第6話 ピンチ
昼休みのチャイムが鳴ってすぐ、俺はまっすぐと
「なあ月島」
「ん? どうしたー?」
月島は少し物珍しそうにこちらを見つめてくる。
俺から話しかけるのは初めてだからか。
「昼飯、一緒に食べないか?」
今度は驚いたような表情で。
「お、おぉ……いいけど」
――
教室だとこいつ目立つから、どこか人気の少ないところがいいな。
友達と一緒に昼食を食べる場所といえば……屋上!
……は閉まってるから屋上に続く扉の手前。いい感じのスペースがある。
「ここにしよう」
「よし、食うか!」
月島は自前の弁当袋から大きめの弁当箱を取り出した。
「弁当なんだな」
「あぁ、親が作ってくれるんだ」
なるほど。所謂親ガチャもあたり、と。スペックが高い人間にもどこかしらで劣る部分はあるという説を俺は唱えているが……そんなことないかもしれない。
「いいな。俺は適当にコンビニで買ってる」
「いいな〜! 何食べるか自分で決めれるの楽しそう。もちろん親には感謝してるけど、あんまりそういうのやったことないからさ」
「隣の芝生は青いってやつだな」
軽く談笑を交わしながらお互いの食事を進める。アニメトーク以外のことで月島と話したのは初めてかもしれない。いや、初めてだ。
――
昼食をとり始めて数分、いい感じに砕けてきたのでそろそろ本題に入るとしよう。
「なあ月島……聞きたいことがあるんだけど」
「なんだー?」
「……驚くかもしれないけど」
「ふむ」
「月島の好きなタイプって何?」
嘘をついても意味がないので直球に聞いた。
月島はきょとんとした表情になるが、やがてその顔は崩れ満面の笑顔で笑い転げる。
「はっはっは! 何言い出すかと思ったら、そんなキャラだっけ、
笑いをとるつもりはなかったが、どうやら月島にはウケたみたいだ。ギャップというやつだろうか。
「わかった教えてやるよ! と、その前に理由を聞かせてもらおうか」
……まずい。本当のことを言えるわけがない。
嘘をつくしかない。
「失恋から立ち直った。彼女を作るにあたってモテるやつの意見が聞きたい」
「……本当かー?」
月島は俺の目をじっと見つめている。目線が顔の隣にいけばソウルを見ているのが確定するのだが、そんなそぶりは一切見えない。
「本当だって」
とりあえず嘘を貫き通した。一回も二回も大して変わらないし。
「……そっか! なら本当だな! 疑ってすまん!」
どんな基準かわからないが、どうやら疑いは晴れたようだ。結局月島は、ソウルを見ることはなかった。もしかしてソウルの存在を知らないのか?
とにかく、これで『俺にしかできない』仕事を達成できる……!
「言うぜ!? 俺の好きなタイプは……短髪で、普段はちょっと強気なんだけどたまに見せてくれる優しさがその子の本心! みたいな子!」
……ん?
「思ったより具体的なんだな」
なんだろうこの違和感は。
「もし現実にこんな子がいたら一生推せる!」
……あぁ。
「まさか……アニメキャラのタイプか?」
「え? そうじゃないの? 一希は普段この手のアニメあんまり見ないの知ってたから、意外だなって思ってたんだけど」
「いや、失恋って言ったよな……あと彼女作るって……どうやって2次元の話と勘違いしたんだ」
「推しが作中で主人公か誰かと付き合っちゃったんだろ? 俺にも嫁は沢山いるけど、まずは彼女からだよな」
「オワってんな」
常識がバグってる。
なんでこんなやつがコミュ力高いんだよ。
「逆にどう言う質問だったんだ?」
「全くもって逆じゃないと思うけど、リアルの話だよ」
「……へ!? そっち!?」
そっち、じゃねえだろ。もしやこのレベルの勘違いをされる俺のキャラが悪いのか……?
「現実の女子はあんまり考えたことねーなー」
「でも月島、相当モテるだろ。告白とかもいっぱいされてんだろ?」
「全然だって……」
「は?」
そんなわけない。謙虚も行きすぎると嫌味になるぞ。
「興味を持ってくれる人が多いのは……なんとなく分かる。でももし本気だったら、俺のことをもっと知ろうとするだろ? それで知ったのが『この』俺。多分ここで幻滅するんだろうなー」
「あっ……」
悲しいかな、かなりの説得力がある。普段みんなの前ではアニメの話をしていない分この惨状を見て絶望した女子はかなりの数に上るんじゃないだろうか。
「現実で告白もないわけじゃないけど、みんなどことなくチャラいと言うか軽くて、あんまりピンとこないのが多いかな」
「それは普通にずるい」
「結局は気持ちの問題だな。実際に本気で告白されたら……それはわかんない」
「まぁ、それもそうか」
分かったのは面食いではない、くらいか。
どうしよう。
「ワリーな、参考にならなくて。現実の恋愛はD組の
ようすけ。多分月島が言っているのは、
「知り合いじゃないから何ともなぁ」
月島以外に聞く意味はないから二見はどうでもいい。
「そっかー」
「今日のところはこれでいいよ。付き合ってくれてありがとう」
「おう! また何かあったら相談してくれよ!」
「分かった」
――
「ねぇ!
放課後の帰り道。
どうしましょうか。
「一応聞いてきた。好きなタイプ」
「ほんと!? 聞かせて聞かせて!」
……もういいや。
「聞いて驚くなよ?」
「えっ……うん?」
「月島が好きなのは……2次元だ。あいつの心はここにはない」
「へ?」
あまりにも予想外だったのか、茜の思考が停止するのを感じる。
「月島はアニメが好きなんだ」
俺が見る限り月島は普段、俺以外の人間と話す時はアニメの話題を出しておらず、それは茜に対しても例外ではない。クラスメイトは話しているところを見ているから察してる奴は何人かいるけど、他クラスの奴らは知らない奴が多いだろう。
重度のアニメオタクという、おそらく多くの女子を諦めさせた……いや、失望させたこの事実を茜はどう受け止めるのか。
「それは知ってるけど」
「……あ、そう?」
悪魔のフィルターは既に潜り抜けてたか。茜は本気で月島のことが好きみたいだ。少なくともそこら辺の有象無象よりは明らかに。
「それでどんな子が好きなの?」
聞くのかよ……。
「確か、短髪で普段はちょっと強気だけど、たまに本心の優しさを見せてくる、みたいな子」
「……? ……???」
「所謂ツンデレってやつだ」
「ツンデレ……聞いたことあるけどどんなのかわかんない」
「意味的にはギャップに近い」
「なるほど?」
半分も理解してなさそうだな。
「えっと、髪はもうこれくらいでいいよね?」
サラサラの髪を触りながら話す茜。
「……まさかとは思うけど2次元の真似しようとしてる?」
「そうだよ?」
「 や め と け 」
まずい。月島に茜を壊される。
「なんで……少しでも連人の好みに近づきたいのに……」
うーん……月島も現実にいたら推せるとは言っていたし、茜の意思を尊重してあげるべきか……。
「この話は一旦置いておこうぜ、な? 部活の件がうまくいかなかった時にでももう一度考えよう」
「……一希がそんなに言うなら、わかった」
「よし」
危ねぇ……月島を早く現実(3次元)に戻さないと茜がとんでもないことになってしまう。
戻す? どうやって?
無理そう……。
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