学級委員長と不良少女 Ⅳ

「こ、こんな……運動部の部室で、男子と二人で、何、してたの?」

 私より背の低い彼女は、きょとんとした顔で首を傾げて、

「それ、聞いちゃう?」

 苦笑する彼女を見て、私は顔面と両耳が煮えるように熱くなった。

「あ、もしかして興味ある?」

 茶化すように、下から私の顔を覗き込む。


 私の中のどこかで、プツンと言う音がした。

 これを、キレると言うのだろうか。


 それ以上の事を考えるより先に、手が出ていた。

「このっ……!」

 喧嘩をした事も無いし、運動だって苦手だ。そんな私が繰り出すビンタなど、白銀さんが回避できない訳が無い。

 私の右腕は派手に空振り。しかも私自身がその勢いに引っ張られ、足がよろけて、力が抜けた。

 大した受け身も取れず、私は転んでしまった。

 擦った手足やぶつけたおでこの痛み以上に、あまりにも恥ずかしくて立ち上がれなくなった。

「いいんちょ、大丈夫!?」

「……構わないで」

「いやいや構うし。立てる?」

「うるさい! 触らないで!」

「擦り剥いてるじゃん。保健室行こう」

「何よ! こんな時だけ良い人ぶって!」

「いや、あたしいつも良い人だし」

「どの口がっ……! ああもう、あっち行ってよ!」

「頑固だなーいいんちょ」

 私がどんなに抵抗しても、白銀さんは私を一人にしなかった。


 私を支える彼女の背中はあまりに小さくて、正直、落とされないか不安になる。

「……重く、ない?」

「めちゃくちゃ重い」

「気くらい使いなさいよ!」

「あはは!」

 言葉とは裏腹に、白銀さんは涼しげな顔で私を持ち上げると、軽快に駆け出した。

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