第4話 「あたし、お兄じゃなきゃ生きていけないから」



――緋鞠、心の声。


(......でも、どうしよう。このままベッドに寝かせたいけど、動かしたらせっかく寝てるのに起きちゃう......)


お兄の横顔、ホントに可愛い。可愛くて、格好良くて......。


あの時、お兄はそれまで勤めていた会社を辞めて、家から通える場所にある会社に就職した。


一人暮らしもやめて、家に帰ってきて......そばに居続けてくれた。


それは全てあたしの為。お母さんとお父さんがいなくなって、一人になってしまうあたしを心配して......。


あたしとお母さんの祖先は、吸血鬼。いわゆるヴァンパイアという魔族だ。


古くから存在し、後にその数を減らし、だがわずかにその血を引くあたしのような半分魔族みたいなのが存在する。


血を引いているといっても、ほとんどが普通の人間のような姿だし、普通のヒトとして暮らしていく。なんなら自分がその血を引いている事すらわからずに一生を終える者もいるらしい。


けど、あたしは違った。その血が色濃く、中学生の頃に瞳が紅くなり血を飲みたい衝動に襲われた。


基本的には吸血鬼などの魔族は国の研究機関に送られるか、駆除される。人権などない。それはそうだろう。なぜなら、魔族はその殆どが殺傷能力の高い能力を持ち、猛獣と変わりないのだから。


かくいうあたしも血を吸いたくて暴れ、お兄に大怪我をさせたことがある。


でも、あの時......お兄があたしのことを優しく抱きしめてくれた時から、その暴力性や吸血衝動は軽減され、普通に生きられるようになった。


(......お兄。あたしには無くてはならない人)


お兄が血をくれてるから、あたしは人として生きていられる。


(でも、それだけじゃない.......あたしは、お兄のこと、ホントに......)


――緋鞠は小声で呟く。


「......愛してる.......」


あどけない寝顔、可愛い。


......寝癖を直し忘れて慌てて会社に行くお兄、可愛い。


昔、作ってくれたお弁当......キャラ弁つくってくれた。嬉しかった。


あたしが学校で嫌なことがあって、イライラしてお兄にあたっちゃった時も抱きしめてくれて、頭を撫でてくれた。


全部、全部、全部大好きだよ。


それに、ね......あたし、覚えてるんだ。


あたしが吸血鬼に覚醒した時、あの血まみれになったこの家のリビングで......あたしがしたことにあたしが狂いそうになっていた時。


扉を開いたお兄を殺そうとした時......それで、ぼろぼろになったお兄が、あたしを抱きしめて、撫でてくれて、その時にお兄が言ってくれた言葉。



――回想シーン。


『......どうしよう、お兄......あたし、あたし、化け物だった......お父さんとお母さんが......そんなつもり無かったのに、きがついたら......』


『ご、ごめんなさい......お兄、お仕事中だったよね、はあはあ、あたし......電話しちゃって......』


『ねえ、お兄......これ、あたしがやったんだよね』


『お父さんとお母さん、あたしが......ああっ、あ』


『血が、血が欲しい......血が、血が血が』


――ギュッ、と抱きしめられる音。


『――......あた、たかい......あれ、何かが静まっていく......』


『――え、お兄......なんで、け、怪我して......』


【大丈夫、怖くない......寂しくない。俺が、ずっと側にいるから......緋鞠、ずっと一緒だ。だから、安心しろ】


『......』


――ドサッ、倒れる音。回想シーン終了



そうしてあたしは意識を失った。それから何がどうなったのかはわからないけど、今、あたしがこうして普通の暮らしに戻れたのは、お兄のおかげなんだ。


......何度も消えようとした。あたしが存在してはいけないような気がして。


でも、何度も救ってくれた。俺にはお前が必要だと言って。


だから、頑張る。お兄の役に立てるよう、頑張る。


――はあ、はあ、と微かな緋鞠の吐息。


(......あ、ヤバいかも......お兄の寝顔みてたら......血が欲しく......)


(......寝てるけど、良い......よね。少しだけなら......ちょっと、あまがみするくらいなら......)


――緋鞠が耳をはむ音。


「......はむはむ、みみひゃぶやわらはい(耳たぶやわらかい)......」


「はむ、あむ......ちゅっ、はむ......おいひぃ(おいしい)......んむ......ふぁっ、あむ......」


「......あむ、ん......ふふっ、お耳あたしのよだれでべとべと......だぁ......あむ、あむ......んっ」


「......へも、おひぃは、いいっへ、いっひゃんはもん(でも、お兄が、いいって、いったんだもん)......ちゅ、ちゅ......ああっ、おいひい(ああっ、おいしい)......」


――耳を舐める音。緋鞠の呼吸が荒くなる。


「......ふっ、はあ......おひぃ......は、はんだららめ(か、噛んだらだめ)......おひぃは、おひひゃう(お兄が、おきちゃう)......」


――緋鞠が耳から口を離す。


「......はあ、はあ......少し、おさまってきた.....。ああ、ううう......お兄のお耳、せっかく綺麗にしたのに〜。また汚しちゃったぁ......拭かないとべとべとだよぉ、もう......」


――ウェットティッシュを取り出す音。


「......ごめんね、汚しちゃって。......綺麗にするね......」


――ウェットティッシュで耳を拭く音。


「......ふきふき、ふきふき......ふきふき、ふきふき......ふふっ、可愛い寝顔......ふきふき、ふきふき......はい、これでオッケー。綺麗になったよん」



――頭を撫でる音。緋鞠の声が優しくなる。



「......でもさ、あたし......多分、お兄じゃないとこれ、おさまんないんだよね。だから、お兄がいなくなったら、あたし......生きていけないんだ」




「......ずっと一緒に居てね、お兄」






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ヴァンパイアの緋鞠ちゃん。 カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画 @kamito1

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