第2話 「あいあい、お風呂失礼しますよーっと」


【浴室】


――ぴちょん、と水滴の落ちる浴室の音。コンコン、と扉のノックされる音。そして、扉の向こうから緋鞠の声がした。


「お兄〜?ちょっと入って良い〜?え、ダメに決まってるって?んー......まあ、優しいお兄なら入っても許してくれるはず。うん」


――扉を開ける音。


「どもー、お兄!え、なんで入ってくんのって?そりゃお兄を癒やしてあげよーと思ってだねえ、ほらさっきお兄の役に立ちたいって言ったじゃない?」


「そうそう、出た答えがこれなんですよ。お背中流しますぜ、旦那!あははは!あたし、水着きてるからいーじゃんか!はーい、それじゃあ後ろ向いてくださいね〜。ほらほら、お兄の大事な所が見えそうですからね〜。ぷぷっ、お兄またあわててかわいーなあ!」


「よし、それじゃイスに座って。ほいほい、シャワーオン!」


――ザァーとシャワーの流れる音。そしてわしゃわしゃとボディーソープを泡立てる緋鞠。


「緋鞠がお兄の体を綺麗にしてあげるからねえ〜。んー、こんくらいかな......いきます」


――ごしごし、と背中を擦る音。


「ごしごし、ごしごし.....気持ちい?お兄、どうかな......ごしごし、ごしごし」


「ん、気持ちいいか。良かったぁ......え?気持ちよかった、ありがとう、もう良いよ?いやいや、これからが本番ですぜ、旦那ぁ!と、言うわけで......はい、腕上げてくださいな〜」


「ごしごし、ごしごし......えへへ、あたしがしたくてしてる事だけど、こうしてお兄の男らしい体つきを見ていると少しだけ照れますなぁ。あははは。......じゃあそろそろ?うん、そうだね。そろそろ、脚だね!やめるわけ無いじゃん......はい、あんよ伸ばしてくださーい.....うんうん、おっけい!素直で良い子」


「ごしごし、ごしごし〜......よし、これでお兄の大事な所いがいは概ね終わったねえ。あ、お尻は洗ってないや......え、そこも勘弁してくれ?も~、仕方ないなあ。はい、それじゃあ泡流しまーす......ざぁーっとな!」


――シャワーで体を流す音。


「ふふっ、すっきりしたぁ?おおっ!?めっちゃ首振るじゃん!!ウケる!!ってか、お兄......そんな勢いよく首を振ったら......ああっ、ほらも~!首痛くした〜!それじゃあ頭洗うの大変だね......あ。それじゃあ頭洗うの大変だね?え、なんで二回言ったかって?大事な事だからだよ?はい、頭洗いまーす!」


――ザァーっと頭にシャワーがかかる音。


「はーい、髪洗っていくよん......」


――頭を洗う音。


「わしゃ、わしゃ......わしゃ、わしゃ......。どーですか、旦那ぁ!気持ちい~ですか?......わしゃ、わしゃ」


「......あ、お兄......ここハゲてる!」


「おあっ、と!!急に振り向かないでよ、危ない!!え?ハゲどこにある?って?へへっ、嘘ぴょーん!」


――ゴス。ちょっぷされる緋鞠。


「あだっ!痛い〜......そんなにちょっぷばっかりされたら前髪の生え際が後退しちゃうよ。お嫁に行けない。だから、お兄がお嫁にもら......あだっ!?またちょっぷした!?」


「わ、わかったから!ごめんて、お兄!ほら、髪の泡流すから座って座って!......あー、びっくした。お兄は怒ると怖いんだから」


――ザァー。シャワーで髪の泡を流す音。


「はーい、目は開けないでくださいね〜。目に入ると痛い痛いですからね〜......え、小さい頃のお前じゃないんだからって?」


「あー、頃はお兄が髪洗ってくれてたっけ〜......あたしがこの家来た頃だったから、小学6年生の時かぁ。あの頃は実はお風呂にひとりで入るの怖かったんだよね......特に髪を洗ったりして目をつぶった時!だから、嫌がらずに一緒にお風呂入ってくれてたお兄は、ホント優しい人だなあってずっと思ってた」


――キュッ、キュッ。シャワーを止める音。


「ありがとね、お兄。......っていうか、あれだね。あたしってちょっと面倒くさいよね。き、嫌いになってたりしない?なんか急に不安になってきた」


「え、らしくないぞ?だ、だって......怖いじゃん。好きな人に、お兄に嫌われたりしたらって思うと」


「お兄......あたしの事、嫌いじゃない?」


――ピチョンと水滴が落ちる音。


「嫌いなら一緒にいないだろ?......ふふっ、そっか。ありがとう。あたしもお兄の事、大好きだよ」


「......えーっと、うん。さてさて、お次は頭皮マッサージですよ〜。はい、お兄、リラックスして〜」


――頭皮をマッサージする音。


「わしゃ、わしゃ......わしゃ、わしゃ。どう?痛くない?......わしゃ、わしゃ」


「わしゃ、わしゃ......ん、気持ちいい?えへへ、練習したかいがあったなあ。うん、練習したんだよ〜。お兄の疲れを癒やすためにネットとかYouTubeとかで勉強したんだぁ......わしゃ、わしゃ」


「すごい気持ちよさそうだね、お兄~。目がとろんとしてきたねえ。よし、ならばお次は肩たたきいきます!」


――トントン、トントン。肩を叩く音。


「はい、とんとん、とんとん......なんか懐かしいな。お父さんにしてたのを思い出す......とんとん、とんとん」


「とんとん、とんとん......え、お父さんはあっちでお母さんに肩叩いてもらってるよ、って?......だから、緋鞠は俺の肩を叩いてくれ......ふふっ、はーい!じゃあ、あたしはお兄専用だぁ」


「......なんか、お兄専用ってちょっとえっちだねえ?」


――ゴス。緋鞠ちょっぷされる音。


「あだっ」



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