第7話 修羅場(成瀬花視点)
〜数日後〜
「やったよ、
「本当? よかったね」
普段からずっとこんなテンションだけど、よくそんなに元気が続くなー。
「それと、今日の放課後にやる勉強会は、部室でやろうと思うの!
「部室も決まったんだ。なら今日からもう活動はできるの?」
「うん! 最初の部員はあたしと
「連人くんにはもう伝えたの?」
「今日の勉強会の時に言おうと思う!」
「そうなんだ」
私は知ってる。連人くんがすでにサッカー部に入っていることを。
九条さんには申し訳ないけど、今回は
――
〜1週間前〜
「うーん……」
机に突っ伏して、何やら項垂れる九条さんが見える。
「九条さん、どうしたの?」
「わっ、花ちゃん! いやぁちょっとね……なんでもないよ!」
「なんでもないって……そんなことないでしょ。悩みあるなら聞くよ?」
「ダメダメダメ! こればっかりは言えないよ!」
「……九条さんが大丈夫なら別に聞かないけど」
「全然平気! 軽い考え事してただけだよ!」
「ふぅん……」
怪しい……絶対何か隠してる。いや、隠せてない。
ソウルを見れば分かるから。
九条さんのソウルは、ピンク色。それを隠すかのように黒い濁りが少しだけ発生している。黒いのは『なんでもない』が嘘だからかな。
そして何より……ソウルの形がハート型になってる!
好きな人への想いが溢れすぎると、こうやってソウルの形にまで影響を及ぼし始めるんだよね。
だからこれは確定! 九条さんは間違いなく恋してる!
……大丈夫かな。
「……碓氷くんが好きなの?」
「ブッッ! 一希は別に好きじゃないよ! 変なこと言わないでよ花ちゃん〜!」
「あら、そうなの?」
よかった……! 九条さんが碓氷くんのことを好きだったらどうしようかと思った……。
そうとわかればもう怖くない!
ちょっと意地悪しちゃお。
「一希『は』好きじゃない……なら他に誰かいるの? 例えば連人くんとか。あの二人よく話してるし」
「ブッッッ! 違うって! 好きな人なんていないよ!」
連人くんなんだね……思いっきりソウルが黒く濁ったし、顔に書いてある。
「九条さんって顔に出やすいよね。へぇ、なるほど……連人くんかぁ……」
「〜〜〜!! 誰…にも…言わないで……!」
九条さんは顔を真っ赤にして少し涙目になった。
ちょっと言いすぎちゃったかな?
「そんなことしないって! 手伝ってあげよっか? 距離縮めるの」
「ほんと!? ありがと花ちゃん! 助かる〜!」
お手本のような手のひら返しを見せる九条さん。
「応援したいからね」
やったっ!
これを機に私も碓氷くんと距離を縮めて見せる!
もちろん九条さんも応援する! ……ついでにだけど。
――
「どうしたの? ニヤニヤして」
「あっ、ごめんなさい」
「花ちゃんって、ちょっとおかしな時あるよね!」
「そ、そう?」
「面白くて私は好きだけど!」
そんなにおかしいかな……一応ソウル見ちゃお。
……濁りがない黄色。本当におかしいと思ってるんだ。
それにやっぱり、九条さんは連人くんと一緒で裏表がない。
すごいよ。私には到底真似できない。
「授業だからそろそろ席戻るね! じゃっ!」
「うん、またね」
私はソウルを見てからじゃないと人を信用できない。
信用している人しか信用しない。
それ以外の人はどんな発言も疑ってかかってる。
たとえわかりきった事実を言われたとしても……ソウルを見てしまうと思う。
人を信用するのが怖い。
ソウルが存在しなかったら、もう少し前向きになれたのかな。
見えちゃうなら、見ればいい。
見えちゃうなら、仕方ない。
そんな言葉を頭に言い聞かせて、ソウルに甘えて、私は生きてる。
――
「こんな場所よく借りられたなー!」
「先生がいいよって!」
放課後の部室。
まだ机と椅子しかないみたいだけど、勉強をやるにはちょうどいい環境。
楽しそうに話す2人を脇目にこっそり私は碓氷くんの隣に座る。椅子は机を境に2脚ずつ置いてあるから、私と碓氷くんが隣になれば必然的に残りの2人は隣り合わせになる。
「サンキュー」
碓氷くんは私にだけ聞こえる声でそう言った。
私の読みは当たってた。九条さんが連人くんの隣になれるように、私が自分の隣へ座ってきたと碓氷くんは思ってる。
本当は碓氷くんの隣に座りたいだけなんだけどね。
「それじゃ、何から始める?」
連人くんは私と向かい合う位置にある椅子へと座った。
「数学でいいんじゃないか? 暗記科目は茜でも時間さえかければなんとかなるし」
「失礼だね!」
「数学もある程度は解法覚えていくしかないけどなー。ま、根本を理解するところから始めるか!」
――
勉強会は滞りなく進んでいく。
ソウルはみんな、濁りのない黄色で楽しんでいるのがよくわかる。
「なるほど! 先にこの部分を新しい文字に置き換えると解きやすくなるんだね!」
「そうそう。ゴリ押しでも解けなくはないけどこっちの方が時短になる」
九条さんは飲み込みが早い。まだ難しいところをやってるわけではないけど、授業のスピードより何倍も早く理解してる。
「俺やることねえな……」
碓氷くんは退屈そうに言った。実際、九条さんに勉強を教えているのは連人くんが8割で残りは私。碓氷くんは何もせず九条さんの勉強を見てるだけだから、自然に出たセリフのようにも聞こえる。
でもソウルは黄色。本当は楽しんでるんだ。可愛い。
「碓氷くんも勉強したら?」
「いや、俺はいいかな。まだテスト遠いし」
碓氷くんは地頭がすごい。確か中間の順位は7位……普段から碓氷くんのことは観察してるけど、成績上位者相応の勉強量では絶対にない。
「すごいね。私なんてどれだけ勉強してもし足りないのに」
「努力できる人間の方が将来役立つもんだぞ。俺にはできない」
「そうかな?」
確かに碓氷くんが何か努力をしてるのは見たことがない。
「疲れた〜……」
「すげーな九条! 今日だけで半分以上は完璧になってる!」
どうやら勉強はひと段落ついたみたい。そろそろあの話題が切り出される……かな。
「今日は終わりにするかー!」
「そうだね!」
九条さんはチラリと碓氷くんの方を見た。碓氷くんは首を縦に振り合図を送る。
「ねえ連人!」
「ん、どうしたー?」
「実はここ、あたし達が作った部活の部室なの!」
「えっ、マジ!?」
「それでねっ、連人にも部活に入って欲しいの! お願い!」
「あー……すまん、俺もうサッカー部入ってるんだけど……」
「えっ」
「え」
重い空気が場に流れる。九条さんのソウルがじわじわと黄色から、恐怖を表す深緑色へと変わっていくのが見える。
……重すぎてちょっと耐えられそうにない。自分で蒔いた種なんだけど。
でも、多分連人くんは兼部をしてくれる。二人は背筋が凍るような思いをしたと思うけど、最悪のケースにはならないと思う。
ここは知らなかったふりをして場を凌ごう。
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