ヴァンパイアの緋鞠ちゃん。

カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画

第1話 「あー、お帰り~!待ってたよ、お兄っ!」



――ガチャ(扉が開く音)


「お帰りなさい〜!待ってたよ。遅くまでお疲れ様、おにい


「え?緋鞠ひまりはこんな時間まで起きてなくてもいいよって?大丈夫だってぇ!あたしだってもう子供じゃないもん......っていうか、まだ九時だし〜。寝るには早いよ」


「ほらほら、上着ちょーだい。疲れたでしょう?先、ご飯にする?お風呂?それとも......あたし?」


――ごすっ(緋鞠の頭にちょっぷする音)


「あだっ!!痛い〜!何すんのさっ!え、変なこと言うな?ちょっとした新婚さんごっこじゃんかよ〜......あ、ご飯ね。りょーかいっ!今日はねえ、サバの味噌煮だよ。ほら、お兄こないだ食べたいって言ってたじゃん」


「いい匂いするって?ふふん、でしょ〜!」


「うん、そーだよ〜。お兄の言ったことはちゃんと覚えてるんだからぁ。まあ、初めて作ったからあれなんだけど......でも味見したら美味しかったから大丈夫だと思うな〜」


「え、楽しみ?うんうん、早く食べてほしいなぁ!ほら、お手て洗ってきて。用意しとくからさ〜!」


――ジャーっと水で手を洗う音。


遠くから緋鞠の声。


「お兄〜!ごはんどーするー?大盛り〜?」


「え、大盛りじゃないの〜?ん、お腹周りが気になる?あたしはそんなの気にしないけどー?ふくよかなお兄もそれはそれで可愛くて好きになりそーだけどなぁ......」


「可愛い言うな?あはは、ごめんごめん!ほら、ご飯よそったよん。早くおいで〜」


――足音。椅子に座る音。


「じゃじゃーん!緋鞠特製のサバの味噌煮定食〜!どーだ!参ったか〜!え、参りました?あはは、ノリが良いねえ、お兄は......さ、冷めない内にどーぞ〜!」


「わくわく......お、美味しい?やったあ!がんばって作ったからねえ、そう言って貰えると嬉しいなあ。えへへへ」


「って、ええっどーした急に泣き出して!?もしかしてホントは口に合わなかったとか!?」


「え?あたしがこんな美味しい料理を作れるようになって嬉しい......?成長してるなって?そりゃーそうですよ、これまでずっとお兄に育てて貰ってきたんだから。どんどんお兄の役に立てるよう頑張んないとね〜」


「あのさ......あたし、お兄にはすっごく感謝してるんだ。って、なんだよ急にって?急に感極まって泣き出すお兄に言われなくないよ!ふふっ」


「でもさ、こんなあたしをここまで一人で育ててくれて......ありがとね」


「ほら、あたしって半分だけど吸血鬼の血が入ってるじゃん。......それをここまで秘密にできてるのはお兄が頑張ってくれたからで。フツーの暮らしを出来てるのはお兄のおかげなんだよ」


「そんなことない?お前が頑張ってるからだって?ううん、これはお兄のおかげだよ。だって......成長期になってだんだんと瞳の色が紅くなってきた時もコンタクトを買ってくれて学校にいけるようにしてくれたし。血を吸いたい衝動だって、いつもお兄が解消してくれてるし......じゃなかったら、魔族の子なんてわかったら迫害されていじめられるからさ」


「そんなことはこれからも俺が絶対にさせない?うん、そーだね。あたし、お兄がお兄で良かった。優しくて、格好良くて......うん。え?かっこよくない?あたしには格好良くみえるんです〜!あははは」


「あの日、お母さんとお父さんが事故で死んじゃった時。12歳のあたしだけがこの家でひとり残された時さ、寂しくて辛くて心細かったんだ。魔族の血を引くあたしはこれからどうやって生きていけば良いのか不安で......」


「でも、お兄が帰ってきてくれた。あたし、すっごく嬉しかったんだよ。「安心しろ、これからはずっと俺が一緒だ!」って言ってくれて。ふふっ。あの時、「ああ、あたしはひとりじゃないんだ」って、思えたんだ......ありがとね、お兄」


「だからさ、あたし......お兄の役に立ちたいの。もうたくさん助けられてる?ううん、まだ足りないよ。だからね、ちょっと考えてたんだ。どうすればもっともっと、お兄に「ああ、緋鞠がいてくれてよかった!緋鞠がいないと俺はもうダメかもしれない!緋鞠しか勝たん!緋鞠、結婚しよう!」って思ってもらえるかさ......」


「え、結婚はしない?お前は妹だろ?......あたしはお母さんの連れ子でお父さんとお兄とは血は繋がってないでしょ?だから結婚できるもん!......っていうか、この家来たときお兄言ったもんね?あたしをお嫁さんにしてくれる〜って!あれは嘘なの?小さかったあたしの純真無垢な想いをもてあそんだってこと?.....だとしたら、あたし心に深い傷を負ったかも......ああ、辛い。苦しいよぉ、お兄ぃ!」


「――あ!ちょっと!咽て味噌汁鼻から出さないでよ、も~!まあ、あたしのせいだけどもさーっ。あははは」


――ティッシュを取る音。


「はい。......ん?味噌汁飲むタイミング狙っただろ?そんな酷いことあたしがお兄にすると思うの?はあ、辛ぁ......あたしの事、そんなひどい奴に見えてるんだ。泣いちゃうかも......しくしく」


「なんちゃって〜。って、お兄。そんなジッと睨まないでよ......照れちゃうじゃん。ぷっ、あはは!また焦ってるし!面白いなあお兄は!」


「そんな所も大好きだよ、お兄」



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