任務その三 苦戦(3)

 それから数日後、僕らはとある避難所近くの《ゲート》の防衛作戦に出た。

 高校の体育館の近くを、戦闘機に変形できるガレオンの姿で、警戒のために飛び回る。その間、

『同調率七十五パーセント。戦闘できるぎりぎりの同調率です。大丈夫ですか、恵人さん?』

 と、イズモは告げてきた。僕は、

『大丈夫……! それに、どの道僕らが戦うしかないんだ……!』

 と強がりを言う。

 その時、近くの街中に見つけた。亜沙人と、彼を以前連れ帰ってきたアイオワが、並んで立っているのを。

 亜沙人を見つけてほっとするのも束の間、二人はこんなところで何をやっているのだろうという疑問が――そして、最悪の可能性が頭をよぎる。

 それは的中した。亜沙人がアイオワと手をつなぐと、彼女は液体状になって、しゅるしゅると亜沙人を包み込む。

 そして融合した二人は巨大化し――身長五十メートルほどもある、二足歩行の爬虫類みたいな怪獣に変身した。

 グリラ。亜沙人が好きな怪獣に。

《ゲート》の出現予定位置の近くで二人がそれを行ったということは、彼らが《ゲート》を攻めに来た可能性が高い。だから僕が、

『そんな……! どうして……!』

 と戸惑っていると、亜沙人とアイオワが融合した姿のグリラは、いきなり僕ら目がけて口から熱線を吐いてくる。

 急旋回で回避。しかし僕が攻撃をためらっていると、

『恵人さん! どうしたんですか? 反撃しないと!』

 と、イズモが促してくる。僕は『分かってる!』と慌てて答え、グリラを攻撃するために機首をそちらに向ける。

 ビーム砲を発砲。グリラの胸に穴が開くが、CPUは見つからない。

 また根気強く、敵CPUを探す作業をしなきゃいけないのか。だけどそうすると、亜沙人を殺すことに――

 と僕が考えていると、再生したグリラは信じられない行動に出た。その足元が煙に包まれたかと思うと、次の瞬間その巨体が空中に浮きあがったのだ。

 両足の裏と尻尾、三点からのロケット噴射。それによって、亜沙人とアイオワが変身したグリラは飛んでいた。そして、僕らが慌てて撃ったビームを回避してから、僕らに向かってくる。

 確か、映画のグリラはそんな飛びかたはしていなかったはずだ。ナノマシン群であるウィルフレームだからできる飛びかたなのだろう。そう考えつつも、僕はグリラの射線からイズモを外し、敵の後ろを取ろうとする。

 本来は空を飛べない巨大怪獣と、戦闘機形態の人型兵器の、前代未聞のドッグファイトが始まった。その最中、

『――恵人か?』

 という、亜沙人の声が聞こえる。例の、集合的無意識を通じた声なのだろう。僕は、

『亜沙人……! どうしてこんなことを……!』

 と、彼に問いをぶつけた。僕らとすれ違いながら、亜沙人は、

『俺も、最初は「こっち」につくつもりはなかった』

 と答える。グリラの後ろを取るために急旋回する僕らに、

『俺と最初に会った時、アイオワはもう真宇宙主義側に寝返ってたんだ。俺も、最終戦争を引き起こしてしまった人類に絶望していた』

 と、亜沙人は説明を続けた。

『だからって……! 人類を滅ぼそうとするなんて……!』

 と僕が反論しかけると、

『人類の愚かさは変わってない。今も――未来も』

 と亜沙人は、グリラを僕らの射線から外しながら答える。僕が『どういうことだ?』と聞くと、

『復興作業をするウィルフレームたちは伏せているがな。人類は未来でも、火星の利権を取り合って戦争して――その新天地を荒廃させてしまったんだよ。アイオワが教えてくれた』

 と、亜沙人は説明した。僕が『そんな話聞いただけで……!』と反論しかけると、

『それだけじゃない。お前から、父さんと母さんが亡くなったことを聞いた。それで決心がついた。愚かな人類を、アイオワたちと一緒に滅ぼそうってな』

 と、亜沙人は答える。

 父さんと母さんの死。僕の中にも残っている傷。それをえぐられて、僕はもはや、

『そんな……。だからって……』

 と、しどろもどろに言葉を発することしかできなくなっていた。

 そうしている間に、グリラは急減速して僕らに並び、そして後ろに回り込む。

『恵人さん!』

『っ!』

 イズモに警告され、僕は慌てて、グリラの射線をかわした。一瞬遅れて、熱線がイズモをかすめる。それに合わせるように、

『恵人。お前も――戦争と環境破壊を繰り返す愚かな人類を救うために苦しむのをやめろ』

 という、亜沙人の言葉が飛んできた。

 その言葉から逃げるように、僕は必死でイズモを機動させる。右。左。急降下。急上昇。その動きに、しなやかについてくるグリラの熱線が、何度も僕らをかすめた。その最中、

『同調率七十四パーセント』

 というイズモからの凶報が入ってきた。

 続けて、とうとう僕らは熱線の直撃を受ける。右のブースターに被弾。すぐに再生するが、速度が落ちる。

 その一瞬の隙に、グリラに追いつかれた。大木のような太い腕から繰り出される、爪の一撃を食らう。

 世界がぐるぐると回った。上下左右の区別もつかず、でたらめに回転しながら、僕らは墜落する。

 衝撃。僕らは、近くの山肌に叩きつけられた。

 人的被害がなさそうなのが幸いか。そう思うのも束の間、

『《ゲート》の出現時刻です』

 とイズモに告げられる。

 衝撃でぐちゃぐちゃになったイズモを慌てて再生させ、飛び上がって周囲を確認した。すると、避難所になっている高校の体育館近くに《ゲート》が出現していて――グリラがそれに狙いを定めて、口を開いている。

『駄目だ――――っ!』

 僕は叫びながらビーム砲をグリラに向けるが、遅かった。巨大怪獣の吐く熱線は、容赦なく《ゲート》を襲い、破壊した。

『ああ……』

 と僕が悲嘆に暮れていると、

『今日はこの辺で見逃してやる。じゃあな』

 とだけ言い残して、グリラ――アイオワと融合した亜沙人は飛び去る。

 その巨体に合わせた、莫大な推力があるのだろう。僕らが追いつけないほどの速さで飛び去る怪獣を、僕らは見送るしかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る