任務その三 苦戦(2)

 その戦闘の後、近くの避難所の手伝いに行くと、ウィルフレームたちが、

「食料の備蓄はまだあります。どうか落ち着いてください」

 と、避難者たちをなだめていた。

「そう言われても……。次に《ゲート》とやらが開くまでもつのか?」

「そもそもその《ゲート》もまた壊されちゃうんじゃないの?」

 という不安の声が、避難者たちから次々に上がる。《ゲート》が破壊されたというニュースが、人々にも伝わっているのだ。

 それを見てイズモも、

「我々も、《ゲート》防衛に尽力じんりょくしております。また、念のため食料や物資などを多めに持ってくるなどの対策は取っております。どうかご安心願います」

 と、他のウィルフレームたちと一緒に、避難者たちを落ち着けるための言葉を発した。

 だが僕は、彼らを安心させるための言葉を発することができなかった。



 別の《ゲート》の防衛作戦。今度の出現予定位置は、とある平野だ。

 そして今度の敵は、歩兵の群れ。対空兵器や対戦車兵器などを持っている。

 僕は、例のステルス性重視のガレオンの姿でイズモを動かし、ナイフで地上の敵をなぎ払っていった。だが、敵は細かい上に数が多い。ナイフでなぎ払いきれない敵や、なぎ払われても再生した敵が、僕らの攻撃や地面のへこみから位置を推定したのだろう、ミサイルを撃ってくる。

 被弾。僕は慌ててイズモをその場から移動させた。だが、飛べばロケット噴射の熱でロックオンされ、地面に降りれば土のへこみから位置を割り出され、ミサイルで撃たれる。

『らちがあかない……!』

 と判断した僕は、イズモを火力重視のガレオンに変身させ、ビームやミサイルやガトリング砲弾をばら撒いた。

 敵歩兵がほぼ「全員」被弾して、そして僕らは見つけた。敵の群れの中心にいる歩兵の一人が、被弾でむき出しになった腹にCPUを抱えているのを。

 僕らは、即座にそのCPUをロックオン。ビームで跡形もなく消滅させ、敵を無力化した。

 また敵の、

『ちきしょう……! 貴様らを殺せたかもしれないのに……!』

 という怨嗟の声が聞こえ、僕は吐きそうな気持ちを覚える。

 とはいえ、今度は、《ゲート》の出現の予定時刻までに敵を倒せた。だが、

『どうして《ゲート》が出現しないんだ……!』

 そう。例の半透明の漏斗のようなものが、イズモが出現予定位置だと言う場所に現れなかったのだ。

『量子ゆらぎのせいでしょう』とイズモは告げる。

『量子ゆらぎ? あの、未来は確定していないっていう原理のことか』

 と僕が応じると、

『はい。量子ゆらぎは、人間の魂の意思が神経内の電気信号に影響するなどの微細な形で、人間の精神から物理的な事象にも影響しています』

 と、イズモは答えた。僕が、

『それで、人間の精神が《ゲート》出現に影響したってことか? けどどうして――』

 と僕が問いを続けると、

『人類の集合的無意識ほどの大きな「魂」になれば、《ゲート》の出現や人類全体の行動など、より大きな物理的事象に影響するのです。特に《ゲート》は、物理的に不安定な穴ですからね。人類全体が、《ゲート》による復興は実現しないのではないか、と恐れすぎていることが原因で、《ゲート》が出現しないのかもしれません』

 と、イズモは説明する。それに僕が、

『真宇宙主義者たちのせいか……』

 と続けると、イズモも『その通りです』と答える。僕が『どうすればいい?』と尋ねると、

『これまで通り、真宇宙主義者たちを倒すこと。それによって、《ゲート》による復興への全人類の信頼を回復させること。それしかありません』

 という、ストレートだが困難な答えを、イズモは返してきた。僕は、

『ちきしょう……! 貴様らを殺せたかもしれないのに……!』

 という、さっきの敵の怨嗟の声が脳裏に蘇るのを感じながら、

『分かった……。それしかないよな』

 と答える。



 その日家に帰ると、亜沙人がいなかった。

 それは、さらなる状況の悪化の始まりだった。

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