第2話 凛花
私、凛花のことをみんなは知らない。
たぶん、私が生きていないから。
ずっと前から、ここにいるのに。物心ついたときからみんなと同じ時間を過ごして自分なりに生きてきたのに。
クラスメイトAに私の姿は見えない。
クラスメイトBに私の声は届かない。
クラスメイトCは私を馬鹿にする。
クラスメイトDは知らないふり。
そんな私を認めて、そばにいさせてくれる、心の優しい琴音に出会えた。
けれど、
みんな私を恐れて琴音を避ける。
琴音は何も悪くないのに。
私は琴音に嫌われそうで怖かった。
「ねぇ、あなたは誰なの?」
琴音が問いかける。
『凛花よ。あなたがつけてくれた名前なのに忘れたの?』
私は拗ねたような口調で返事をする。本当の意味をわかっている。でも、自分でもわからなかった、私は誰で何なのか。
「ちゃんと覚えてる。でもさ…」
大好きな琴音の暗い声に耐えられなかった。
『そんなことより、卒業おめでと。もう琴音も中学生ね』
私は琴音の話を遮って無理矢理に話題を変えた。
「どうせ何も変わらないよ」
琴音を眺める。苦しそうで泣きそうな表情に胸が締めつけられた。
「ねぇ、凛花。私の代わりに生きてよ」
私はあなたの代わりではなく、こんな生き方でもなく、ただ隣に並んで手を繋いでみたかった。
琴音の友達として生きたかった。
『ごめんね、それは無理なの』
私の頬をつたう涙にすら色はない。
外から楽しそうな子どもたちの声が聞こえてくる。
幼稚園の子はみんな私を感じられる。成長するたびに彼らの世界から私が消えていく。
琴音が大人になれば、私を忘れてしまう。
「ねぇ、凛花。私、大人になれるの?」
『…きっとなれるよ』
みんなと同じ大人になれる。認めたくなかった。琴音は特別でいてほしかった。
私はここにいていいのかな。
ずっとわかっていた、琴音の人生を狂わしたのは私だってこと。
大好きな人に笑ってもらうためなら、一人ぼっちでもきっと大丈夫。
私は早く琴音から離れないといけない。
罪悪感だけが、毎日膨らんでいく。
「ねぇ、凛花。ずっとそばにいてね」
不意に琴音が呟く。
返事なんて、できなかった。
思いが溢れて、琴音を抱きしめてみる。触れられないし届かない。
それでも、琴音が私の居場所をつくってくれる。
だからもう少しだけ、そばにいてもいいかな。
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