第8話 追放
嘘だろ……
誰も何も言わないから、てっきり月島は無所属なのかと思っていた。
なんで
……いや、これは責任を押し付けているだけだな。ちゃんと月島の部活に関して2人に確認をしなかった俺にも責任があるし、そもそも自分の力ですぐに知ることができた情報のはずだ。
「えーっと……じゃ、じゃあ俺用事あるから帰るわ!」
ものすごく気まずそうに月島は去っていった。ソウルが黒く濁ったのが見えたけど、流石にこの空気では仕方がない。
「ど……どうしよう」
茜は今にも倒れそうなくらいに青ざめている。
「ごめんなさい……私、肝心なところ見逃しちゃってた」
「
本当になぜなのだろうか。成瀬の意見が完璧っぽく聞こえてしまったのが1番の要因か。俺と茜は恋愛の話には疎いからな。あまり口出しできる雰囲気じゃなかった。
「……兼部とかは出来ないのか?」
「
「助かる」
まあ兼部が出来るならギリギリ耐えだな。少しミスはあったが、茜が月島と会う機会は増やせるはずだ。
「どうしよう…やっぱりツンデレになるしか」
「待て待て待て待て。もし兼部してくれたなら問題ないじゃねーか。まだ慌てる時間じゃない」
「そう……?」
「せっかく部活作っちゃったんだし、今後は部活をしながら新しい作戦でも考えようよ」
「成瀬の言う通りだ」
元からそういう目的でもあったし、部活はこのままでいい。
それに……どうせこんな所へ相談しに来る奴は中々いない。この部の名前『相談部』とか適当すぎるだろ。しかもまだ部として認められてないから『相談同好会』でよくわからんことになってるし。
「誰も来ない時にでもじっくり考えればいい」
――
翌日、結局月島は兼部をしてくれることになった。と言っても、来てくれるのは基本的にサッカー部が休みの月曜日だけ。まあ、あんまり会いすぎても作戦を立てる時間がないし、悪くはないんじゃないだろうか。
「この部屋、何にもないね。部のコンセプト的に、来てくれた人がリラックスできる何かが欲しい気がするけど……」
「お茶とかを作れるようにしたらどうかな? とりあえず来てくれた人に出せるし、私たちも飲めるし」
流石に部活動の方を疎かにすることは出来ないということで、自分達や相談する人のためにも過ごしやすい環境を作ることになった。
「そういうと思って、家からお茶とか色々作れるやつ持ってきた。ポットとか茶葉とか」
「えっ!
「俺が買ったわけじゃないけど、一応な。もう使わない古い方持ってきた」
実は昨日家中を必死に探した。少しずつでも俺の存在をアピールしていかないといけないからな。
「すごいじゃん一希! ありがたく使わせてもらうね!」
「おう」
よしよし。頼りにされてるな……!
「ていうかさ! 思ったんだけど部室を良くする前に、そもそもここに人って来るの? なんとなくで相談部なんて作っちゃったけど」
「もっと大々的に宣伝しないとダメかもね……現状この部活ができたことすら知らない人でいっぱいじゃないかな」
「別に人が来なくても良いんじゃないか? そっちの目的で作ったわけじゃないだろ」
「せっかく作ったんだし、ちゃんと活動したいよ! 悩みがある人の支えになりたいのも本当だし!」
いい奴すぎるだろ。
「それじゃあ、クラスのホームルームの時にでも話す? 新しく部活できましたって」
「いいね! そうしよっ!」
茜と成瀬がそれやったら確実に来るだろ。俺を除いたらメンツは最強なんだから誰かしらは釣れるはずだ。
「じゃあ、明日のホームルームに……」
その時、入口の扉がコンコン、と音を立てた。扉越しに弱々しい声も聞こえてくる。
「す、すいません……ここ、悩みを相談できるって本当ですか……?」
嘘だろ。初日で誰も宣伝してないのになんか来た。
「えっ、嘘……! 来ちゃったよ一希、花ちゃん……!」
小さいのに元気がある、そんな声で茜は喋った。
「とりあえず対応するしかねえだろ……」
「わ、わかった……! は、はい! どうぞお入りください!」
ぎこちない返事をすると同時に、ゆっくりと扉が開く。声でわかってはいたが、女子だ。メガネをかけており、なんだか根暗な雰囲気を感じる。
「こ、こんにちは……」
「よ、ようこそ! 相談部へ!」
辿々しい挨拶を交わす2人。
茜は「とりあえずここに!」と、自分の隣にある椅子へ手を向けた。
「ありがとうございます……すいません、緊張しちゃって」
「全然全然! 気になることあったらなんでも言って!」
座った女子生徒は深呼吸をして落ち着きを取り戻す。
「ふー……」
「まずは自己紹介からかな! あたし、1年B組の
ずっとタメ口でいってるけど、もし先輩だったら茜はどうするつもりなんだろうか。
「私もB組の成瀬花。確かC組の
「あ……はいっ、山野菫です」
「えっ!? 2人って知り合い!?」
「話したのは初めてかな。同じ学年だから名前は覚えてるけど」
なんだそれ……話してもないのに覚えたって意味ないだろ。
記憶力がいいのか、それとも相当な努力をしているのか……なんとなく後者だろうな。
「あたし知らなかった……ごめんね、山野さん……」
「いえいえそんな……私だって全員はわからないですよ」
普通の人間は何割くらい同学年の生徒を覚えているのだろうか。俺は1割に満たない。
「山野さんは、どうして相談部に来ようと思ったのー?」
「えっと……1週間くらい前に廊下で皆さんの話を聞いちゃって」
「え……! ど、どんな話?」
「聞こえたのは、生徒の悩みを相談できる部活を作ろう、という内容だけですね」
「な、なーんだ……ほっ」
目に見えて安堵した表情になっている茜。こんなんだからどんどん秘密が漏れていくのか。
「それで、校内を見て回ったらこの部屋に辿り着きました。扉に貼ってある紙にも相談部と書かれてあったので、それで思い切って今ここに……」
「あっ、あたしが描いたやつ見てくれたんだね!」
山野も茜も、完全に談笑モードになってしまっている。
俺、自己紹介まだなんだけどな……。
空気だし、どうせ覚えられないし、もういっか……。
「あの……それで悩みなんですけど」
「うん! あたしたちに出来ることならなんでもするよ!」
「えっと……その……」
山野はうまく口を動かせずにモゴモゴしている。
相当重い悩みなのか、はたまたコミュ力が低いだけなのか……。
第一印象というのは重要なものだな。山野がもっと明るい性格だったら後者の発想は出てこなかった。
「ゆっくりでいいんだよ? 山野さん」
「そうそう! 話せるタイミングでいいから!」
「す、すいません。そんなに重い悩みってわけではないんです……」
「そうなの?」
「あの、ちょっと耳を……」
隣にいた茜は耳を傾ける。
「ふむ……ふむふむ……あっ」
突然くるりとこちらの方へ視線を移した。あまりに急だったので心臓がどきりとする。
「な、何だ?」
「一希、追放ね」
「は?」
――
唐突に部室を追い出された。
「なんで……?」
泣きそう。やっぱり俺の必要性……0?
「……帰ろ」
何故追い出されたか。その理由を考察できるほど今の俺は冷静じゃなかった。
半泣きで、惨めに帰ることしか出来ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます