第10話 違和感
「これでよしっと……!」
ただのダンボールだった箱をカラーテープでカラフルに色付けし、得意げな表情で
「何だよこれ……おもちゃじゃねえか」
予約用の箱にしては主張が激しい。
「細かいことは気にしないの! これで気軽に予約できるでしょ!」
「そうなのか……?」
「それで予約するための紙はどうなったの? 一希にお願いしたはずだけど」
「あー、作ってきたぞ。とりあえず30枚くらいでいいか?」
俺はバッグから葉書ほどのサイズの用紙を取り出した。
「記入事項は予約日を第3希望までと、対応してほしい部員、識別番号的なやつ、の3つでいいよな?」
予約日は他の人と被った時のために第3希望まで記入できるようにしている。対応してほしい部員に関しては、紙に部員の名前を全員分書いておき、当てはまる部員にチェックを入れていく形だ。何もチェックが無ければ誰でもいいことになっている。最後の識別番号は本人が予約日を把握するためのもので、好きな数字の羅列を記入するよう説明書きをしておいた。
「多分大丈夫! だと思う!」
「多分て……」
まあいいか。予約の対応は俺と
「カレンダーは私が持ってきたよ。家にあった使ってないやつだけど」
「ナイス
「これで、とりあえず部としての体制は完成か?」
「今のところはこれでオッケーだと思う!」
「あとは何か気になることがあれば逐一相談って感じでいいかな」
「そーだね!」
この部活、思ったより本格的なシステムになったな。予約とかもできるし、他の部と比べて少し異質な存在だ。
「クラスのみんなや友達に宣伝しておいたし、意外と人が集まることになるかもね」
「そうなるといいね!」
茜、成瀬、
「でも流石に宣伝初日には来ないかな。予約が無ければ飛び入りでも対応できるけど、みんなには予約制って強く言っちゃったから」
「そーだよね……」
「じゃあ今日は何するんだ? なんか前もこの質問した気がするけど」
「トランプはやだ」
……相当昨日の件で堪えたみたいだな。
「じゃあ俺から茜に質問があるんだけど」
「なになに?」
「聞くの忘れてたけど、何で勉強会に俺を誘ったんだ? せっかく月島と2人きりで話せたかもしれないのに」
「えっとそれは……話せないんだよね」
「へ?」
話せない? また俺に何も教えてくれないのか……。
「理由が言えないんじゃなくてね、最近
「そ、そういうことか」
よかった……。
「よくあるやつだね。好き避けに近い症状かな」
「対処法とかないのかな……?」
「好き避けって、相手を意識しすぎちゃって反射的に起こることなんだよね。意識せずに自然にならないといけないんだけど……ないかも、対処法」
「そんなぁ〜……」
「こればっかりは慣れるしかないんだよね……言うなれば、時間が対処法かな」
ラブコメとかでもよくあるやつか。漫画のヒロインたちは何かしらの壁を乗り越えて克服してるイメージがある。
現実的な治療法は時間経過なのか。
「なるほどな、納得した。ならその好き避けってやつが治るまでは茜と月島を2人きりにさせないようにするよ」
「そうしてくれると助かるよ……」
まだまだ先は長くなりそうだな。
「ねえ
山野や俺に気を使ってか、成瀬は小声でそう言った。ギリ聞こえたけど。
「いいよ! じゃあ
小声の意味なかったな。
「さいなら」
「ご、ごめん
――
さて、今回は割と冷静な俺。家に着くまでの間考え事をしよう。
数日を部室で過ごして感じたことがある。
成瀬の存在がかなり気がかりだ。
あいつが『人気者』なのはここ数日観察してみて何となくわかった。だが茜や月島のような人気者と決定的に違う部分がある。
裏表があることだ。
成瀬はたまにソウルが黒く濁る時がある。
例えば部活動の件。月島がすでにサッカー部へ入ってたことに対して、成瀬は『見落としていた』と言ったが、あれは嘘だった。茜がいる手前スルーせざるを得なかったが、あの時思いっきりソウルが黒く濁るのを確認できた。
何を企んでいる?
トランプをした時もそうだ。成瀬はかなり強かった。
もちろん、裏表がなくても強い奴はいるかもしれないがあいつはおそらく違う。
ババ抜きの駆け引きが俺の思考と酷似していた。俺だったらここを引く、というところをドンピシャで引いてくることもしばしば。おかげで逆にちょっと戦いやすかったんだけど。
裏表のある俺と似ているのだから、疑わざるを得ない。
この世界で周囲からの評価が高くなるのは、裏表がなく、嘘をつかず、尚且つ素の性格が良い人間だ。
成瀬は裏表があるのに何故か周囲からの評価が高い、この世界の常識から外れた異質な存在。
どうやって人気を得た?
……とまあ散々考えたが、裏表があると言っても俺たちに敵意があるわけではないとは思っている。茜の恋愛を助けたいという気持ちは嘘じゃないのがソウルを見てわかった。
それでも、謎が多い存在は警戒しておくに越したことはない。
……こんなことを考えてる俺こそどうかとは思うけどな。
茜のためだ、仕方ない。
いずれ本人に聞いてみよう。
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