任務その三 苦戦(4)
『同調率四十パーセント』
それが、イズモに告げられた、戦闘後の同調率だった。
その程度の同調率では、イズモが変身したガレオンのディテールも甘くなる。初代ガレオンに変身してもライフルがぐにゃぐにゃで、戦闘機形態のガレオンに変身すればあちこちの部品が歪んでいて人型に戻れず、火力重視のガレオンに変身してもそれぞれの砲やミサイルは歪んでいて、剣を装備したガレオンに変身すれば剣はただの平たい棒みたいになっていて、ステルス性重視のガレオンに変身すれば、光学迷彩を使えなくなっていた。
そのように、いろいろなガレオンへの変身を試し――そして、そのどれもうまくいかないということを確かめた結果、
『恵人さん。あなたは今休むべきです』
という結論を、イズモは出した。
『そんな……。イズモはどうするんだ?』
と僕が尋ねると、
『……あなたが回復するか、また新しいフレーマーが見つかるまで、当面フレーマーなしで活動します』
と彼女は答える。
そして、イズモは高校の体育館の避難所の手伝いをすることにして、僕は他のフレーマーとウィルフレームが迎えに来るまで、その避難所に泊まることになった。
僕は、体育館の片隅に座り込んでうなだれる。
体育館のそこら中からは、
「やっぱりこの食料、おいしいし元気も出るねえ。ありがとう」
という、食料を届けに来たウィルフレームへの感謝らしい声や、
「やったー! 上がりー!」
という、何かのゲームで遊んでいるだろう子供の声や、
「うちを再建してくれてありがとうね。これでやっと帰れるよ」
という、家を再建してもらったらしい人の感謝の声などが聞こえた。
その中で、
――僕は何をやっているのだろう。
という思いに、僕は支配される。
実際、何もできなくなってしまった。この世界を救うために唯一僕ができること――イズモとの同調によってガレオンを使うこと――ができなくなってしまった以上は。
そもそも、この戦い自体が間違っていたのかもしれない。戦争と環境破壊をやめない人類を救うために、人を殺して。そのために、僕に残された唯一の肉親である亜沙人まで敵に回して。
それならいっそ、亜沙人たちが人類を滅ぼすのをただ見ているだけでいいのでは――
そんな暗い考えを持っていると、
「ケイちゃん?」
と、僕のニックネームを呼ぶ声が聞こえた。
顔を上げると、思った通りにねい姉えがいる。彼女は、屈託のない笑顔を浮かべながら、
「話は聞いたよ。その……お疲れ様」
と、ねぎらいの言葉をかけてきた。ねい姉えの隣のリブラも、
「リブラたち、この避難所に物資を届けに来たついでに、ケイトをホームまで送るために迎えに来たのデス」
と説明する。僕はただ、
「好きにしてくれ……」
と、投げやりな答えを返した。
そんな僕の隣に座り込んで、ねい姉えは、
「あのさ。ちょっとケイちゃんに、見てもらいたいものがあるんだ」
と語りかけてくる。彼女が「リブラ」と促すと、リブラはにゅるりと、掌からVRゴーグルを出した。
僕は、それを手渡されるままに受け取って、言われるままに顔に装着する。すると、穴だらけになった火星が映っていて、
「なんだこれ……」
と、僕はつぶやく。
次に映し出された映像は、ウィルフレームたちが火星の地表を修復している姿や、みるみる元の姿を取り戻していく火星の様子だ。それに、
「確かに未来の人類も火星で戦争をしちゃうけどさ。それでも、戦争をした二つの超大国が和平合意を結んで、共同で火星の復興に取り組むんだよ」
という、ねい姉えの説明が入る。さらに、
『合同復興チーム――出発!』
と言う人たちに見送られながら、ウィルフレームらしい少女たちが《ゲート》に入る姿が映し出された。おそらく、二〇四五年の、《ゲート》の入り口側の映像なのだろう。そう僕が思っていると、
「二つの超大国は、復興のためにジョイントチームを結成して、二〇二五年に送りまシタ。リブラもその一人デス」
と、リブラが説明する。それを受けて、
「未来の人類も、どうにかやっていけてるんだ……」
と、僕が納得すると、
「ケイちゃんに見てもらいたいものは、それだけじゃないよ」
と、ねい姉えが話を続けた。彼女が再び「リブラ」と促すと、映像はまた切り替わる。
そこでは、今まで見たことのないガレオン作品のタイトルが表示されていて、
「未来でも、VRの新しいガレオンが作られてマス」
と、リブラが説明する。
攻めてきた敵部隊を主人公がガレオンに乗って撃退する、というべったべたな第一話を僕は、主人公の視点や、ヒロインや敵の視点から体験したが――VRだと、これまでにない迫力が加わっていた。
それを見終えて、鼻息が少し荒くなっているのを感じながらゴーグルを外すと、
「うちらがケイちゃんに見せたかったものは、以上」
「……それでも人類を救うための戦いを降りるかどうかは、ケイトの判断に任せマス」
とだけ、ねい姉えとリブラは言った。
それを受けて、僕は――
「やっぱり、人類を救うために戦いたい」
と、彼女らをまっすぐに見つめながら答える。ねい姉えは笑顔になって、
「じゃ、それを一番伝えるべき相手に伝えなきゃ」
と言って、その「相手」がいる方向を掌で指した。
僕は立ち上がり、彼女の元へ向かう。
イズモはまだ避難所にいて、避難者たちの話し相手をしていた。
そこに僕は、
「イズモ。ちょっといいか?」
と、割って入る。顔を上げ、僕のほうを見た彼女に、
「イズモ。やっぱり僕も、人類を救うためにまた戦いたい。戦わせてくれ」
と言いながら僕は、手を差し出した。イズモは、
「はい。歓迎します」
と答えながら、僕の手を握り返した。
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