第3話 「はい、膝枕だよん」


【兄の部屋、ベッド】



――ガチャン。扉の開く音。


「あー、お兄おかえりぃ。え、俺の部屋でなにしてるんだ?そりゃお兄を待っていたんすよ。ちゃんとドライヤーかけた?ほんとはドライヤーもかけてあげたかったけど、お兄が無理やり追い出すからさぁ」


「あ、歯は磨いたの?......なーんだ、磨いちゃったかぁ。それじゃあ、あたしが歯磨きしてあげるのはまた今度だねえ〜。え?させねえよ?あははは」


「さてさて、それでは本日のメインイベントでごぜーますですよ、お兄様。はい、こっちきて」


「うん、こっちこっち。なんだか素直になってきたねえー。観念したかなぁ?......抵抗してもやるだろ?あははは、そーだね。わかってんじゃーん、さっすがお兄!ほい、じゃあここ、ここに横になって、頭をここにのせて」


――ぽんぽん。緋鞠は自分の膝を叩いて示した。


「ん、そーだよ。緋鞠の膝。膝枕だよ。ほら、おいでお兄」


「んー?今更照れんなってぇ、お兄とあたしの仲じゃーん。あははは」


――頭を膝にのせる音。


「うん、そそ、そこそこ。んー!良い子だねえっ」


――頭を撫でる音。緋鞠の静かで優しい声色。


「......よしよし、お兄は本当に良い子......今日もたくさん頑張ってきたんだよね。お疲れ様。お兄は良い子......よしよし。なでなで......ふふっ、気持ちいーの?可愛いねえ」


――耳元に寄る緋鞠。小声で囁く。


「......それじゃあ、まずはお耳ふきふきするね?ウェットティッシュを......ぎゅ、ぎゅ」


――ウェットティッシュで耳を拭く音。


「きれいきれいしましょうね〜。ぎゅ、ぎゅ......ふふっ、気持ちいいっしょ?ほらほら、お耳の溝とか......汚れが溜まってたりするんだよねぇ......ぎゅ、ぎゅ」


「......ぎゅ、ぎゅ......はい、今度は耳の周りを拭き取るよ......ぎゅ、ぎゅ......うん、こんなもんかなぁ」


「それじゃあ、お次はこれだっ!みーみーかーきぃ〜!いぇい!それじゃあ、いきますっ」


――耳の中をカリカリとかく音。緋鞠は小声で囁く。


「......かり、かり......お耳、かり、かり......」


「きもちぃー?お兄......かり、かり......ふふっ、またお目めがとろんとしてきてるよ〜......可愛いねえ。ぎゅーしたいねえー......耳掻き突き刺さるからしないけど」


「かり、かり......かり、かり......ちょっとスピードアップするね......」


――耳かき音のスピードがあがる。緋鞠は小声で囁く。


「かりかりかり、かりかりかり......かりかりかり、かりかりかり......どう?癖になるくない?気持ちいいでしょ〜......だいじょーぶ。傷つけないように掻いてるからさぁ......これが、1年以上磨きに磨いた匠の技っすよ」


「かりかりかり、かりかりかり......え?うん。1年は練習してたよ......え、どうやって?そりゃ企業秘密っすよ......かりかりかり、かりかりかり」


「......ほい、おーしまいっ。んー?なぁに?名残惜しいのぉ?ふふっ、だーめ......うん、だめ。だって、ほらお次は梵天の番だからさぁ......ほらほら、いくよ〜」


――梵天が耳に入る音。緋鞠は小声で囁く。


「......ごそごそ、ごそごそ......あー、気持ちいいねえ......ごそごそ、ごそごそ......あはは、お兄、眠りかけの仔猫ちゃんみたい。ふふふっ」


「ごそごそ、ごそごそ......幸せだねぇ......ごそごそ、ごそごそ」


「......はい、おしまい。え、早いって?......だーって、お兄、気持ち良すぎて寝そーじゃん......反対のお耳もあるんだからさ、寝たら困るもん......あ、そうそう」


――ふーっ、と耳に息を吹きかける音。


「......仕上げだよ.....気持ちい?もっかい?......ふーっ」


「......はい、じゃあ反対向いてね」


――ごそごそと反対になる音。


「はい、良くできました......え、ちょっと待った?だめだめ、このまま......あたしの体側に顔向けてるから、位置変えたいんでしょ?だーめ......このままやるよっ」


「あーもう......暴れないの!ほら、あんまりわがままいうと、もうしてあげないよ?いいの?......うん、よしよし、良い子......素直でよろしい。それじゃ、また耳をウェットティッシュで拭いてくよ」


――ウェットティッシュで耳を拭く音。再び緋鞠が小声で囁くように喋る。


「......ふきふき、ふきふき.....あー、気持ちいいねえ......ふふっ。ふきふき、ふーきふき......」


「......ふきふき、ぎゅ、ぎゅ......ふきふき......あらら、よだれがたれそうなくらい気持ちよさそうな表情。かーわぃー......ふふ。はい、そしたら、おまちかね。みーみーかーき〜!......いれるよ?」


――耳掻きが耳に入る音。


「......かり、かり......かり、かり......あ、こんなことろに強そうなやつはっけーん......これは、強敵ですなぁ......ゆっくーり、ちょん、ちょんと......少しずつ......ちょん、ちょん......かり、かり.......」


「......んー、少しずつ剥がれてきたよ......え、気持ちいいの?痛くない?......かり、かり......ちょっと痛いのが、気持ちいい?......あははっ、変態かよ〜っ、くく......お兄が変態なんて前からわかってたけどさぁ〜、って!待って待って、暴れないで!!じょーだん!冗談じゃない......ごめんってぇ」


「ん、よし......かり、かり......あと、少しで......かり、かり......はい、とれたぁ!おっきぃ〜!......これはあたしの宝物にしよう。いや、冗談。そんなにドン引かないでよ......え、変態はお前だろ?ふふっ、うん、そーだよ?あたしはお兄の事好きすぎて変態になっちゃったんだもん......こーれは責任とらなければなりませんねえ、ちら?」


「あははは、あわててかわいー!さて、お次は梵天の出番だよん......ほら、いくよ」


――梵天が耳の中に入る音。緋鞠は小声で囁き続ける。


「......ごそごそ、ごそごそ......もふもふ、もふもふ......あら、ちょっと寝かけてる?......お兄は緋鞠が好き、お兄は緋鞠がいないとダメ......お兄は緋鞠と結婚する......え、暗示かけんな?なんだ、起きてたんだお兄......ごそごそ、ごそごそ.....」


「......ごそごそ、ごそごそ.....まあ、暗示なんかかけなくても、お兄はあたしの事が好きだしあたしがいないとダメだもんね......ごそごそ、ごそごそ......」


「ごそごそ、ごそごそ......ん、結婚の部分?......ちっ、聞こえていたか......ごそごそ、ごそごそ......」


「......はい、そしたら仕上げ......」


――耳に息を吹きかける音。


「ふーっ、ふー......ふー、ふー......」


「......ふーっ、ふー......気持ちいい?って、あれ......寝てる......お兄?」


――ゆさゆさと緋鞠が兄の体をゆする音。


「......うーむ、気持ち良すぎたか......」


――兄の頭を撫でる音。



「......っていうか、お仕事で疲れてたもんね......いつもありがとう、お兄。頑張ってるの.....あたし、知ってるからね......大好きだよ、お兄」



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