第10.5話 おまけトーク

 容赦なく碓氷くんを追い出した九条さん。私は気を使ったつもりだけど、あの2人の仲ならあれくらいは平気なんだろうな……良いなあ。


「それで何が聞きたいの?」


 九条さんはニヤニヤと話したそうにしてる。ちょっと聞きたいだけなんだけど、言っちゃいけないところまで漏洩しそう……大丈夫かな。

 

「私にはあんまり訊く権利がないと思うけど、山野さんとはどんな話で落ち着いたの? 片足を突っ込んじゃったから気になるの」

「席替えまでに連絡先を交換する! っていう目標を立てたよ。2人は委員が一緒だから、連絡先は聞いても自然でしょ? 話はそこからでって感じで昨日は終わったよ。菫ちゃんはまた近いうちに来ると思う」


 他人へのアドバイスとかはできるんだね。九条さん自身の時は思考停止してたのに。

 

「連絡先、いい考えだと思うよ。私が言うのもなんだけど、九条さん1人でもなんとかなりそうだね」

「あっ、あたしのことナメてたでしょ! こう見えてもちゃんと考えてるの!」

「ふふっ、ごめんなさい」

「……でも、花ちゃんもあたしが思ってたより抜けてるところあるよね」

「あら、そう?」

「だって昨日の慌てよう……あんなの好きな人がいますって言ってるようなものじゃん!」


 ……痛いところ突かれちゃった。変に嘘ついても拗れるだけだし、正直に答えようかな。

 

「……いるよ、好きな人」

「やっぱり!」

「だ、誰かまでは言わないけどね!」

「そこまではあたしも訊かないよ。言いたくないのにガンガン聞いたら嫌なやつじゃん」


 良い子だなあ。どんな人生を歩めばこんな純粋な性格になれるんだろう。

 

「ありがと。いつか話せる時が来たら話すね」

「うん!」


 ……でも私は、そんな九条さんも信用できていない。

 好きな人を打ち明けられないのはまさしくその証拠で。

 頭ではいい子だとわかっていても、体の奥底に植え付けられた呪いのような思考回路が邪魔をする。

 

 どうして信用できないんだろう。

 こんな性格になった原因をいつも考えてる。

 ソウルのせい? 自分のせい? 誰かのせい?

 考えても答えは出るわけなかった。性格が構築されていく過程なんて、一つの原因じゃ表せないから。

 でも、ターニングポイントはいくつかある。


 私が人を信用できなくなったのは……小学5年生の頃。

 

 こんな性格になる前の性格、そんなのはもう覚えてないけど、多分年相応で、少しは可愛げがあったと思う。


 父が失踪するまでは。


 元々貧しかった家庭に追い討ちをかけるかのように消えた父。今思えば煙草やギャンブルとか、元からそこまで尊敬できるような人ではなかったけど、それでも実の父親というのは特別な存在で、信用できる人といえばお母さんの次くらいには挙げられるほどだった。


 そんな父に裏切られた。


 おそらくだけど、人を信用できなくなったのはここから。最初は、心の中にあるやんわりとした形のないものだったけど、たった1人で必死に3人の子供を養ってくれるお母さんを見るにつれて、段々とそれは形ある歪なものになっていった。

 人は簡単に信用しちゃダメだ、って。

 結果的に、その歪んだ性格のせいでいじめられるんだけどね。


「……一応訊いておくけど流石に連人ではないよね? 違う誰かだよね? ね?」


 冷や汗混じりで九条さんは問い詰める。

 

「ガンガン訊いてくるね……でもその気持ちはすごくわかる。連人くんではないから安心していいよ」

「よかった……! 花ちゃんが連人のこと好きだったらどうしようかと思った……」

「…うん。やっぱりその気持ちすごくわかる」


 すごくわかる、のにな。

 少しずつでいいから、人を信用できるようになりたい。

 この気持ちは紛れもない本心。

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