えてあげるべきだ」
「それに何件もこられても困るしね。予約された1日の間で悩みを解決できる保証なんてどこにもないから、実は予定を組みづらいんだよね。どんな悩みかにもよるけど、日を長くは開けられない悩みとかもあるだろうから」
「そっか、それもそうだよね。じゃあ早速見てみよう!」
相変わらず切り替えが早い。
茜はいそいそと箱の中身を確認していく。
「綺麗な字だ! 誰なんだろ。番号は000008……絶対これスマホのパスワードでしょ」
「判別できればなんでも良い。それで、予約日はどうなってる? 初の予約だから第一希望が堂々と通るけど」
「えっと……来週の月曜日だね」
「なるほど、その日は月島もいるな。後は誰が対応するかだ。どうだ?」
「えっとね! ……えっ」
楽しそうにしていた茜の顔が一気に青ざめた。
何事かと思い、慌てて俺も紙を確認する。
「……応対希望部員、茜と月島だ」
「えー!? 連人くんと九条さんだけってマズいんじゃ……」
現在茜は好き避けなる病にかかっているみたいだから、2人きりの状況はまずいと話したばかりなのに。
「ど……ど……どうしよう」
「これは流石にどうしようもない。部長ガンバ」
第二、第三希望も月曜日で、部員は全て茜と月島を指名している。部活動を優先する以上どう足掻いてもこれは無理だ。
「まあ完全に2人きりってわけでもないし、なんとかなるんじゃね」
「そんな投げやり……ひどい!」
「いやだって……無理だろ。予約断るなら話は別だけど」
「う〜……それは出来ない……」
「なら腹括るしかないな」
「頑張って、九条さん! 応援してる!」
「……はぁ……」
深いため息と同時に、茜はゆっくりと自分の席に戻っていく。
「……お腹痛くなってきた」
――
〜予約当日〜
「今日が初めての部活なんだけど……いきなり俺指名されてる感じ?」
心配そうな月島をガン無視して茜は俯き座っている。
部長が萎えてたらダメだろ……月島可哀想だな。
「何すればいいの? 相談部って言うからなんとなくは想像つくけど」
「相談しに来たやつの悩みを聞いて、出来る限り解決に努める。一言で言ったらこんな感じだな。マニュアルは何もない」
「結構難しいこと要求されてね?」
「多分月島ならなんとかなる。茜を助けてやってくれ」
「部活初日で部長助けるのかよ……先が思いやられるな」
まあ月島なら相談相手の件は大丈夫だろう、と思えてしまう。問題なのは茜の件なんだけど。
「そんじゃ、俺は帰るから。あとは頼んだ」
「私もお暇するね。九条さん頑張って!」
「……うん」
「あれ、俺は応援してくれねーの?」
「連人くんは言わなくても頑張るでしょ?」
「お、おう……ありがとな」
あー……これは仲がいいやつらの掛け合いだ。この2人はいつからの仲なんだろうか。
去り際、成瀬は小さな声で俺を呼び止めた。
「碓氷くん」
「……ん?」
「一緒に帰らない?」
――
あれ……? これはどういう状況だ?
「九条さん、大丈夫なのかな」
何を考えている?
いきなり誘われたけど、俺に向けて何か話すことでもあるのだろうか。例えば茜の愚痴とか。
「……何が目的だ?」
「えっ?」
会話のキャッチボールがオワってることには後から気づいた。
「いや、すまん。一緒に帰るとか言い出したから何かあると思って」
「あー、そういう……」
陽キャの成瀬には今の一部始終をどう感じたのだろうか。聞きたいけど聞きたくない。
「あるにはあるけど、ちょっとすぐには言いたくないかな……」
「なるほど?」
よくわからんけど、要は後で話すってことか。
「話は戻すんだけど、九条さん大丈夫かな?」
「知らね。もしかしたら、月島と話さざるを得ないから無理やり克服するかもな」
「すごい他人事みたいに言うね……」
「今回は介入出来ないからな」
茜も今日来るやつも、ツいてないな色々と。
「今日来る人ってどんな人なんだろ。あんまり深入りしちゃダメなのはわかってるけど、どうしても気になっちゃうんだよね〜」
「そうだな。そいつは俺も気がかりだ。怪しい所が何個もある」
「えっ、そうなの?」
そう、今回くる奴は明らかに怪しい。茜のこともあるし、もしかすると今日はカオスな相談になるかもな。
「注文が多かったんだよ、色々と。希望予定日が全部月曜日で確実に月島を狙ってるのがわかるし、毎回茜もセットにされてるから多分茜も狙われてる。謎だ」
「確かに、誰でもよかったら普通は指名なんてしないね。わざわざ指名してるってことは、何か2人に関係がある話なのかな。今日来る人は2人の共通の友人とかなのかも」
「そうかもな。でもなんとなくそれは違う気がする」
「どうして?」
「予約するまでが早すぎるし、記入事項もしっかりしてある。だから今日来る奴は割と深刻な悩みな気がするんだよ。もし2人の共通の友人が深刻な悩みを持っていたとしたら……わざわざ『相談部』なんて利用するか?」
「……私なら本人達に直接相談するかも」
「そう。だから共通の友人の線は薄い」
友人が遊び半分で予約をすることはあり得る。ただ、今回は遊びに見えないから除外される。
「うーん……なら、2人の共通の特徴で選んだのかもね。あの2人、すっごい美男美女だし、人気者だし」
カッコいい人や可愛い人、人気者に相談したいことがある……確かにそうとは考えられるか。いや……。
「今言ったのだと成瀬も当てはまるはずだ。なのに指名されてないのは違和感を感じる。他の共通点でも成瀬と被ってることが多いから、やっぱりどこか変なんだよな」
「えっ!? 美女!?」
「……いや待てよ。逆の発想もあるのか。『俺と成瀬を選びたくないから消去法で残りの2人を選んだ』って可能性も」
「あはは……完全に集中モードだ」
それとも今回くるやつは成瀬に詳しいやつなのか?
人気者といっても成瀬は少し勝手が違う。そこに気付いてるやつなら、『人気者』を基準に指名する部員を決めた場合、成瀬は除外するかもしれない。
……そういえば今なら訊けるな、このこと。
「なあ成瀬」
「は、はいっ!?」
なんかニヤニヤしてる……なんだこいつ。
ちょっとネジ外れてる系か?
「別に他意はないんだが……どうやって成瀬は周囲から人気を得たんだ?」
「えっ」
緩んだ口元が引き締まり、急にシリアスな雰囲気になった。もしかして地雷踏んだか……?
怒りそうだったらすぐ土下座しよう。
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