任務その四 決別(1)

 轟音を立てて、ガレオンに変身したイズモは大地に倒れた。



 僕は、イズモとの同調率を確認するため、いつもの山奥で、彼女と試しに融合してみた。

 だが、イズモと融合しても、頭をよぎるのだ。彼女との同調率を高め、戦えるようになった先には――亜沙人との戦いが待っているということが。

 だから、僕とイズモの同調率は、

『同調率四十九パーセント』

 程度にとどまっていた。

 それで、彼女をガレオンに変身させても、盛大にずっこけたのだ。



 それでも僕は、イズモを立ち上がらせる。よろよろと身体を起こし、大地をまさぐり、彼女が変身したガレオンは立ち上がった。

 そして、ライフルをターゲットに向けて撃つ。命中率は、十発撃って一発当たるかどうかだった。拳銃に切り替えようとすれば拳銃を取り落とし、ナイフに切り替えてターゲットに斬りかかっていこうとすれば、またずっこけた。

 それでも、

『僕はまだ諦めない……!』

 と僕は粘って、リハビリを続ける。

 全ての動作を、少しじっくりやることを心掛けてやってみた。すると、ライフルの命中率は二発に一発程度に改善し、拳銃を取り落とすこともなく、ナイフでの攻撃も、どうにかずっこけることなく上手くいった。

 そして、同調率は、

『同調率六十パーセント』

 程度にまで回復した。



 リブラと一緒に僕とイズモをここまで送り届けてきて、その後も訓練を見守ってくれていたねい姉えは、僕らが一通り訓練を終えた後に、

「ケイちゃん、イズモ、お疲れ様。まだ実戦に出るには早そうだから、無理はしないでね」

 と、声を掛けてきた。それにイズモは、

「そうも言っていられないかもしれません。真宇宙主義者たちの攻勢が活発になり、《ゲート》防衛のためのウィルフレームが不足気味なのです。だから、同調率が少し足りなくても、我々も実戦に駆り出される可能性はあります」

 と答える。僕も、

「それなら……。それでもイズモを強くするための作戦がある。ねい姉え、リブラ。協力してくれるか?」

 と、二人に頼んだ。

「その作戦の内容は――」



「作戦」をねい姉えとリブラに告げた後、僕は、飛行形態のガレオンに変身したイズモで移動していた。次なる《ゲート》の防衛作戦のためだ。

 その移動中、イズモは、

『次の《ゲート》は、《ロードマップ》によれば、食料が通るものです。今まで破壊されたり出現しなかったりした《ゲート》の分を補填ほてんするため、多めに届く可能性があります』

 と説明する。僕が、

『それが破壊されたら、どうなる?』

 と尋ねると、

『私の計算では、人口が維持できなくなります』

 と、彼女は答える。それに緊張を増した僕は、

『重要な任務だな……。気を引き締めていこう』

 と答えた。



 そして僕らは、《ゲート》の出現予定地である、とある都市部に辿り着いた。

 そこで、空中を旋回しながら待っていると――来た。地平線の向こうから、グリラが。例の、足の裏と尻尾の先からロケット噴射する飛びかたで。

 向こうもこちらを認識したのだろう。頭の中に、

『恵人か?』

 という声が聞こえる。僕はただ、

『亜沙人……!』

 と、その名を呼び返し、イズモをその敵のほうへと向けた。

 すぐに僕らは、お互いを射程内に捉える。そして、再びドッグファイトが始まる。

 その時、僕とイズモの同調率は、

『同調率五十九パーセント』

 だった。

 それでは、当然不利だ。まず、初手しょてのビーム砲での砲撃は当然のようにかわされた。僕らもグリラの射線をかわしながらその敵とすれ違い、後ろを取ろうとする。

 だが、しなやかに機動するグリラが僕らの後ろを取るほうが先だった。熱線が片方の翼をもぎ取る。それが再生する間にも、次々に熱線が襲ってくる。

 回避と再生に手いっぱいで、防戦一方になった僕らに、

『人類なんて、この宇宙を文明という毒で汚染する病原体なんだよ! だから滅ぶべきだ!』

 と、亜沙人は説いてきた。それに対して僕は、

『病原体なんかじゃ……ない!』

 と言い返す。今は僕にだって、彼に反論するだけの信念がある。それを受けてか、

『同調率七十五パーセント』

 にまで、僕とイズモの同調率は向上した。

 僕は続けて、

『僕ら人類はきっと、この宇宙をもっと面白くするために生まれてきた存在なんだ! だから僕は、人類を守る!』

 と反論した。その想いを受けてか、

『同調率八十九パーセント』

 にまで、同調率が向上する。

 それに対し亜沙人は、

『お前の頭も――「毒」に侵されたか。だったら、その苦しみを今終わらせてやる』

 と答えた。

『終わらない……! 終わってたまるか……!』

 と僕も言い返し、急旋回。そして急減速し、グリラの後ろに回り込む。その時、

『頑張れ! ガレオン!』

 と叫ぶ声が、頭の中に聞こえてきた。

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