第9話 駆け引き
「男がいなくなったところで、本題に入ろうか!」
どんな悩みかわからなかったからすごい緊張してたけど……うふっ!
まさか恋の悩みだなんてね!
「はい、よろしくお願いします」
それにしても、
理由が理由だけになんで追い出したか説明もしちゃダメだし、きっと今頃半泣きで帰ってるなー……。意外と泣き虫だから。
「簡潔に言ったら、私は、その……同じクラスに気になる人がいて……でもどうやって距離を縮めたらいいか分からなくて悩んでるんです」
「おぉー、まさに恋の始まり! ワクワクしてきたな〜!」
少し頬を赤く染める菫ちゃん。
恥ずかしがってるんだ……わかる〜!
「じゃあ、その人のことについてもう少し教えてくれるかな」
「はい。彼の名前は
「最上……」
「最上最上……あー思い出した! おっきい人だ! 中学校の頃も目立ってたから覚えてる。180cmはあるよねっ」
金髪で初めて見た時はすごい怖かった。
でも菫ちゃんが言うなら、良い人なんだろうなー。
「はい、多分その人です」
「……今の所、
花ちゃんは的確そうな質問をしてる。
「一応ですけど、図書委員の仕事を一緒にしてます。あと席が近いです」
「席が近いのは結構大きいね。席替えで近くなったの?」
「前からそんなに遠くはなかったんですが、中間テストの後に席替えをしてそれで隣に……」
「よかったね。でも、ゆったりしてちゃダメだよ。1ヶ月周期くらいで席替えはされるから、このチャンスを逃さないようにしないと」
「はい……気を引き締めます」
なんだか難しい事を話してるなー…よし! ここは思い切って聞いちゃおう!
「ねーねー! なんで菫ちゃんは最上くんのことを好きになったの!?」
「えぇー!? は、恥ずかしいです…。」
頬に手を当て照れる菫ちゃん。
可愛い……!
「そこを何とか! 菫ちゃんが言ったらあたしも話すよ!」
「ほ、本当ですか?」
「ホントだよ! ソウル見てもいいよ!」
「ソウルなんて……そこまでしなくても大丈夫ですよ。でも、私はあんまり言いたくないです。
「……えぇ!?」
花ちゃんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。
動揺してるってことは、もしかして……!?
「なら花ちゃんも言っちゃおうよ! この際だしさ。私も知りたいし!」
これは押してみるしかない!
「いや……」
追い詰められた花ちゃんはしばらく沈黙した後、鞄を持って勢いよく扉を開けていった。
「そ……それだけは無理ーーー!」
あまりにあからさまな態度に、あたしたちも思わず唖然としちゃう。
「嘘……! あの反応……もしかして花ちゃん、好きな人いるのかな……!?」
「絶対いますよ! まさかあんなに賢そうな成瀬さんがこうもわかりやすく動揺するなんて……」
「だよね、わかりやすかったよね!? 恋は盲目ってやつかな……!」
「それとはちょっと違う気がしますけど……」
「結局、部員1人になっちゃった。しょうがないね! じゃあ菫ちゃん! 恋バナしよ!」
こうして、あたしたちは2人きりで思いっきり恋バナを楽しんだ。
――
〜翌日〜
「というわけで、菫ちゃんの件は解決とまではいかないけど、アドバイスとかは色々したからとりあえずは大丈夫です! また来たら私が対応するね!」
「
「いいよいいよ! ていうかそもそも無理やり聞こうとした私が全部悪いし」
「なんの話だ?」
一希が興味津々で聞いてくる。
でも言えないんだよね……心苦しいけど。
「秘密事項で!」
「……まあそれはそうと、やっておくべきことがあると思ったんだが」
「なにー?」
「昨日みたく俺たちの中の誰かが居ると都合が悪い時って、これからもよくあると思うんだよ。だからそういう人が困らないように何か対策すべきじゃないか?」
昨日自分が追い出されたのに一希は優しいなあ。
「そうだね! でもどうやって対策しよう?」
「目安箱みたいなのを作ればいいんじゃないかな。匿名で紙に行きたい日付と話したい部員を書いて、そこに入れてもらうの。そうすれば昨日のようにはならないだろうし、プライバシーも守られるよね」
「なるほど、予約制にするってことか。ただその場合、同じ日付の予約が入ってしまったら匿名だから面倒臭いことになるな」
「あっ確かに……そうだなー、紙に番号とか書いてもらったらどうかな? それで部室の入り口にカレンダーでも置いて、予約が入ってる日付にその番号を書いておけばなんとかなる……かな。ちょっと大変だけど」
「それいいな」
全然ついていけてないけどなんか凄そう…。
「よくわかんないけど、箱と紙とカレンダーを用意すれば良いんだね!」
「そういうことだな」
やっぱり2人とも頼りになるな〜!
花ちゃんはバレちゃった形でだけど、ともかく2人に相談してよかった……。
「じゃあそれは後日用意するとして、今は何をするんだ? また作戦会議でもするか?」
「作戦会議って言っても花ちゃんありきだけどね……」
「……そうだな」
「うーん……私としては現状維持でいいと思うな」
「そうなの?」
「急に距離を詰めすぎてもよくないしね。
ホントにそうなのかな。あたしはもっとグイグイ行くのがいいかなと思ったんだけど。
「なるほど……一希はどう思う?」
「そこら辺の駆け引きはマジでわかんねーよ……」
「だったら、
「俺? 俺か……」
「一希も一目惚れするタイプじゃなさそうだし、意外と参考になるかもね!」
「俺だったら……急に来られても困るな。恋愛はいまいち分からんけど、人間関係に当てはめたらそうなる。回数を重ねないと人間性を判断できないし、急に来られるとむしろ少し引くかもしれない」
花ちゃんは何故かニヤニヤと口元を緩ませてる。
やっぱりちょっと変だ……!
