学級委員長と不良少女 Ⅲ

 中学校に入学した途端、授業が難しくなるよ。

 姉が言っていた通りだった。


 私は小学校のテストで、満点しか取った事がない。

 ただ、先生の言う事を聞いていただけ。

 教科書を読む。

 黒板の字をノートに写す。

 宿題をする。

 簡単な事なのに、多くの生徒は、それをしない。だから『普通』の私が相対的に目立って、クラス委員に選ばれて、学級委員長に選ばれて、面倒な仕事を押し付けられて行く。

 断る事を知らなかった私は、何も断る事ができなかった。


 中学に入学してから大変だった。

 小学校時代を知る同級生が多い中学だったから、当たり前のように学級委員長に任命された。でも、今まで通り勉強しているつもりなのに、理解が追い付かなくなって、成績が伸び悩んで、先生の言う事を聞いているだけではダメになってしまった。


 このままだと、真面目で勉強ができる学級委員長という、私のアイデンティティが崩壊する。

 私はそれ以外の何かを一つも持っていなかった。

 だから、例えそれが自ら望んだ物でなかったとしても、失う事に恐怖を感じた。


 学校では涼しい顔をして、黙々と授業を受ける。

 家に帰ると自室に閉じこもって、復習する。

 予習する余裕は、いつの間にか無くなっていた。


 そんな、誰にも相談できない努力をしている私の、目の前で。

 この白銀魅月という不良少女は、いつも私の神経を逆撫でする。


 二年生になると、難易度は更に上がると言うのに。

 どうしてこんな大事な時期に、こんな女と同じクラスになってしまったのか。


 ちゃんと授業を受けたいのに、堂々と居眠りをして、先生が起こして注意する度に、貴重な時間が失われる。しかもそれだけに止まらず、彼女は反抗する。先生に向かって怒鳴る。机を蹴り飛ばしたり、教科書を投げつけたりもする。

 授業中に教室を抜け出す事も、今日が初めてではない。

 私にとって、彼女の行動の全てが信じられなかった。


 何より信じられないのは、彼女が生徒から密かに人気をはくしている事だ。

 先生達へ勇敢に立ち向かう姿が、自由の象徴だと言う。

 彼女は俺たちの私たちの、心の代弁者だ、と。


 狂っていると思った。


 社会規範と学校規則を遵守じゅんしゅし、真面目に、必死に生きる地味な私。

 どんなルールもことごとく無視し、我を貫き、自由に生きる不良美少女。


 私と彼女は、対極の存在。

 未来永劫、分かり合える日は来ないだろう。

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