「じゃあ現状維持が今1番いい行動なのかな?」
「少なくとも私はそう思うね」
「……だったら結局、今は何をする時間なんだ?」
「……どうしよ」
何しよう。雑談ならいくらでもできるけど、他に何かないのかな。
「トランプでもする? 私も一応何か部室に置いておくものをと思って持ってきたんだけど」
「ほんとっ!? やろやろ!」
トランプ! 昔はよくやってたな〜。今じゃみんなスマホばっかで、トランプも楽しいはずなのに全然遊んでないや。
「……
「えっ、何が?」
「多分このメンツでお前が勝つことはない。どのトランプゲームでもな」
「むっ、バカにしてるね? あたしが本気出したらすごいんだから!」
とは言ったものの、一希強いんだよね……。花ちゃんも絶対強いし……。
そうだ! みんなに内緒でこっそりソウルを見ちゃお!
花ちゃんから聞いたけど、ソウルは嘘をついたら黒く濁るらしい。だから騙し合いとかの駆け引きは、ソウルが見れたら通じなくなる!
そうすればあたしでもきっと勝てる……!
「みんな! ソウルは見ちゃダメだからね!」
あたしだけ見れるように釘刺しておこう!
「別にいいけど」
「私も構わないよ。そっちの方が戦略性出るからね」
やったっ!
「よしっ! じゃあ最初のゲームは……ババ抜き!」
――
「なんで……?」
10回くらいやってるのに……一回も勝てない。
ババ抜きなんてほとんど運のはずなのに。10回もやったら少しくらい勝ててもいいんじゃないの……?
運が悪いのかな。
「5:5か、成瀬つえーな。何考えてるか全然わからねー」
「碓氷くんも強いよ。私結構ババ抜き得意なのに」
ソウルを見てもお互い黄色なだけで黒く濁らないし、全く使い物にならなかった。感情が全くブレてないってこと……?
「お、おかしい……!」
「ん?」
「イカサマっ! これはイカサマだよ!」
絶対何か隠してる! だっておかしいもん!
「えぇ……」
「九条さんはなんで自分が負けたか、考えてみた?」
「えっ?」
なんで負けたか? なんでだろ。
「わかんない……」
「顔だろどう考えても」
「え……?」
「わかりやすすぎるんだよ、茜の顔。引かれたくないカードが筒抜けだ」
「九条さんはババ抜きがそもそも成立してないね」
「そ、そんなに……?」
あたしって顔に出やすいの?
「ババ抜きは運の要素が強いけど、勝つ確率を上げることは出来る。トランプを一枚だけ上げたり、相手が引きやすい位置にジョーカーを置いておくとかな」
「それくらいあたしもやってるよ!」
「今のは顔でバレない時に有効な戦略だけどな」
「じゃ、じゃあ」
「茜がやっても意味ないぞ」
「ええ〜!?」
じゃあどうすればいいの……?
「九条さんはまず顔に出ないように練習するところからだね」
「そうなんだ……」
何だかすごい自信を無くしちゃった。昔はそんなに弱くなかった気がするのに。
体と頭は成長してるはずなのに、トランプは弱くなってるなんて……。
「トランプ嫌い」
「まあこうなるわな」
「元気出してよ九条さん。実を言うと、私もイカサマに近いことはしてたし」
「……え?」
「マジか」
一希は面白いものを見るような目で成瀬さんの話を聞いてる。何でそんなに楽しめるんだろ……ううん違う。10連敗してるあたしが楽しめてないだけだきっと……。
「トランプを配る時、毎回私が配ってたでしょ?」
確かに花ちゃんが率先してシャッフルもしてくれてた。優しいな〜なんて思ってたけど……。
「まさか、自分だけペアがいっぱい揃うように調整してたり……?」
「そんなことしないよ。配る順番を調整しただけ」
「ど、どういうこと?」
「私、碓氷くん、九条さんの順番で配ってたよね? そうすると、配り終わった時の枚数はそれぞれ18枚、18枚、17枚になるの」
「えっ、あたしだけ1枚少ない……!? それなのにあたしは負けたの……?」
元気でないよ……むしろどんどん重くなっちゃう。
「そうじゃなくて。その後私が碓氷くんから一枚引いて、次に九条さんが私から一枚引く。最後に碓氷くんが九条さんから引いて、それの繰り返し。そんな感じで進んでいったでしょ?」
「うん。時計回りに……」
「……うわマジか。俺と茜不利じゃん」
えっ、えっ?
全くわかんない。
「問題なのは、カードを引く時の手札の枚数。あたしだけ、常に偶数枚でカードを引けるんだよね」
「それがどうなるの?」
「そのまま終盤になると、あと一回ペアが揃ったらあがり……つまりリーチの状態になるでしょ。その状態の手札の枚数は、私が2枚で残りの2人は1枚になるの」
「あと一回ペアが揃えば勝ち。そのペアは俺たちは手札が1枚だから、当てはまる数字は1つしかない。その点成瀬は手札が2枚あるから2つの数字が当てはまる。単純に考えて上がれる確率が2倍だ」
「えっ……!」
そ、そんなことが起こってたの……?
レベルが……高すぎる。
「九条さんと碓氷くんは不利だったんだよ。だから落ち込まないで!」
「もう落ち込むとか考えてないよ……なんか、レベルの差を感じたから」
「確かに遊びにしてはガチだな成瀬」
「せっかくやるなら勝ちたいからね」
「……いいね、その精神」
「……」
トランプは当分いいや。
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